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いつか勇者となる君は  作者: Norinα
第一章 娼館暮らしの冒険者
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第3話 冒険者ギルド

 新しい朝が来た。


 僕の朝は早い。


 日が昇ると同時に目を覚ます。


 なんだかんだ、森での生活にも慣れてしまった。


 ただ、街に近いせいか、魔物はかなり少ない。


 今日は寝覚めもスッキリだ。


 近くの水場に、ホーンバッファローの群れがいた。


 群れの数は6。


「よし」


 僕は勢いよく走り出し、ウサランスを前に突き出す。


 僕に気付いたホーンバッファローたちが、一斉に逃げ始めた。


 普通のバッファローと何が違うのかって?


 真ん中に長い角が一本生えているだけだよ。


 肉は美味い。味は保証する。


 だから、きっと朝市で高く売れるはずだ。


 僕はウサランスで二頭を貫いて仕留め、手早く血抜きをする。


 本当はもっと仕留めたいのだが、僕の手は二つしかない。

 だから、その二頭を両肩に担いで街へと戻るのだ。


 STR99の僕にとって、これくらいの重量を担ぐのは造作もない。


 門番はビビってたけどね。


 解体屋に持っていき、そのまま換金する。


 肉は解体屋で売れることも確認済みだ。


 これで600ゼミー。


 日本円じゃないのは当然として……なんとなくドルに近い感じだ。


 安宿なら十日は泊まれる。


 食事代まで考えると、七日が限度かな。


 さぁて、これからどうするかって?


 やっぱり、異世界に来たなら冒険者ギルドには行かないとね。

 情報も仕事もあるはずだ。


 ん?


 仕事もある?


 無一文なら冒険者ギルドに行けば良かったんだ……。


 落ち込みたい気分だけど、持ち直す。


 気分を切り替えるんだ。


 改めて客観的に自分自身を見る。


 朝起きた時に森でしっかりシャワーを浴びて、髪も風魔法で乾かした。


 ヒゲも錬金術で作った髭剃りで剃った。


 身嗜みは完璧……じゃない。


 服屋で安物の服を揃える。


 中世の庶民になった。


 麻の服が、いかにもな庶民だ。


 これにボロボロだけど皮の防具を装備して……。


 うん。


 立派な初心者の冒険者だ。


 よし。


 これで先輩冒険者たちに優しくしてもらおう。


 ……いや、かわいがりが始まるかな?


 その時はぶっ飛ばそう。


 こういう世界では、ナメられたら終わりだ。


 問題があるとすれば――。


 僕が弱いのか、強いのか。


 それが、まったく分からないということだった。


 ――――――――――――――――


 なんだか寂れた場所に来た。


 色んな人に聞いて回った。


 西の冒険者ギルドは、ここらしい。


 看板、ナナメになっておりますが?


 中も……暗そう。


 リリカとエイラがいると知らなければ、絶対に入らない場所だ。


 ……本当にいるのかな?


 僕はウェスタン映画に出てきそうな両開きのドアを押して入った。


「あ、ノリさーん! 来てくれたんですねー!」


 リリカの笑顔が眩しすぎて、僕は光に包まれて消えたかと思った。


 マジで。


 奥にいたエイラが、僕に気付く。


「ゲッ、本当に来た。マスター! 昨日話してた見窄らしいヤツ……じゃなくて、ボスの角を折った人が来ましたぁ!」


 そして、大声で誰かを呼ぶ。


 ドタドタと大きな足音を立てて降りてきたのは――。


 やや痩せ型のメガネ男だった。


 苦労しているのか、デコが広い。


「君かねん! 君が、救世主かねんっ!? ホーンラビット巨大種! 撃退してくれて本当にッ! ありがとう! これで、みんなに給料払えるねぇん!」


 僕の手を握って大きく振りながら、オイオイと泣いている。


 ……ギルマス?


「ハッ! 申し遅れたねん。我が名はカーズゥ・グッドビート。嘗てはA級冒険者だったのだがねん。歳には勝てないねん。私のことはカズと呼ぶが良い。皆が、そう呼ぶのでねん」


 佇まいを正したカズは、さっきまでの情けない中年の姿とは違っていた。


 強さを感じる。


 元A級冒険者というのは、ダテじゃないらしい。


 だけど、訂正は必要だろう。


「僕は、討伐していない」


 そう。


 ボスラビット本体は取り逃がしている。


 見逃したと言ってもいい。


「討伐ということで問題ないねん。できれば、背中の槍を見せてもらいたいがねん」


 僕はウサランスを見せる。


 カズは、水晶にレンズが付いた魔導具を向けてきた。


 写真みたいなものかな。


 それで撮影し、満足そうに頷く。


「角さえ無くなれば、という話はリリカかエイラから聞いたと思うねん。これで追加報酬を貰えるねん。ノリ、君にも報酬を払いたいところだが、まだ上から現金が下りてきていないのねん。預金の処理で構わないかねん?」


