始まり
「次の授業覚えてるか、ユリエス」
「薬草調合の実習だよ。午後一番で温室に行かないと」
午前の授業が終わってすぐに飛び込んだ購買で中身を見ることもせずに買ってきたのは、ソーセージが挟まった白パン。口の中を空にしてからレモネードで喉を潤す。
ちょうど木の陰で日差しは遮られているのに、じんわりと汗がにじむくらい暑くなった最近では冷たい飲み物が手放せない。
「それ、ホットドッグ、だっけ? 最近売り出し始めたのに人気だよね」
「ああ、そういえば同じようなパンたくさん出てたな」
「どこかの令嬢が始めたんだって。よくこの短い時間で浸透したよね」
最後の一口を放り込もうとした時に聞こえたユリエスのしみじみとした呟き。
どこにでもあるソーセージに白パン、トマトを使った調味料は初めてだったが酸味がちょうどいい。
令嬢とは簡単に結びつくものではないが、昼食の選択肢がひとつ増えた上に美味い物が手軽に食べれるようになったのはありがたいことだ。
「それよりもディオ、そろそろ温室に向かわないと間に合わないよ?」
ここからだとちょうど校舎を横断しないと行けないんだから、と言いながらさっと立ち上がったユリエスの手には一口分のホットドッグ。流れるようにユリエスの口に入ったそれは自分が食べようと思っていたもので。
「おいこら、ちゃっかり取っていくんじゃねえよ」
「文句は自分で授業の管理ができるようになってから聞こうか」
「だから俺には向いてないって言っただろうが」
「それは僕じゃなくて彼女に言ってもらいたいね。決めたのは彼女だ」
さくさくと音を立てながら先に向かうユリエスの背中を追いかけながら、よぎるのは紙を突きつけてきた時のあいつの企んだような笑顔。
ろくなことじゃないだろうと感じた予感は、事実思っていたよりも面倒だ。
「サボり癖のある幼馴染に苦労している、なかなかさまになってるだろう?」
「へーへー、見た目優等生に連れられてるのにも慣れたさ」
目測三歩ほどの距離で待っているユリエスの隣に並ぶために重い腰を上げる。
「そいじゃ行きますか」
木陰から踏み出せば、思ってたよりも眩しい日差し。雲のない抜けるような空の青さに思わずあいつの瞳の色を思い出した。
ゆるっとふわっと見切り発車で飛び出しました。
どうぞよろしくお願いします。