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第二十三話「成人と聖人」

自分で作った料理の味付けに飽きるんだって最近気付きました。

 助けてくれよと名前を呼んだら、誰かが助けてくれる。

便利な道具や助かる方法を教えてくれる世界…残念ながらそれは点と線だけの場所でしか見た事がない。

「優しさ」という資源は何時もコンビニの棚に高級品として並んでいる。 枯渇寸前になったのは大分昔からの事らしい…


時間や人間によって絞られてばかりで、誰かから分け与えられないと渇いてしまって仕方がない。

「善い人間」になろうと考えたことは無いし、俺自身もありきたりなのでその資源は何時もコンビニで買ってしまうのだ。


「余地」を残すってがいかに大事な事かはここ二、三年で学んだ事ではあるけども…目の前の少女に俺はその資源を振り向けてやれるだけの余地は無い…やるべき事はそれこそ無限にあるんだ。

食事と睡眠にいい加減ではいられなくなったのが最近の悩みかな…


「悩んだって仕方がないじゃない、収まるところにおさまるだけよ?」

 俺の向い側に座って国を束ねていた筈の皇帝が真鍮か銀か分からないが金属系の光沢のあるフォークでさっき俺が作った食事をパクパクと口にしている。


「勿論、変数を含んでいるでしょうから、自分の思い描いた結末にはならないでしょう?」

ま、結局のところそれまでの準備の精度次第ではって事ですかねぇ…

「そうそう、まるっと終わる事は稀で大体どっかに角が立つのよ」

またパクっと俺の作った適当料理を口に運んでいる…そんなに美味しいものを作ったとは思っていない。

どうなんだ、食えたものを作ったつもりだが…


「んー、そうねまぁまぁよ」

またなんとも反応に困る評価だ。

「そう? 宮廷の食事とは比べるのは流石に失礼なだもの、私の作ったものは料理と言えるか怪しいし…判断基準が離れ過ぎて比較にならないのよ」

なるほど?


「それとも、大袈裟に美味しく食べてみせた方が良かったかしら? 」

大袈裟に喜ばれても嬉しいとはあまり思わないが…

「わー!とか子供っぽく言えば良いのかしら?」


宣言されてから喜ばれても俺は反応に困るだけなんだけど。

「それにしてもイデアの食材とこちらの世界の食べ物って違ってたりしてる?」

あー、それは違ってるかなー、葉物野菜とかイモ類とかジャンルは似ているけれど水分量とか食感とかは変わって来るかなーって感じ…根菜かと思って煮てみたら食感がほくほくしててなんかジャガイモみたいだなって。


「ジャガ…イモ?」

そう、ジャガイモ。 ジャガタライモが語源で…でもあれだな、原産地全く違うところだな。

「ふーん?そんなに遠くの場所からやって来たものがあるのね」

まぁ、あっちの世界だと一日あれば世界を一周位は出来るんじゃないかな、そこら辺詳しくないから分からないけど。

「はい…? 世界一周? え、世界って一周出来るものなの? それも一日!?」

レイラはスプーンをスープから持ち上げたまま驚いて目を丸くする。

あっ、こっちの文明ってどこまで進んでんだろ…てかこっちの世界が過去とかだったらあれか? 


タイムパラドックスとか考えないといけなかったりする?

まぁでもレオナルドダヴィンチだってヘリコプター考えてるし、あまり俺はそういうの考え付く程地頭よくないかならスパッと諦めよっ。


この子の時代の人々が生涯知ることの出来る世界はどれ位の範囲なのだろう…とは言っても俺みたいに限られた世界の方がいいとインターネットやらなんだとある世界でも殻に籠ってしまうひねくれ者もいるからね、仕方ないね。


「…素晴らしい世界もあるのね、それって人と人が一杯巡り合えるじゃない?」

うーんまぁ、いろんな人がいる中で「自分」を保っていける人なら全然やっていけるんじゃないかな。


その反面でどうしても自分と他人を比べてしまったりする人だったり、他人へ誰彼構わず攻撃性を発揮するような人だっているからなぁ…


「あら、そんなのはこの世界の人間だって全く変わらないわ。 救いようのない人間と救ってあげたい人間の二種類位しかいないわよ」

そんな台詞を俺よりも若い女の子が言うもんじゃないだろ、しかも食事中だぞ?


