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ビビリなのに幽霊が寄ってくるんだが!?〜昭和オカルト作家・小野田レイの怪異取材録〜  作者: 雪だるま


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23 寿ハイツ二〇三号室にて

 一九八二年。


 梅雨。


 午前九時四十分。


 小野田レイのアパート――寿ハイツ二〇三号室。


 相変わらず地獄みたいに汚かった。


 床には原稿。


 カップ麺。


 煙草。


 靴下。


 コンビニ袋。


 謎のオカルト雑誌。


 そして。


 壁には自分の記事切り抜きが大量に貼ってある。


『恐怖の新鋭!』


『実録怪談界の異端児!』


『次世代オカルトライター・小野田レイ』


「のだぁ……」


 その中心で。


 レイは布団に埋まっていた。


 完全にダメ人間だった。


「……今日は同業オカルト作家に会う日なのだ……」


 死んだ声で呟く。


「面白いネタのために起きなきゃなのだ……いや、あと三十分は寝たいのだ……」


 布団へ顔を埋める。


 すると。


 部屋の隅。


 白衣の女幽霊が静かに立っていた。


「…………」


 最近、完全に同居人ポジションである。


「……起きないの……?」


「無理なのだぁ……」


 レイは半目だった。


「昨日、締切で朝四時まで原稿だったのだぁ……」


「……でも約束……」


「分かってるのだぁ……」


 レイはモゾモゾ布団から顔だけ出した。


「有名オカルト作家の先生と会うのだぁ……」


「…………」


「ネタを盗まなきゃなのだぁ……」


「最低……」


「業界研究なのだっ♡」


 なお。


 実際、今日は雑誌編集部経由で、既に売れている中堅オカルト作家と会う予定だった。


 レイより十歳ほど年上。


 テレビにもたまに出る。


 心霊スポット取材の大御所。


 つまり。


 レイにとっては完全に“業界の先輩”である。


「のだぁ……」


 レイは天井を見た。


「絶対怖いのだぁ……」


「……幽霊より?」


「人間の業界人の方が怖いのだぁ!」


 割と本音だった。


 すると。


 白衣の女幽霊が少し考える。


「……でも同じ仕事の人……」


「のだぁ?」


「……友達できるかも……」


「…………」


 レイは真顔になった。


「のだっ♡」


「……?」


「売れてる人と仲良くなれば仕事増えるのだっ♡」


「…………」


 即座に打算だった。


「テレビ局紹介してもらうのだっ♡」


「……最低……」


 その時。


 突然。


 ドンドンドンドン!!


 アパートの扉が叩かれた。


「小野田ぁ!!」


「のだぁ!?」


 編集者だった。


「まだ寝てんのか!?」


「死ぬのだぁ!!」


 レイは布団ごと転がり落ちた。


 時計を見る。


「のだぁぁぁ!!」


 集合時間まで三十分しかない。


「遅刻なのだぁ!!」


 部屋は地獄。


 服も散乱。


 顔も寝癖。


「開けるぞー!」


「待つのだぁぁぁ!!」


 レイは慌てて服を探し始めた。


 なお。


 洗濯してない。


「臭いのだぁ!?」


「当たり前……」


 白衣の女幽霊が少し引いていた。


 レイは床から黒シャツを拾う。


「これでいいのだっ♡」


「絶対ダメ……」


「作家っぽいのだっ♡」


 ちなみにかなりヨレヨレだった。


 しかもインク汚れ付き。


 レイは鏡を見る。


 寝癖。


 クマ。


 死んだ顔。


「のだぁ……」


「……大丈夫……?」


「吾輩、最近ちょっと売れてるだけの大学生なのだぁ……」


「……うん……」


「なのに本物の業界人に会うのだぁ……」


 レイは急に緊張してきた。


「怖いのだぁ……」


「……頑張って……」


「のだぁ……」


 その時。


 編集者がまた扉を叩く。


「おーい!」


「今行くのだぁ!!」


 レイは慌てて髪を整えた。


 なお。


 なぜかサングラスをかけた。


「なんで……?」


「作家オーラなのだっ♡」


「胡散臭い……」


 レイは鞄を掴む。


 中には。


 自分の掲載雑誌。


 原稿。


 そして。


 名刺。


『怪談実録作家・小野田レイ』


 最近作った。


 自費で。


「のだっ♡」


 レイはニヤリと笑った。


「今日は業界の頂点へ近づく日なのだっ♡」


「……さっきまで寝てたのに……」


「人間、勢いが大事なのだぁ!」


 扉を開ける。


 編集者が呆れ顔で立っていた。


「遅ぇ」


「大物は遅れて来るのだっ♡」


「お前まだ大物じゃねぇだろ」


 レイはアパートを出る前に振り返った。


「のだぁ?」


 白衣の女幽霊は部屋の隅に立っていた。


「……行ってらっしゃい……」


「うむっ♡」


 レイは親指を立てた。


「業界を支配してくるのだっ♡」


「絶対無理……」


 そして。


 ドアが閉まる。


 静かになった部屋。


 散らかった原稿。


 カップ麺。


 薄暗いアパート。


 白衣の女幽霊は静かに座った。


「…………」


 最初は。


 ただ怖がって逃げるだけの男だった。


 なのに今では。


 オカルト業界に片足どころか両足突っ込んでいる。


「……変なの……」


 小さく笑う。


 一方。


 階段を降りるレイは、既に別の意味でパニックだった。


「のだぁぁぁ!!名刺忘れたのだぁぁぁ!!」


 再び部屋へダッシュで戻ってきた。

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