 預金システムがあるのか。


 本当に地球と変わらないな。


「数日過ごせる現金はあるので、大丈夫ですよ」


「三日もあれば用意できるねん。では、こちらにサインを――」


 そして出された書類には――。


『冒険者ギルドウェスタリア西支部への加入書』


 と書いてある。


 冒険者にならないと、預金システムが使えないってことなんだろうな。


 ……なんだか、すごく色んな視線を感じる……。


 僕は、とりあえずサインした。


 名前は書ける。


 文字も読める。


 異世界転生の特典だろう。


 しかし、ここでカズが豹変した。


「ふはははは! やったねん! 有望な新人確保ぉ! これで西の冒険者ギルドに希望が見えたのねん! もうオンボロギルドだの、崖っぷちギルドだの言わせないのねぇん!」


 ……やっべ。


 僕は宣言する。


「クーリングオフ!」


「ギルド加入時には適用されないのねぇん!」


 くっ!


 クーリングオフ制度があることにも驚きだが、そもそも適用外だと!?


 頼みの綱であるリリカを見る。


 すると、手を合わせて「ごめんなさい」のポーズをしていた。


 美少女エルフまで使うとは、何たる手腕。


 こんなの、引っ掛からない男はいないだろう。


 良いさ、良いさ。


 リリカちゃんの笑顔を見るために、これからは身を粉にして働こうじゃないか。


「溜まりに溜まった依頼書ねぇん♪ ぜぇんぶできたら? あっという間にC級ねぇん♪」


 カズが指差した先には、山積みの書類。


 全部、依頼書……つまり仕事じゃん。


 ドブ攫いからペット探しまで、ド定番の初心者クエストもある。


 ……これ、いつ終わるの?


 ギルマスにウサランスを刺したくなってきた……ズップリと。


「諦めなさい、ノリ……。あんたには悪いけど、今いるA級が帰ってくるまでの繋ぎで良いから……」


 エイラも声色を申し訳なさに染めている。


「訳ありなの?」


 一応、聞いておく。


 事情も知らずに雑用をやらされるのは嫌だからね。


「ディークっていうA級冒険者がいるんだけど、そいつが半年戻ってきてないらしいのよ……。そいつが帰ってくれば報酬の未払いなんて無くなるし、依頼もそれなりにこなせるから、臨時で冒険者を雇って、その書類も片付くって訳」


「なるほどね。ん?」


 でも、そうだとしても、おかしな点が一つある。


「なんで、僕しか冒険者がいないの?」


 みんな黙った。


 この雰囲気は、たまたま僕しかいないんじゃない。


 僕だけしかいない、と見る方が自然だ。


 僕からみんなが視線を逸らすということは、僕に言っていないことがあるということ。


 死んでしまったとかじゃない。


 それだったら、暗い顔で俯くはずだ。


 じゃあ、なんだ?


 僕が考えようとした、その時だった。


 ドアから誰かが入ってきた。


「ぃよぉ、戻ったぜ。んぁ? 見ねぇ顔だな……新入りか?」


 緑短髪のツンツンヘアー。


 マリモヘッドと言った方が良いか?


 目の周囲には薄っすらと傷がある。


 歴戦の猛者……と言われても、僕は信じる。


 そんな厳つい人物だった。


 このタイミングで?


「ディーク!? 今帰ってくるのねん!? 待つねん! ソレは有望な新人! お前に潰されてたまるかなのねん!」


 ふぁああああ!


 やっぱり、誰もいない元凶コイツじゃん!


「有望な? 良いことじゃねぇか。俺の相棒を探してたんだよ、ちょうどな」


 舐め回すように見ないで!


 嫌な予感しかしないヤツゥ!


「まずは依頼の報告からするねぇん!」


 ディークは、紙切れをカズに差し出した。


 カズは、それを食い入るように見る。

 そしてプルプルと震えた。


「その報告書の通りだ。喜べ、カズ。報酬は公爵閣下からきっちり下りる。つー訳で、コイツ借りるわ」


 僕の首根っこを掴み、引き摺るディーク。


 僕は子猫のようにジッとするしかなかった。


「待つねん、ディーク! どこ行くねぇん!?」


「ホーンフォレストにダンジョンが出現した。公爵閣下からのご指名依頼だ。潜ってくらぁ。この新人と一緒になぁ」


 今日くらいは、ベッドで眠れると思ったのにぃ!

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