第二話「意見交換」
小説かくの難しい…
運命ってのは突然舞い込んでくるものだと親父がお袋と結婚するに至った理由を運命と呼んでいた。
それならよ…こんなじめじめとした陰気な地下牢にぶちこまれるのが俺の運命なんだとしたらどういった風の吹き回しなのだろう?
頭ん中がまだ白黒点滅して自分のおかれている状況を俺は理解できない。
「貴方、私と一緒に國盗り合戦をしましょう!」とかそんな突拍子もない冗談を投げ掛けてきたこの女に不信感しか持てないがしかし、今、この時の立場としては圧倒的に鉄格子の向こうにいる少女が上になので俺は取り敢えずこの牢から出ることを考えて相手の顔色を伺うことにしよう、俺は順応性には自信があるぜ。
こんがらがった思考を放棄して今の置かれている状況を観察しよう、
「地下牢…って感じか、それでなんだいこの芝居めいた格好と場所は、今のテレビにしては随分と金かけてんなぁ」
そんな話あるわけないだろうと小声で言ってみたけれど聞こえなかった様で思わず飛び出た毒は聞こえなかったのでよかったよかった。
「ん…どうかしましたの?それよりもなかば強制的によんでしまって申し訳ありません。
こちらの都合もそちらの都合も考えずにお呼びしてしまって…
とか言ってみたりするんだけど…はぁ正直なところこっちの疲れるんだけどどっちが好み?」
人の好みとかそんなことを言いたいんじゃなくってな?
ここは誰?私はどこ?状態なんだが色々と説明とドッキリ大成功とかでテレビクルーみたいな奴出てこない?
「…無回答ならこのままいくわよ、先ずは私の置かれている状況から説明させてもらいましょうか」
「いやいや待て待て、俺は今何に巻き込まれているか説明を受けさせてくれ」
「さっき言ったわよ、國盗りよ」
さらっととんでもないことを言うのは変わらないのね。
「言っておくけれど貴方がいた世界とここはイデアであり何もかもが異なっているわよ、言語形態や文化だって全く違うものかもしれない。
私は貴方にイデアの知識と経験でもって助けてほしいの、正直なところ私は今下手をしなくても殺される可能性のある…でも私が求めるのは救いじゃない。意志と意地なの」
何やらかしたら今すぐに殺される可能性のあるなんて自分から言えるんだよ…死生観どうなってやがる。
「ふぅ、こんなところで話をしていても湿っぽくなるばっかりだから一先ず今の状況に混乱して暴れだすとか私に対して攻撃的な態度を取らないと約束してくれるのならここから出して少しはましな場所で対談することにする?」
と切り出された、別に断る必要はないので快く了承すると本当に牢の鍵を開けてくれたのでおいおいと思いながら恐る恐る牢から俺は出た。
持ち物等をさくっと確認したが全て揃っていたので意識を失っている間物色して訳ではなく犯罪目的での誘拐等ではない事は分かった。
「さて、それじゃあ相応しい会談の場所とまではいかないけどこんな辛気くさいところより良い場所があるから案内するわね。」
踵を返して女は俺に背中を向けてカツカツと歩いていく、この女をここで後ろから取り押さえて乱暴をしようとは流石に俺も思わないが少し無防備過ぎやしないか?見ず知らずの奴に俺も多少は仲良くやろうと声位はかけるが…
「優遇はするけど優待はしないわ、そんなことをしている余裕はこっちにはないの。
貴方をわざわざ大規模な魔力を編む必要のある転移魔法なんて使ったのは第三者の意見が必要だからなのよ」
「ちょっと待て今「魔法」って言ったか?」「ええ、そうよ。何を不思議そうに言ってるのよ?貴方達だって箱に魔法かけたりして動かしてるじゃない」
箱に魔法をかける?君は一体何を言っているんだ…
「一応あのカラスを使い魔にしてイデアの事は探ってみたけどすっごものすっごい世界よねアレ年がら年中明るいのなんのって…イデアの人間って夜しか生きられない種族でもいるのかしら?」
それは…うちの国の極めて特殊な事例かと思うから気にしないほうがいいしそれになんだその種族ってのは、設定がお伽噺の世界だな、出来すぎじゃね?
