さん
少し短いかもしれません。
「若葉は帰ってたかい?」
「ええ。真純、貴女もちょっかい出し過ぎない」
「あいたっ!」
真純の頭を軽く小突いて、周りの様子を観察していく。水上が着替えに行った事を見て、去って行くギャラリー達。その中でも数人の生徒はまだ残ったまま。彼女達の目的は、目の前に居る真純だ。
「ほら、他の部員達も片付け済ませて、更衣室へ行ったのだから、私達も着替えてかえるよ」
真純の右腕を捕掴まえて、弓道場を後にする。
鍵は、顧問が最終確認をしてから掛けられる。
「暴力はんたーい」
「誰が暴力だ。あんたが大人しくしないからでしょ」
「はいはい」
真純目当ての生徒達も、私達が弓道場を出ると解散となる。中には、この機会を狙って告白してくる輩も居るが、隣に居る私を見て、早々と去って行ってしまう。去るのなら最初から告白しに来なければ良いのに。
「文香? 眉間にシワ寄ってるけどどした?」
「シワを寄せる様な事させてるのは何処の誰?」
「ごめんなさい」
「全く······」
更衣室の中へ入れば、既に部員達は帰った後だった。私達もさっさと着替えてしまわないと、下校時間はとっくに過ぎているので校門が閉まってしまう。
「真純、急いで着替えないと門閉まるよ」
「文香···」
「ちょ、ちょっと···」
お互い下着姿のままで、真純に背後から抱き着かれた状態だ。早く着替えないと本当に学校から出られなくなる。だけど、抱き着いてきている真純はそんな事お構い無しに、抱き締めている腕の力を更に強めてきた。
「ちょ、真純。早く着替えないと···」
「そうだけど···少しだけこのままで居させて」
良く見ると、抱き着いてきている真純の腕が震えていた。
振り返り彼女を見ると、涙で顔中濡れていた。
「真純」
「一人にしないで···私を置いて行かないで···」
「···置いていくわけ無い。真純を一人になんてさせない」
「ほんとう?」
「嘘はつかない。私はずっと真純の傍に居る」
正面から真純を抱き締めてやると、真純も抱き返してくれる。
普段は好き勝手な事をしているが、本当は誰よりも臆病で、怖がり、そして寂しがり屋。
そんな真純の全てを知っても、私は変わらずにずっと一緒に居る。それは真純を好きになった時から変わらない。
「文香···好き」
「私も、真純の事好きだよ」
最初は軽いキスから、だんだんと舌を絡める濃厚なキスに変わり、気付けばお互いの服は乱れていた。
最後にもう一度『ちゅっ』と軽くキスをして、どちらからとも無く顔を離す。
「帰ろっか」
「······門閉まって無ければ良いが」
鞄を手に取ると、寄り添う様に更衣室を後にした。