5話 空の騎士(6)
◇◇◇
「動いて!! 動いてよ!!」
アタシは、自分の身体に叫ぶ。
魔力の波で、戦闘が始まっているのは理解できた。だから、状況を確認するために、動いてと叫ぶ。
「アタシの役目は、連絡!! 状況を確認しないと!!! だから動いてってば!!」
座りこんで立てない太ももを拳で叩く。――叩き続ける。
なのに、痛みは感じるのに、ぜんぜん立てなくて。
拳で叩き続けた太ももの鈍い痛みで、腕が止まった。
「魔物は倒せないのに……倒せるモノなんて、中レベル魔獣くらいなのに……!!! 憧れの〈混沌の矛盾〉の方の役に立てるチャンスなんだよ!? 動けって言ってんの!!」
アタシは泣きながら叫んだ。その瞬間、感じる魔力に禍々しさが加わる。
「これ……もしかして……魔具……」
今回、世界最強である魔導騎士団のお2人の任務は、魔族が使っていたとされる、魔具と呼ばれる道具の回収だった。
ふつうなら魔具の回収は、世界最強の〈混沌の矛盾〉の方が1人と、連絡役だけで行かれると聞く。
でも今回、魔導騎士団の総司令官にして〈混沌の矛盾〉の団長、守上さまは〈混沌の矛盾〉からお2人を派遣した。
そのことを不思議に思っていたけれど、その魔力が消失するのに時間がかかっているのを感じていたアタシは、手間取っているんだと認識する。
(黒咲さまとレンさまがいて、手間取るなんて……)
そう考えていた時だった。――冷気が、前の方からやって来る。そして――数十秒が経過した時、その禍々しくて膨大な魔力は――消えていたんだ。
◇◇◇
ふー! ふー! と息をふいて、温かいそれを冷まそうとして。
ロイヤルミルクティーという、紅茶にミルクが混ざった、温かい飲みモノをルークおじさんにもらって。
泣いて少し腫れた目で、ロイヤルミルクティーの色を見つめていた。
「お前みたいに瞬間移動の魔が使えたらなぁ。才能馬鹿め」
「前にも聞いたけど。それって妬みじゃん」
ルークおじさんの呟きに聖くんが反応する。
ここはルークおじさんのお部屋だった。聖くんの瞬間移動の魔法で、ルークおじさんの部屋の中にあたしと聖くん、ルークおじさんはやって来ていたんだ。
「あのクソ餓鬼にすら、魔の才能は負けてるからな」
「……」
「元の才能は持ち主の悠なんだろうが、クソ餓鬼より劣ってるんじゃ、オレもまだまだってことだ」
「煩い方は、死ぬほど努力したって聞いたけど?」
「――誰に」
ルークおじさんがそう言えば、聖くんが無言の圧を送りながら顔をしかめる。
「悪かったって」
「――!!」
聖くんが、突然バッと窓の方を向いた。
「……この感じ」
聖くんが呟けば、ルークおじさんが反応する。
「……魔物っぽいが、禍々しいな」
「この感じなら……魔具の可能性は」
「魔具……強大な魔物と魔具が近くにあるってことか?」
「……」
聖くんが考え込むように沈黙する。
「……きよくん?」
「……アメリア、どれくらいの距離まで魔力を判別出来るの」
あたしが聖くんの名前を呼ぶと、聖くんがあたしにそう言った。
「……大きなまりょくなら、遠くでもわかります」
「……スゴイ遠くに、魔族の魔力感じる? アメリア」
あたしはそう聖くんに言われると、遠くに感覚を広げていく。
「ぁっ」
「感じた?」
「……でも、なんかへんです」
あたしの言葉を聞いて、聖くんはルークおじさんに向かって話す。
「……やっぱり魔具じゃない? アメリアの違和感も、魔族じゃないからじゃないの」
「……まさかと思うが魔物が魔具を取り込んでるって可能性もあるのか?」
「前例はないけど、可能性ならあるんじゃない」
「……紫桔舞は対応してるんだよな……?」
「レンが煩い方と任務って昨日聞いたけど」
「あー……ってことは、対応してるってことか」
ルークおじさんと聖くんの話は当時のあたしには分からない。
魔物が、魔界で呼ばれる魔物とは違うことも、この頃のあたしは知らなかった。




