1章-11 欲望の国
アレックスは南の将軍ジャック・グロウに挨拶をしたあと、その隣に座っていた聖女の存在に気が付いた。彼は彼女の前に跪く。彼女はこの国を宗教面で支えている教団のトップだ、国王と並ぶ程の権力を持っている。国王に仕える将軍より身分が上なのは確かだ。
「お久しぶりです、聖女様。」
銀髪の聖女はそんな東の将軍の姿を見てあたふたしていた。
「アレックス、昔の通り『アンヌ』で構わないのよ?」
聖女アンヌは困惑した表情をしていた。代々東の将軍を担っていたロード家と南の将軍を任されていたグロウ家は何代も前からの付き合いであり、とても仲が良いのだ。アレックス、ジャック、アンヌも例外では無く、幼い頃はよく遊んでいたものであった。
「いえ、そうはいかないのです。今の貴方は国を支えている重要な御方だ。これまでの無礼をお許し頂きたい。」
ただアレックスも頑固者である、同じ姿勢を貫こうとする。アレックスの後ろに立っていたクラウドは溜息を吐く。
「聖女様がここまで仰ってるのですよ?むしろ従わない方が無礼なのでは?」
む、とアレックスは固まる。少し考えているといったようである。
「グレイ!おまえも聖女様に少しは誠意を見せたらどうだ?」
ジャックの後ろのアンヌの更に後ろから一人の鎧姿の男が前に出てくる。南の将軍補佐であるグリーン・クラウドである。
「聖女様の前では跪かなければならない、という法律でもありましたか?兄さん。」
この2人は兄弟であった。冷めきった表情の弟の言葉に顔を真っ赤にしてトマトのような状態になる兄。この二人はほぼ真逆の性格である。
「ガキみたいなことを言いやがって、これ以上聖女様を侮辱するようなら粛清してやろうか!?」
「私がいつ聖女様を侮辱しましたか、私は聖女様を尊敬していますよ。いつも国民のことを気になさり、さらにこの様に美しい御方ですよ?何の不満があるでしょうか。」
クラウドは淡々と述べた。口論の真ん中に立たされていたアンヌは顔を赤らめていた。容姿について誉められたことについて照れくさかったらしい。
「そして、そう何より巨乳だ。」
突然の言葉にその場はしんと静まる。アンヌは普段の服装からは分かりにくいが、よく見れば分かるくらい胸は大きかった。跪いていた騎士とアンヌの前に座っていた騎士が立ち上がる。そして背中の大剣に手を掛ける。
「気まずかったこの場を和ませる軽い冗談ですよ。私の性癖では無い、そう決して。」
こいつはたまにこのように空気を読めない発言をすることがある。
「とりあえず私は聖女様を心から尊敬しています。ただ宗教と軍が癒着している、その点を懸念に思っています。」
「…何が言いたい?」
皆がクラウドの発言に疑問を抱いた時であった。嗄れた笑い声が部屋で響いた。
「賑やかじゃのう、ここは孤児院か何かか?」
円卓の間に入って来たのは杖をついた白フードの老婆と銀色の狼の騎士であった。




