次の任務
「おかえり。話は聞いてるよ」
入室伺いのノックなんてすることもなく扉を開けたが、書類から視線を外すことなくかけられた言葉。
もちろんそれは正しく自分にかけられた言葉で。魔力の流れを自然に、それこそ意識することもなく当たり前のようにしているから目で確認しなくても対象を間違えたりはしない。
魔法以外で動いているものの方が珍しいこの建物の中で個人の魔力で相手を確認する、なんてどんだけ精密なコントロールが必要なのかは、もちろん分かってるんだろう。
「先方も喜んでいたよ、まさかあれだけ派手な魔法を使うとは思っていなかったみたいでね」
「それなりの使い手がいるように見せて盗賊を散らすのが依頼だったろ」
「恐れをなして自ら投降したのもいたらしい。大手柄じゃないか」
盗賊といっても騎士崩れの面倒くさいやつはいなかったし、ただちょっと楽をして稼ぎたいと思っている奴らばっかりだった。その手の奴には敵わないとさえ思わせてしまえばあとは簡単。
「先に言っておくが、誰にも怪我なんてさせてないからな」
「知ってるよ」
話は聞いてるといったじゃないか、なんてぼやきつつ書類のサインを終えた羽ペンを置いた。ようやくこちらの顔を見て、そして笑う。
「うん、ディオも怪我なく帰ってきたね。満点だ」
「当たり前だろ、この程度の依頼」
「そうだね、さすが私が育てただけある。……ただ」
「ただ?」
別れ際、依頼してきた村長に不備を聞いたが何もなかったはずだ。村を出てから一応、盗賊たちが拠点にしていた洞窟も見に行って残党がいないことも確認してきた。
それは村に伝えずに帰ってきたが、別れてからそれほどの時間は経っていない。
「威嚇で出した氷、この暑い中でもなかなか溶けないものだからね。
どうしたものかと村長が頭を抱えているみたいだよ」
「……鳥からか」
「まぁね。で、どうしたい?」
「村のチビ達が喜んでたからそのままにしてきたんだが、邪魔になるなら消しに行く」
想像通りの答えだったらしく、目の前の顔が“綺麗”な笑顔を見せる。
「きっとそう言うだろうと思ってね、村長にもう話はつけてある」
「ならすぐに―……」
「その必要はないよ。もうすぐこの王都に夏の必需品だと言って売り込みに来るはずだからね」
さっきの笑顔の理由はこういうことだったか。この暑さの中なら氷は多く売れるだろう。それは、盗賊騒ぎで打撃を受けた村の収入になる。
「そしたら次の仕事はその売り込みの手伝いか?」
「ディオ、私だって流石に仕事の向き不向きは把握してるよ。売り子にはユリエスとリーンに行ってもらう」
「なら、わざわざここに呼び出したのはどういう用件だ?」
そう言うと、綺麗な笑顔から一転、にんまりと何かを企んだような表情をする。きっとこれはろくなもんじゃないということを経験しているので、隠すことなく大げさにため息をついてみせた。
「おや、上司の前でそんな態度でいいのかい?」
「何をいまさら。ガキの頃からこんな態度だって知ってるだろ、師匠?」
「そうだよ、師匠としては君の態度は常々気にかかっていてね。この際一から学び直してもらおうと思って」
手渡されたのは、白地の封筒。中を見れば金文字で入学案内と書かれた紙に何枚かの資料。やっぱりろくなもんじゃなかった。
「魔法学校に入学しろってことか」
「式は一週間後、寮生活になるからそのつもりで準備してね」
「ここで働いてるのに今更学校なんて……」
「魔力はそれなり、大雑把な性格でコントロールがあまり得意ではない」
「!?」
「それがそこでの君の役割だ」
一瞬、詰めた息をゆるゆると吐き出し頭を切り替える。
「ちなみに、ユリエスも一緒だからそのつもりでね」
「は?]




