最終話「今日も花子は元気です」
「赤っ!」
「いやあ、意外っすね……花子さんが赤を選ぶとは……」
会社近くのレンタルカー屋さん。
私チョイスのレンタカーを見て、叫ぶ津田さんがと苦笑する橋元くん。
津田さんは花柄ワンピース。橋元くんはデニムシャツ。あいも変わらずオシャレだなぁ。
……はい、そんな美男美女に挟まる花子は黒のカーデガンに黒のチノパンです。でもね、ちょっとだけ自分で化粧したから、コケシではないと思うのですよ。出会い頭に絶叫した津田さんに駅のトイレに連れ込まれ、化粧を直してもらったし。花子も年頃のプライベートスタイルになっている……はず!
「えーと……目立った方が、まわりの車が避けてくれるかなって?」
死ぬまでのノルマはてんこ盛りだ。
給料日明け、三月終わりの土曜日。もうすぐ、御手洗花子は二十五歳になる。
もう人生の四分の一は終わろうとしているのだ。とりあえず車の運転くらいできるようにならないとね。デスカーをブイブイ言わせないといけないらしいし。
「まぁ、とりあえず乗ろうよ。津田さんの彼氏を迎えに行かないといけないんでしょ?」
そう率先して運転席に乗り込む私。アクセル。ブレーキ。えーと、ミラーの角度を変えて……あと何するんだっけ?
「ほら、花子さん。鍵回して」
「あ、そうそう」
隣に座る橋元くんが、めっちゃ心配そうな顔で指摘してきます。後ろ乗った津田さんもシートベルトをギリギリまで伸ばして身を乗り出す。
「花子ちゃん。サイドブレーキを動かしてから、アクセル踏むんだよ? アクセルは小さい方だからね。大きいのがブレーキだから」
「わかってるよー………たぶん」
「多分⁉」
ごちゃごちゃうるさいなぁ。教習所以来なんだから……ちょっと忘れてただけじゃん。
二人があまりにうるさいから、私は先に音楽をかけることにする。
スマホと接続して……ほら、ちゃんとドライブミュージックを用意してた私、偉いでしょ? 褒めて褒めて♡
そして流れ始めた緑の中を赤い車がブイブイ走り抜けそうな音楽に、
「ふっる!」
「てかこれ、事故に遭う曲じゃありませんでしたっけ⁉」
なんてツッコミが入るが、安心するがいい。次の曲はまっさかさまに落ちるぞ。その後はしがないその日暮らしの始まりだ。
「さて、しゅっぱーつ!」
と意気込んで足を踏み込むものの、車は進まない。あれ?
「花子さん、ブレーキ踏んでる」
「おや?」
「花子ちゃーんっ⁉」
御手洗花子、もうすぐ二十五歳。そしてもうすぐ正社員。
まだまだ、死神のお迎えは来ないらしい。
《完》