「それにしたって弱ったわ、弱ったわ弱ったわよ。いつか来るとは薄々思っていたけどまさか中央からあんなのを寄越してくるなんて誰が思うもんですか」
一人言にしては大きい声を地下で発しているものだから幾重に反響してあまり良い気はしない。
「事態やら諸々見えてこなくて困っているんだが一体何があったんだ?」
話を聞いてやらないことには先に進まなそうなので取り敢えず焦りを抱えている理由を聞いてみるとさらっと恐ろしいことを呟かれて二の句を継げなくなった。
「あれよあれ、暗殺未遂ほらよくある陰謀論の一つで権力の椅子に一度でも座ったものは後ろから下から狙われ続けるってやつ、遺言ってこんなに面倒くさいものなのね…」
暗殺って…随分と凝ってる設定してんなこのTV番組流石にそんなおとぎ話…あるわけない。
「何やら信じてなさそうな感じだけど貴方の牢の隣にいたのよそいつ良かったわね~襲われなくって」
素人目には演技かどうか良く分からないけれども溜め息混じりに肩をすくませているのは果たして演技でもない本物なのだろうか…?
「実際翻訳書が開発されてなかったら危うく貴方とまともに話すことも出来ないんだろうけどいやー古文書を引っ張り出してきた甲斐があったわ」
古文書て…お前…参考書類がひどいわ、万葉仮名の文とか書かれても誰も分からんぞ。
「なーんか知んないけどここ数百年でこっちから扉をこじ開けない限りイデアへ行けなくなってしまったのよ、昔はそこかしこにあったらしいんだけど…そうそうイデアってのは」「それは哲学畑を歩いたら少しは覚えてるもんだぜ、そう確か…」「「理想郷」」
思わず声が重なってしまいこの妙ちきりんなシチュエーションとともに何だか可笑しくなって小さく笑ってしまう、訳がわからなくなってもう何が何やら…
「何をそんなに笑うことあるのか若干さっぱりなんだけど…まさかイデアからこっちへ無理やり閉じてた境界いじってそこを通過させたからあてられちゃっていかれた?」
君はさらっと人をいかれた奴呼ばわりするんじゃないよ全く、もしかしなくてもこいつ性格に難有りだな…
「冗談よ、こんなにちゃんとした受け答えが出来て会話も通じている人間がいかれてるなんて誰が思うもんですか。
私は少なくとも器くらいは大きくし続けたいものね、考え方が違うから暴力的処置に転じたりそれを容認するのはその人が色々と欠けてるからよ」
「まぁなんだ。あんまり人のことをばっかり気にしてると禿げるって親父が言ってたしな、しかし親父髪の毛ふっさふっさでよ…」
「それ貴方のお父さん傍若無人そうで大変そうだけれど丈夫だったの?」
「あぁ、うーん?気遣いは一人前にできっし何とかそれなりの生活できる分だけ学ばせてもらったし親としては後する事無いしこっちからも言う事無い。」
この場に明かりと呼べるのは俺をここに呼び出した?しゃしゅなんとかと名乗った俺より少し若い位の女が持つランタンのみでそれにしたって明かりとしては心許ないものだったが角を曲がったところに光が見えてきた。
やれやれ、やっとこさ地下からしゃばに出られるな俺自身は何にもやらかしてないし捕まる理由無いんだけども…
「ここは私の現在の持ち城エイザーク城、とはいえ幽閉用の城だから大したものじゃないけど多少の不便は勘弁してよね。」
いやいや待て待て、城を持ってるとかとんでもねぇなおい、どんだけの富豪さまよ…
「ん?単なるお金持ちじゃなくってあれよ?私は元サジャール帝国の王女?…女帝?なのよ!」
そりゃあ暗殺未遂も頷ける、元王女様とかそりゃあ四方八方から狙われるわーってなにその設定怖いですわ~
「なーんかさっきから信用されてない気がする…あのね、貴方の立場分かってない?生殺与奪の権利、一応使い魔ではなくて契約者として呼び出したけれど命令はこっちから極めて一方的に命令する事だって出来るのを警告しとくのよ。」
素人の大人を騙くらかしてどこでテレビカメラが回っているだとか考えるのはもう止めておくか、本当にそうなら…さっき入っていた隣の牢を曲がり角で振り返ったら開いていたとかそんなのはもっと笑えない冗談だし俺に迫る謎の影とか本当に勘弁してほしいものだ…
次回へ続く!