幼馴染との再会
「ああ、やっぱりディオにもそんな感じだったんだ」
一週間で準備しろと言われたものの、その間に依頼がないかといえばそういう訳にもいかず。
結局ユリエスに会えたのは依頼を受けてから一週間後、つまり入学式の日だ。
「しっかしいつの間に入学試験なんて受けてたのかね俺たち」
入学式で自分の能力に見合ったクラスを発表すると書いてあったが、まず俺たちは試験があったことも知らないし、そもそも手続きなんてものは一切していない。
「そこは師匠だからなぁ」
「だよなぁ。んで、お前はどのくらい?」
「魔力は普通、だけどコントロールは抜群で魔法省を目指す、だってさ」
「お、師匠を蹴落すか?」
「そんな事するつもりもないし、出来るはずもない」
「なんにせよ、決まりだな。お前が上で俺が下」
視察じゃなくてわざわざ入学させてまでってことはそれなりの時間をかけないといけない任務だってことだ。
ならその役割はしっかり全うしないとな。
「なぁ、ユリエス。俺本当にここに通うのか」
「……さっきからそう言っているだろう」
「俺、魔力があるってだけで全然魔法うまくないんだぞ」
「それを学ぶためだよ。僕ももっとたくさん勉強したいし」
チラチラと人の姿が見え始めたあたりで少しだけ音量を上げ、周りに聞こえるように口にした話題。
全寮制な上にどんな身分だろうと身の回りのことは全て自分で。入学前にそんなお達しが来ていることもあり、学園の門をくぐるのはほぼ、というか今のところ俺たち以外はみんな一人。貴族なら顔見知りなんかもいるんだろうけど、この状況であえて声をかけることもない。
不安そうにしている奴も悠々と歩いている奴もいるが、目線を送ってきていた奴らにはこちらの会話が届いたのだろう。追い越して先に門をくぐる時には納得したような表情を浮かべていた。
「全く、ディオのその切り替えの早さには感心するよ」
「こんなもん、普通だろ。
あ、おいユリエス、こっち向け」
式典用だと渡された制服に結ばれたタイはお世辞にも綺麗だと言えず。
首のタイを解こうとするとユリエスがほんの少しだけ身を屈めた。昔は俺のほうが高かったのに今では拳一つ分ほど開いた身長差を思い知らさせる。
続々と集まってくる新入生は門の端でタイと格闘する俺たちにチラリと目線を向けてくるが、すぐに門をくぐって行ってしまう。
「よし、こんなもんだろ」
「ありがとう、ディオ。やっぱり手先器用だよね」
「この程度も結べないお前が不器用なだけだ」
ようやく門をくぐり、周りの人目がこちらに向いていないことを確認してからユリエスに目線を送ると、同じ事を思っていたようで軽く頷いて返された。
「情報収集も兼ねてちょっと長く居たけど、収穫はあまりなかったね」
「あの視線の主だけは気になるけどな」
「ディオも感じてた? 悪い感情ではなさそうなんだけど……」
「そうなんだよな。俺らのこと知ってる奴なんていないし」
魔法省の任務では顔を見せないように仮面をつけるのがルール。素顔がわからないのもなかなかミステリアスでいいだろう? なんて冗談めかしていたけど、下手に顔を覚えられると逆恨みされたりすることがあるから、とも。
性別も分からないように任務の時は全員同じローブを着ているし、他のやつらに比べて現場に出ることの多い俺たちは毎回髪色を変えている。師匠のように魔力の流れを見れるくらいの実力がないと魔法省の人間、特に俺たちの事を判別するのは不可能だ。
「ま、何とかなるだろ」
「そうだね、始まる前から心配していてもしょうがない」
まだ任務は始まったばかりなんだし、魔法に関してならある程度のことは自分で対処できるように俺もユリエスも仕込まれている。二人でいる時はもちろんだが、一人の時に何かあってもそれなりのことは出来るだろう。
「それじゃ、人生初の学校生活を楽しみますか」