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妖怪が出た  作者: 社聖都子
6/10

妖怪が出た6

登場人物


段下:旅館のオーナー

三木:旅館の執事

中尾:T大学超常現象研究会1年生 男 妖怪に襲われて意識不明の重体

植松:T大学超常現象研究会2年生 女 曽山の高校時代の後輩

白石:T大学超常現象研究会2年生 女 妖怪オタク

灰谷:T大学超常現象研究会3年生 女 よく寝る、空気読めない

ロバート:T大学超常現象研究会3年生 男 理系、灰谷と言い争いに

五島:T大学超常現象研究会4年生 男 妖怪に襲われて意識不明の重体

曽山:T大学超常現象研究会4年生 男 風呂場で妖怪と遭遇 研究会のリーダー

「なんで…こんなことに…。」

自室に戻ると曽山はぼそりとつぶやいた。何かぼそぼそと独り言を繰り返しながら、シャワールームへと歩みを進めた。血がべっとりついたシャツに手をかけた。もともと真っ黒なシャツは見た目には血がついていることはわからなかったが、肌に張り付いて酷く脱ぎずらかった。何とかシャツを脱ぐとそのシャツじっと眺めると思い切り床にたたきつけるように脱ぎ捨てた。

「ちくしょお!!!!」

大声で叫ぶと、はぁはぁと息を切らしながら、ズボンと下着も脱ぎ捨て、シャワールームへと入った。

数分後シャワーから出た曽山は入る前よりも青ざめた顔で、生気のない足取りでバッグへと歩み寄り服を探した。バッグから選んだ服は持ってきた服の中でもひときわ賑やかな彩りの服だった。

曽山が部屋を出て階段を降りると、既にみんなシャワーを浴び終え集まっていた。曽山が下りてきたことにみんな気づいているだろうが誰も顔を上げることはなくうなだれたまま微動だにしなかった。

曽山は辺りを見回したが、特に何をするでもなく五島のそばの床に腰を降ろした。そしてほかのメンバーと同じようにうなだれて黙り込んだ。

そのまま、どのくらいの時間が過ぎ去っただろう。実は思うほど時間は進んでいなかったのかもしれないし、時計を見る元気もなかった。

「私、そろそろ寝るわ。」

灰谷が静かに言うと重い腰を上げるようにゆっくりと立ち上がった。立ち上がった状態で灰谷はしばらくぼーっと立っていたが、だれも何も反応しないので、

「おやすみ。」

と言ってロビーを後にしようとした。その後ろ姿に挨拶くらい返そうと思ったのか、植松が顔を上げた。だが、ロバートソンが何かを言おうとしているのに気づき、その言葉を待った。最初は少し怒った顔をしていたロバートソンだったが、幾度か表情が変わり最終的には

「しっかりカギ閉めろよ。」

と穏やかに言った。

「ありがとう。」

灰谷が返すと、植松が続いて「おやすみなさい。」と挨拶した。

そこで会話が終わるかと思ったが、白石が、

「妖怪にカギ閉めることが意味あるとは思えないですけど。」

と言ったことで空気が一変した。

「お前、妖怪のせいだと思ってのかよ。」

ロバートソンがかみついた。それを見て灰谷は部屋に戻るのをやめ階段の手すりに寄りかかって振り向いた。

「だって、妖怪見た人もいるんですよ?妖怪、いたんじゃないですか。」

白石の表情は少し嬉しそうにさえ見えた。

「お前、頭沸いてんじゃねぇか?常々オレが言ってきたように、妖怪なんていねぇんだよ。科学的に証明するまでもねぇ。」 

ロバートソンは明らかに怒っている表情で立ち上がり、一歩白石に歩み寄った。

「じゃあ、いったい何に刺されたっていうんですか?矢と、包丁で。」

白石も立ち上がりロバートソンに詰め寄る。

「そんなもん、決まってんだろ!この」

「やめろ!!!!!!」

ロバートソンの大声よりはるかに大声で曽山がかぶせるように言った。全員が驚いて曽山の方を見た。

「ロバート、やめてくれ。」

曽山が悲しげに言った。ロバートソンはしばらく黙っていたが、

「おれも寝ます。」

と言って、その場を離れた。階段で灰谷を追い抜く格好になった。足早に階段を上っていくロバートソンに灰谷は、

「あなたもカギをかけることね。」

とささやいた。小さな声だったが、皆が聞こえるに十分な静寂だった。

「当たり前だろ。」

ロバートも小さな声で返すとそのまま部屋へと戻っていった。怒りの矛先を失った白石はそのまま無言で階段の方へと向かった。またも階段ですれ違うことになった灰谷は、

「信じてるの?おびえてるの?」

と、白石に問いかけた。白石はまじまじと灰谷の顔を見た後で

「は?」

と言うとそのまま自室へと戻っていった。白石の部屋の扉が閉まる音を聞くと、

「およそ先輩に対する態度じゃないわね。」

とつぶやき、灰谷も部屋へと戻っていった。ロビーは再び静寂に包まれた。

「先輩。」

植松がつぶやいた。曽山は顔を上げなかったが植松は呼びかけた後で顔を上げて曽山の様子を窺った。そのうえで、動かない曽山に対して話し続けた。

「私、シャワーを浴びた後、下に降りようとしたら、ロバートさんが先にいたんです。そこで灰谷さんと話していたのを聞きました。なんか、悪いなとも思ったんですけど、ちょっと降りにくくて。そしたら、灰谷さんが」

植松は息をのみ、涙を流しながらもう一声続けた。

「中尾くんはもう…って。」

曽山は少し動いたように見えたが、予想はしていたのか特に動かなかった。

「あと、ロバートさんが灰谷さんに、お前なのか?って言ってたんです。それって、やっぱり…」

と言うと、あとは曽山の反応を待つようにじっと口を閉じた。

「灰谷はなんていったんだ?」

曽山は植松の話に答えるのではなく、質問を返した。

「私じゃない、って。」

植松の言葉に少し間をおいて曽山が答えた。

「そうか。」、と。

「ロバートさんもそう言いました。」

植松の言葉に曽山はもう一度、そうか。と呟き、また動かなくなった。

そのあと、しばらくの間二人はロビーにいたがその間にした会話は、

「段下さんと三木さん、来ませんでしたね。」

「そうだな。」

だけだった。植松が、

「私も寝ますね。」

と言うと、曽山は

「おやすみ。」

と言った後、少し間をおいて、

「植松。」

と呼びかけた。植松は、はい。と返事をして曽山の続きを待ったが何も言わない曽山に、

「あの時もそうでしたね。」

と言った。

「先輩が黙ってるときは、大きな悩みがあるときなんでしょう。何か気づいてることとか、あるんですよね?…それは、私もあるし、きっとみんなそれぞれ何か気づいてるんです。だからこんな…。でも、私は先輩が話してくれるの待ちます。今度は怪我を押して出場した部活の時みたいなのは無しにしてください。ちゃんとみんなに話してほしいです。」

「みんなには明日の朝。」

少し時間をおいて曽山が言った。それが合図になり、曽山は植松に小声で話をした。話すうちに曽山の声はどんどん嗚咽にまみれ最後には植松も泣いていた。植松は曽山に先輩のせいじゃないですよ、と言うと曽山に寄り添ったが、曽山に促され部屋へ戻った。曽山は植松を見送ると、五島に泣きながら話しかけた。

「なぁ。分かってんだよ。お前ももう。ごめんな。おれのせいで、ごめんなぁ。」

と。曽山はそっと五島に触れると、うなだれ、自室へと戻っていった。

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