食堂という名の……
町中は白色の建物が多く、道も白色の石が敷き詰められていて綺麗だ。
通りの両側には所狭しと店が並んでいて、買い付けに来た商人やら体格の良い船員が出入りしている。
そんな商人の一団の中に小さくズングリした身体のドワーフを発見した。
「おおぉ」と知らず知らず声が漏れた。
ドワーフを見て異世界であることを再度実感した。
美しいと評判の高いエルフがいないか周囲を見回す。
「‼︎」
「クンクン」
通りに並ぶ店の一角から大好物の匂いがする。
誘われるようにその匂いを追って行くと一軒の食堂に着いた。
看板には【満腹亭】と書いてある。
店内から漂う匂いに釣られ店にフラフラと入った。
店内は細長くコの字のカウンターとテーブルが二つのみで、せいぜい十人も座れれば良い方だろう。今は時間が遅いためか客は一人もいない。
「空いてる席に座ってくれ」
カウンターにいる禿頭の厳つい男がぶっきら棒に言う。
俺はカウンターに座りメニューを探す。
『あれ……、メニューが見当たらん。この世界にはないのかな⁉︎』
周囲を見回す俺を見て店主は睨む。
この街の男は怖いヤツばっかだな……。
「しかし、さっきチャーハンの美味そうな匂いがしたんだけどな……」
ボソリと俺は呟く。
「チャーハンあるよ」
「あるの⁉︎」
「あるよ」
さも当然のように答える禿頭。
「じゃあ、それ大盛りでお願い!」
「あいよ」
徐に厨房に向かう禿頭。
しかし、俺の大好物であるチャーハンがあるなんて異世界も捨てたもんじゃないな。
程無くして平皿に半球形に盛られたチャーハンが運ばれる。
本格的な容姿と香ばしい匂いに「ゴクリ」と喉がなる。
添えられたスプーンを手に取って一口頬張る。
「うめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺は皿を持って一心不乱にがっつく。
凄い勢いでパラパラのご飯をかっ込み一気に完食した。
「店主。チャーハン……、最高だったぞ!」
「店主じゃなくてマスターと呼んでくれ」と言ってマスターは少し照れつつ禿頭を撫でた。
この後マスターとチャーハンについてめちゃくちゃ語り合った。
店の時計を見ると既に午後六時を回っている。
随分とチャーハン談義に花を咲かせた物だ。
さて、マスターとの有意義な会話を切り上げ、そろそろ【満腹亭】を出て仕事に戻ろう。
次はお目当ての物を探しに店巡りだ。
「まあ、探すと言っても火薬はこの世界にはないだろうけど」とまた独り言を呟く。
「火薬、あるよ」
俺の眼前にいるマスターが事も投げに言った。
「マジで⁉︎」
まさかこの世界に火薬があるとは。それも食堂に売ってるなんて……。
「こっちだ、地下に来てくれ」
「お、おぅ。お願いします」
マスターは俺をカウンターの中に入れ地下へ連れて行った。
地下の壁にはビッシリ棚が並んでいて、その棚に商品が所狭しと展示されている。
マスターは火薬の袋を受付台に置く。
「他に何か欲しいものあるか」
「そうだな、でも鋼糸とか苦無はないよな……」
「あるよ」と言って受付台にゴトリと置いた。
「こんなのもあるぞ。【蜘蛛男】って奴だ。ちょっと着けてみな」
手首まで覆う赤黒い手袋を出してきた。
言われた通り両手に手袋を履く。
手袋の手首あたりに金属の鏃が付き、それに鋼糸が結ばれている。
「手を壁に向けて壁に鏃が飛ぶように念じながら魔力を流してみな」
「こうかな⁉︎」
軽く魔力を込めると鏃が音もなく高速で飛び壁に刺さる。
逆に鏃が戻るように魔力を込めると鋼糸が高速で巻かれ手首に戻った。
「マスター、これって例の【蜘蛛男】ですよね!」
「俺には何のことか分からんな。これを作った大錬金術師キョウカ様ならわかるんじゃないか」
キョウカって日本人ぽい名前だ。
俺の他にも異世界にきてる奴がいるのかもしれないな。
興味はあるが、今は魔剣を手に入れるのが先だ。
「そうだマスター、ヘグニムって商人がどこに住んでるかわかるかな?」
「わかるが、情報料をもらうぞ」
「払うから教えてくれ」
マスターは俺に適した情報を教えてくれた。
その他色々使いそうな物を買って店を出た。
ちなみにこの店だけで所持金の八割が消えた。




