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太陽の国  作者: ラジオ
第一章 赤髪族反乱編
21/275

‐‐リーン(16)‐‐

 リーンは隣の兵士と一言二言感想を交わしてから、兵士が去っていくのを見送った。

 すると、アリサが興奮冷めやらぬ、上ずった声で言った。

「ねえ、リーン、すごかったね。どうやってあんなにきれいに炎の色を変えられたんだろうね?」

 リーンは答えに詰まった半面、アリサが始終ショーを楽しんでいたようなのをしっかりと見ていたため、嬉しくて仕方がなかった。何か偉業を為し遂げたような達成感が胸に募るのだった。

「俺にもわかんなかったけど、すごかったよな」

「雷の魔法使いたちも仲直りできてよかったね。殺し合うんじゃないかってひやひやしたよ」

 リーンは思わず吹き出しそうになった。最後まで気付かない人がいるとは思ってもみなかった。アリサが不思議そうに見ているのに気付き、説明する。

「あれはショーの演技に入ってたんだよ。俺も気付いたのは、無言のまま滑稽な争いを始めた頃だったかな。下官の兵士さんも気付いてたよ。アリサは意外とおまぬけな女の子だったんだなあ」

 つい笑いながら言ってしまったが、後から、最後の一言は口を滑らせてしまったことに気が付いた。戦々恐々とアリサの顔色を窺うが、「そうだったんだ……」と恥ずかしそうに顔を赤く染めていたので、心の中で安堵の吐息をついた。

 また一つ、アリサの知らない一面を垣間見ることができた気がした。

 二人の前を相乗り馬車が通り、リーンは火照ったテンションが冷めないうちにと、アリサに、テラから使いを頼まれたパン屋のある地区も見て回ろうと誘った。酔ったように上機嫌のアリサは、案の定躊躇いなく承諾し、二人は相乗り馬車に乗り込んで座席の片側に腰を落ち着けた。

 反対側には、すでに僧服姿の初老の男が座っていた。一見すると伝道師のようだった。

 リーンが馭者に「一〇四番地区へ」と告げると、アリサが「ここは何番地区なの?」と尋ねてきた。

「一〇六番地区だよ」

「何番地区まであるの?」

「え……? うーん……」

 リーンが頭を悩ませると、向かいの初老の男が和やかな笑みを浮かべて代わりに答えてくれた。

「二〇八番までですよ、お嬢さん」

 アリサはビクッと反応したが、すぐにおざなりの礼を述べてぺこりと頭を下げた。

「お嬢ちゃんは、我らが太陽の国に来てまだ日が浅いのですか?」

 アリサが警戒心をむき出しにしているのに気付いて、リーンが間を取りもった。

「そうなんです。まだあんまりここの人に慣れていないようで……」

「それはそれは……そうだ、ちょうどいい」

 男は名案を思いついたというように手を叩いた。

「それなら、お嬢さんも他の太陽の民と同様、〈幼き神〉にお仕えすればよろしい。きっと、すぐに太陽の民と打ち解けることができるでしょう」

 男の話は明らかに宗教勧誘へと移っていった。

 現在、主な宗教には、偽太陽と本物の太陽の両方を崇める双太陽信者と、片方の太陽だけを崇める偽太陽信者、太陽信者がある。リーンにとって、どれも王国に自然の恩寵をもたらしていると考えて信仰する点では、あまり大差なかった。〈幼き神〉というのは、偽太陽信者が、信仰の対象である偽太陽を敬って称する名である。リーンが知る限り、その呼称の由来は、本物の太陽が先に存在していることに対し、偽太陽は後から生まれたためらしい。

「今、我らが太陽の国では〈幼き神〉の信者が最も多いことはご存知でしたか? 国の信仰行事を司る聖職省の幹部も、みな〈幼き神〉の信者です。まあ、それも当然のことと言えば当然なのですが。本当にこの国にお恵みを与えてくださっているのは、〈幼き神〉の方なのですから。我らが主は、そのためにこの世に生を受けたのです」

 相当信仰心が篤いのか、偽太陽が命をもっているような言い草だった。今ホーキンスが同乗していれば、偽太陽について詳しく聞けたかもしれないのにと、リーンは少しだけ哀れに思った。偽太陽に対しては人一倍好奇心旺盛なホーキンスなら、この伝道師とすぐに仲良くなれたことだろう。

「すみません。この子はまだこの国の宗教とかあまり知らないんです。宗教については、俺がゆっくり教えていきますので、どうか急かさないでください」

 リーンは少し冷めた口調でまくし立てるように言った。

 相手は他宗教にはやや攻撃的だったが、無理に勢力拡大を企むということもなく、大人しく身を引いた。

「そうですか。どうも宗教勧誘したようで後ろめたいですね」

「別に宗教勧誘は犯罪じゃありませんよ」

 リーンは真面目腐った物言いで返したが、男はそれ以上に真摯な態度で応酬した。

「我々にも暗黙の了解というものがあるのですよ。犯罪を犯す悪者がいれば、犯罪に問われない悪者もいます」

 リーンは何となく心がむしゃくしゃとした。リーンにとっては、悪い行いを列挙したものが犯罪であり、犯罪を犯さなければ悪者であるはずがないと考えている。そうでなければ、この国には悪者が平然と暮らしていることになる。そんなことはあってはならない。悪者は全て、懲らしめて更生させるか、二度と街を歩かせないようにしなければ、街から犯罪は消えない。リーンはこの考えを改めるつもりはなく、これからも貫き通すつもりでいた。

「それでは、私はここで」

 同乗していた伝道師の目的地は一〇五番地区だった。聖職省本部もまた、ここ一〇五番地区にあった。

「あの人、きっと偉い人だよ」

 伝道師が馭者に賃金を払って下車したのを見計らって、アリサが断言した。鋭い目で窓から男を睨んでいる。

「どうしてわかるんだ?」

「何となく、堂々としていて、権力をもっているように見えた」

 リーンには、アリサが言葉以上に男に対して敵意を抱いているように思えた。はっきりとは言葉にできない何かがあるのかもしれない。

「そうなのか……となると、たぶん聖職省幹部の祭司だったんだろうな」

 馬車は再び、活気に満ちた喧騒の中を走り出した。


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