「ふーん? それならタツヤは食事をしている最中は会話を禁止する法律でも作るのかしら?」

はい?そんな法律なんて作ってみろ、国中が葬式みたいに湿っぽくて堪らなくなる…

俺はごめんだよそんなの、だけど話す内容は暗くない内容が良い、だからそんな話はしたくないと言いたかったんだ。


「…そうね。 これまでの話よりこれからの話をしなくっちゃね」

レイラはそう言って盛り付けられた炒め物とスープを黒いパンと共に食べ進めていく。


「あ、今更だけど、私を毒殺しようなんて馬鹿な真似は起こさない事ね」

おいおい、本当に今更な話だし、全く予定のない話なんが…? どうして俺がそんな事を考えると思ったんだ? 


「レヴァンテとのやり取りで何を吹き込まれたか判ったものじゃ無いから、一応忠告程度にね」

えぇ…やっぱりあの糸目男信用するには足らない人間なんじゃ…

「今のうちはね」

俺たちの立ち回り次第で使える道具がどうか判断するって訳か…

「そうよ。 わざわざ手間暇を掛けて救ったのがこの数十年最大のお尋ね者だもの、買い込む道具にしてはあまりにも博打が過ぎるわ」

向こうにとっても女帝様にとっても、手放しで喜んで握手が出来る関係じゃぁないって訳だ、その信頼関係は嫌だなー。

俺がそんな人間関係抱えたら胃に穴が開いちゃう。


「そう、だから貴方のような人を呼んだのよ。 こちら側の事情が分からない存在を必要でね。有用なのか無用なのかはさておいてだけど」


言っておくが、俺は便利な夢を叶えてくれる道具じゃないからな。 薬だって入れ過ぎれば毒になるし、そもそも良い薬はよく効くが苦いものだ。


「それで本題に戻るとね、もし私を殺すと貴方の契約は不履行になって貴方も同じ様な目に遭うわ」

なにその痛覚共有怖っ、そんなの意味あるのかよ。

さらっと恐ろしい事を言う女帝様だ。


「勿論、痛みと苦しみを乗り越えてはじめて人は大きく逞しくなれるのよ!」

女帝様はともかく俺はもう成人の年齢を超えているんだが??

「あら? 成人だとしても聖人ではないでしょう? 他人の痛みを許容して初めて人は救いを得る事が出来るのよ!」

目が怖い、なんで俺に焦点が向いてないんだよ…

「うふふ、救いとはあらゆる困難の先にあるものよ。そうだわ!貴方にも「洗礼」を受けてもらわなくちゃね…」


そんな宗教的なとこ信心深い環境で育ってきたんですか、女帝様、やっぱこの世界、異世界とか言っておいてただの山奥の宗教施設か何かなんじゃねぇの?!もうやだタツヤさんおうち帰る!!


「まぁまぁ、落ち着きなさいな、嘘よ?」

おいこらどっからどこまでがだよ…さらっとスープ完食してるし、勝手に表情を戻すな。

「あらそう? 貴方はさっきの方が好きなのかしら? 」

そう言う事じゃねぇ、急に口調やら変わった思ったらそれを嘘だと一言で済ませるな、冗談にもいい冗談と悪い冗談があるんですよ、女帝陛下。

陛下には人の上に立つ身の上として自覚を持っていただきたい、相手の立場や表情を観察する目を持たねばなりませんぞ?

「え、何その急な小言…別に女帝様の気まぐれじゃない、気にしないで頂戴」

気まぐれで振り回されるこっちの身にもなってくれよー、コロコロ態度や機嫌が変わるのは更年期迎えた親世代だけで十分だってーの!

「わ、私はそんなことしないわよ」

本当にそうかー?自分の機嫌を自分で取り続けるのは案外難しいからなー

「…貴方もそうなの?」

そりゃそうよ、さっきあんなことを言っておいてなんだけどな。

俺だって100%自分を自制出来ないから気休め程度に自分の機嫌は取ってる、最近はなんか外国の文字を使って標語みたいにして言うんだってさ、言っても変換されるかどうか分からないけど。

確かアンガーマネジメントとか言っていたな。

「アンガーでもアンゴルルでもいいけど、あなたの料理は一先ず食べきったわよ」

お、いつの間に…本当だちゃんと食べ終わってる。


「さーて、腹ごしらえもしたことですしタツヤにはおつかいでも頼もうかしら?」

おつかい?この廃城から外に出ていいのか?

「ちょっとそこまで…ね?」


そう言いながらレイラは美味しかったわ、ありがとうと俺に向かって言う、さらりと俺に柔らかい笑顔を向けた気がしたのだが、彼女はさっさと羊皮紙に羽ペンを走らせてみせるのだった。


次回へ続く



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