#9「特定班、動く」1
ドレイクが我に返ったのは、数秒後だった。
薄紙のようになった鱗の下で、赤黒い肉が空気に晒されている。竜は理解できないという顔で首を振り、次の瞬間、尾を横薙ぎに振るった。狙いは、尻餅をついたままのアマネだ。
「うわっ!」
尾が届く寸前、ドレイクの巨体がわずかに沈んだ。重心に、ほんの少し重力をかけただけだ。尾は岩棚を叩き、足元に亀裂を走らせるにとどまった。
「今よ、アマネ!」
カサネが、掠れた声で叫ぶ。アマネは跳ね起き、大剣を両手で振りかぶった。狙いは首の付け根。
刃が触れても、抵抗はほとんどなかった。
巨大な頭部がゆっくりと傾き、岩棚に落ちる。轟音と溶岩の飛沫。それから、静寂。
俺は切断面に、冷却の魔法を一滴だけ落としておいた。誰にも見えない角度で。肉は鮮度が命だ。
「……やった」
アマネが、剣を握ったまま呟いた。
「やったああああ! 私、倒した! 自力で倒したよ!」
「ええ、そうね。熱線の屈折は、大気中の魔力密度勾配によるレンズ効果。鱗の崩壊は、急激な熱疲労が原因よ。つまり、あなたの一撃は理論上、最適だった」
カサネが座り込んだまま、真顔で分析する。魔力切れで顔は真っ青なのに、理屈だけは健在だった。
「やっぱり私、覚醒したんだ! 三回目!」
「覚醒は一回よ」
「三回やったから三回覚醒したの!」
俺は二人の間にタオルを差し出した。カサネが無言で受け取り、そのまま鞄に滑り込ませる。見なかったことにする。
『主様。冷却魔法は、必要だったのでしょうか』
「必要だ。夕飯がかかってる」
『…………』
視界の端で、レイナが細剣を握ったまま、ずっと立ち尽くしていた。アイスブルーの瞳は、倒れたドレイクではなく、こちらを見ている。
アマネの大活躍に、感動しているのだろう。そう思って、俺は軽く会釈しておいた。
*
ギルド前線基地の解析室は、戦場だった。
モニタの前に、解析班の真壁が貼りついている。眼鏡の奥の目は充血していた。
「出ました。決定的です」
画面に、一本の波形が表示される。
「ドレイクの鱗が崩壊した瞬間の魔力波形です。出力は推定で、一国の防衛軍が総力を挙げた攻撃に匹敵します。にもかかわらず、周囲の魔力計は、ほとんど反応していません」
「どういうことだ」
ギルドマスターの鷹宮ゲンゾウが、腕を組んだまま問う。
「極限まで精密に、一点に圧縮されていたということです。発生源は、ドローンの後方二メートル三十センチ。座標が、ぴたりと一致します」
「人物がいる位置だな」
「はい。さらに」
真壁は別の映像を呼び出した。配信には映らない、ドローンのログデータ。
「あのドローンの胸部には、本体の死角を補う副レンズがあります。ギルドの技術班が、中継のために生ログを取得しました。そこに」
真壁の指が、再生ボタンを押した。




