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ビビリなのに幽霊が寄ってくるんだが!?〜昭和オカルト作家・小野田レイの怪異取材録〜  作者: 雪だるま


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7

 一九八一年、春。


 オカルトブームはさらに加速していた。


 テレビでは心霊特集。


 雑誌では呪い特集。


 本屋には怪談本が山積み。


 つまり。


 小野田レイは完全に調子に乗っていた。


「のだっ♡時代が吾輩を求めてるのだっ♡」


 クソ汚いアパートの鏡の前。


 レイはなぜかサングラスをかけ、さらに付け髭まで装着していた。


 全然似合ってなかった。


「…………」


 後ろでは白衣の女幽霊が静かに見ていた。


「……なにしてるの……?」


「変装なのだっ♡」


「……なんで……?」


「有名人には必要なのだぁ!」


 レイは胸を張った。


「最近、吾輩の記事が売れてるのだっ♡」


 実際、そこそこ売れていた。


 赤窓病院シリーズは妙なリアリティで人気が出始めていたのである。


 大学生が書いた胡散臭いオカルト話のくせに、描写だけ異様に生々しい。


 一部読者の間では「こいつ本当に見たんじゃないか?」と噂になっていた。


 当然。


 レイは増長した。


「のだっ♡つまり第二弾なのだっ♡」


 机の上には大学ノートが積み上がっていた。


 大量。


 しかも全部びっしり文字。


「……これ全部……?」


「お主の病院体験談なのだっ♡」


 女幽霊は少し青ざめた。


「…………」


 レイは最近、女幽霊から“病院で見た人間たち”の話を聞きまくっていたのである。


 夜勤看護婦の不倫。


 患者同士の揉め事。


 遺産争い。


 家族の見舞い。


 終戦直後の混乱。


 消えた薬品。


 隠された死体。


 そして。


 人間同士のドロドロ。


「いやぁ〜〜〜人間って怖いのだっ♡」


 レイはニヤニヤしていた。


「幽霊より金と人間関係の方が怖いのだぁ!」


「…………」


 女幽霊はなんとも言えない顔をした。


 というか。


 最近ちょっと後悔していた。


 この男。


 同情したらダメなタイプだったのでは。


「のだっ♡特にこれ最高なのだぁ!」


 レイはノートをめくった。


「“戦後、病室で遺産相続の話してた家族が患者本人死んだ瞬間だけ泣き真似した話”!」


「…………」


「人間の醜さ最高なのだっ♡」


「……それ……載せるの……?」


「当然なのだぁ!」


 レイは即答した。


「読者はこういうの好きなのだっ♡」


 最低だった。


 数時間後。


 都内。


 雑居ビル。


 出版社。


 編集部の扉が勢いよく開いた。


「来たのだぁあああ!!」


 編集者たちが顔を上げる。


「うわ、また来た」


「赤窓病院の変な大学生だ」


「のだっ♡人気作家先生なのだっ♡」


「その髭なんなの?」


「正体隠しなのだぁ!」


「全然隠せてない」


 レイは気にせず原稿をドサァッ!!と机に積み上げた。


「新鮮な恐怖なのだっ♡」


 編集者は引いていた。


「多くね?」


「全部実話なのだぁ!」


「まだ言ってる」


 編集長らしき中年男が煙草を咥えながら原稿をめくる。


「……ん?」


 手が止まった。


「なんだこれ」


「のだっ♡」


「前より怖くなってないか?」


 レイはニヤァ……と笑った。


「今回は“人間”メインなのだぁ!」


「……人間?」


「幽霊より怖い人間特集なのだっ♡」


 編集者たちは顔を見合わせた。


 時代的にはまだ珍しい切り口だった。


 単なる怪奇現象ではなく、“病院に集まる人間の闇”。


 しかも妙にリアル。


「……これ、お前ほんとどこで取材した?」


「企業秘密なのだっ♡」


 実際には幽霊直伝である。


 編集長はページをめくり続けた。


 表情が少しずつ真面目になる。


「……いや、これ普通に面白いぞ」


「のだっ♡」


「怪談っていうか、人怖系だな」


「人間最低なのだっ♡」


「お前が言うな」


 レイはソファへふんぞり返った。


 完全に大物気取りだった。


「好きなだけ使えなのだぁ!」


 バァン!!と机を叩く。


「吾輩にはまだまだネタがあるのだっ♡」


「……なんでそんなにあるんだよ」


「ふっふっふ……」


 レイはサングラスをクイッと上げた。


「吾輩には“情報源”があるのだぁ」


「絶対ろくでもないな」


 すると。


 編集部の隅。


 白衣の女幽霊が静かに立っていた。


「…………」


 編集者たちは当然見えない。


 女幽霊は少し不安そうだった。


「……大丈夫かな……」


「のだっ♡大丈夫なのだっ♡」


 レイは小声で返した。


「人間は怖い話が大好きなのだぁ!」


「……そういうもの……?」


「うむ!」


 レイは断言した。


「怖い怖い言いながら読むのだぁ!」


「…………」


「そして金になるのだっ♡」


 結局そこだった。


 編集長は煙草を揉み消した。


「……よし」


「のだぁ?」


「これ連載増やす」


「のだぁあああああ!!」


 編集部にレイの絶叫が響いた。


「勝ったのだぁあああ!!」


「ただし締切守れよ」


「作家先生は忙しいのだぁ!」


「大学行け」


 レイは聞いていなかった。


 脳内では既に未来予想図が始まっていた。


『映画化』


『サイン会』


『美女ファン』


『高級車』


『印税』


「のだっ♡昭和ドリームなのだっ♡」


 一方。


 白衣の女幽霊は編集部の壁に貼られた雑誌表紙を見ていた。


 “恐怖!”


 “呪い!”


 “怨霊!”


 全部、人間が勝手に怖がっている。


「…………」


 そして。


 その中心で一番楽しそうなのが、目の前の馬鹿大学生だった。


「……なんでこの人……こんな元気なの……」


「のだっ♡金の匂いがするからなのだっ♡」


 女幽霊は静かに思った。


 たぶん。


 この男。


 幽霊より厄介である。

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