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竜契の巨人 血を啜れ約束を果たせ 闘技場の王  作者: 織部


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敵陣包囲

「くそ! 他の組はどんな方法を取ったんだ?」

 歯を食いしばりながら、俺――トルサンはカインに尋ねた。視界の端には、倒れたまま動かない仲間と、うめき声を漏らし運ばれた負傷者の姿が焼き付いて離れない。


「他の組は、集団戦だよ」

 カインは淡々と答えたが、その目はわずかに伏せられていた。


「チェン老師の軍は、ドワーフ カザムの作った魔道具の投げ輪を使って魔蛇を締め上げて、動きを止めたところに、暗殺剣士フウマ特製の溶解液を投げつけたらしい」


 確実に拘束し、確実に仕留める。無駄のない戦い方だ。

「ファーリスの軍は、鋼の縄で吊り上げてから、弓矢で一斉攻撃だってさ。近づかずに削り切ったみたいだ」


 遠距離からの集中攻撃。リスクを極限まで抑えた戦法。

 どちらも、冷静で、合理的で――そして何より、生き残るための戦い方だった。


「……つまり、結果として一番被害を出してしまったのは、俺の組だな」

 自分の声が、やけに乾いて聞こえた。否定してほしいという情けない期待が、胸の奥でわずかに揺れる。


「そうなるね」

 だがカインは、はっきりと現実を突きつけた。

 判断を誤ったのは俺だ。もっとやりようはあった。もっと、被害は減らせたはずだ。

「……息のある奴は、俺が看病する」


 言葉にした瞬間、胸の奥の迷いがすっと消えた。

 部隊の長として、やるべきことはひとつしかない。


「でも……」

 カインが何か言いかける。おそらく、止めるべきか迷ったのだろう。俺の立場や、背負っているものを考えれば当然だ。


 だが、

「……いや、そうするといい」

 結局、カインは止めなかった。 俺の選択を、そのまま受け入れた。


 ――これは俺の誤りだ。

 秘密を守ることよりも、長としての償いを優先する。

 その覚悟を、カインは理解していた。だからこそ、何も言わなかったのだ。

 俺はゆっくりと息を吐き、負傷者たちのいる方へと歩き出した。


 大魔蛇を狩った俺たちは、翌朝、敵の陣地に向かって進軍を始めた。意気揚々と、魔蛇の死骸を先頭に。


 我々を圧倒的に上回る兵力を待つ彼らは、陣地から出てくるつもりは無く、防御陣形を展開する。


「まあ、そうだろうな」

 櫓の上や、矢狭間に、弓兵が一斉に並んでいる。だが、その顔には悲壮感が漂う――戦う覚悟ではなく、耐える覚悟の顔だ。


 俺たちは矢の届かないところで進軍をやめる。

「どうする?」

 この軍の頭脳であるカインに尋ねる。

「そうですね。回り込みましょう。そして、鉱都と敵陣の間に、我が軍も陣をひきましょう」


「だが、闘技場の守りが薄くなる。陣を撃って出てくるだろう?」

「それな無いな」

 俺たちのさらなる進軍に、敵陣地から驚きの声が上がる。


 それでも動きが無い。様子を眺めてるだけだ。

「奴らが、陣地から出てきて攻撃したら、進軍中の俺たちは横っ腹を喰われるんじゃないのか?」


「横っ腹って……その通りだよ、トルサン。さっきも言ったよね。そんな度胸は奴らに無いよ」

「じゃあ、どうなったら戦うんだ?」


 俺には理解不能だ。何故、戦場に出てきたんだ。

 俺たちも、簡単な陣地を作った。そして、その夜軍議を開いた。


「それで、夜襲か?」

「いいえ。我らのすることは、補給を断つこと。輸送船の拿捕です」

「はぁ……つまらん」


 大人数が布陣している敵軍には、当然、大量の物質が必要だ。食糧も、そして何より水も。

 どの部隊も最初は不満そうだったが、始めてみると意外と面白い。


 遠回しして、隙をつこうとする船。正面突破しようとする船。

「俺には、全て見えている!」

 誰よりも、夜目が効く俺が指揮をとる。

「じゃ、俺たちの出番だな」


 牙狼族のガロウと暗殺部隊のフウマが、夜襲中止以来の戦闘で張り切っている。

 補給を受け持つ子狐家の高速艇は、熟練度が高い警備兵が数名乗り込んでいる。


 元は、俺たちと同じ闘技場出身者も多い。顔見知りだったり、知り合いだったり。

 彼らは、本気では無く、試合感覚で俺たちと闘う。いや模擬試合だ。お互いに命までは取らないし、一対一だ。


 戦場のはずなのに、死の匂いがしない。歓声すら聞こえてきそうな錯覚に、思わず苦笑する。

「次は誰だ? そんなんで、シャーヒナ様を守れんぞ!」

「小狐の使いの癖して先輩ずらか? 俺と戦え!」


 相手のいない奴は、観戦をして楽しんでるくらいだ。まるで、河原での訓練風景だ。

「おい、何してる? 俺たちの使命は、兵糧と水を運び込むことだ」


 小狐家の船頭たちは、戦いを避けようとしているのに、警備の兵が邪魔をする。

「ああ、だが、ここで背を向ける訳にはいかんだろう。手土産にひと暴れだ」


 そんな声も、俺の耳に届く。

 思わず笑いがこぼれる。三文芝居もいいところだ。……だが、その芝居が続く限り、誰も死なない。


 結果、他勢に無勢。囲まれて輸送船は撤退を余儀なくされる。

「逃げるぞ、早く乗れ!」


 険しい表情で船頭たちは、警備兵を拾い上げると、鉱都にすごすごと引き上げていった。


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