豊臣は永遠に滅びぬ 〜足軽から始まった、黄金の世界一等国〜
燦然と輝く大坂城の天守閣からは、世界中の南蛮船が行き交い、かつてない活気に沸く大坂の港が一望できた。
史実のような戦火の硝煙はどこにもない。そこにあるのは、世界一豊かで平和な経済都市の姿だった。
大坂城の大広間には、織田信長様をはじめ、織田家、徳川家、そして全国の名だたる大名たちが一堂に会していた。老境に差し掛かった信長様が、満足そうに笑って宣言する。
「秀吉。お前が作ったこの『経済と貿易の日本』は、俺の想像を遥かに超えた。今日この時を以て、天下の差配のすべてをお前に譲る。好きにせよ、天下人」
信長様から正式に「天下」を譲られ、ひざまずく大名たちから地響きのような歓声が上がる。
オレが振り返ると、そこには史実で悲惨な運命をたどったはずの仲間たちが、全員笑顔で生き生きと並んでいた。
プレッシャーから解放され、優秀な内政官として活躍する甥の秀次。
「秀吉殿、江戸の街づくりは順調ですぞ」と最高の盟友として笑い合っている徳川家康。
複式簿記を駆使し、世界貿易の総責任者として楽しそうに書類を捌く石田三成。
オレが作った新しいガラスの茶器を愛でながら、新しい文化を楽しんでいる千利休。
史実で豊臣を崩壊させた「内部の不和」や「後継者問題」は、オレの先回りによって1ミリも存在しない、完璧なワンチームがここに完成していた。
そこへ、当時世界最強と言われた南蛮の超大国から、日本を脅しにかかる特使(艦隊)がやってきた。武力による侵略を匂わせる不遜な態度に、並み居る大名たちが「一戦交えるか!」と刀に手をかける。
だが、天下人となったオレは高笑いした。
「戦? いやいや、そげな野蛮なことはせんでええ。三成、例の『あれ』を発動させぃ」
オレが発動させたのは、未来の経済知識を使った【世界初の金融制裁】と【貿易封鎖】だった。
オレが日本全国の銀(当時世界最大級の産出量)と、南蛮諸国が喉から手が出るほど欲しがる「お茶」や「生糸」の流通をピタリと止めると、敵艦隊は戦うための資金(兵糧)が底を突き、自国の経済が崩壊しかけて大パニックを起こした。
「武力でオレたちを支配できると思うなよ。これからはな、日本の『銭』と『美(文化)』が世界を支配するんだわ」
世界最強の帝国が、刀を一度も交える前にオレの足元にひざまずき、平伏して平等の通商条約を結び直した。世界を相手にした、圧倒的な国力無双だ。
宴の夜、オレは妻のねねと二人、大坂城の天守閣から平和な城下町の灯りを見つめていた。
第1話の冒頭でオレを苦しめた「豊臣が滅び、大坂城が炎上する悪夢」の記憶は、目の前にある美しい光によって、完全に上書きされて消え去っていた。
「ねね、オレはやった。今度の豊臣は、100年でも200年でも、この笑い声と一緒に続いていくがね」
ねねはオレの手を優しく握り、「はい、あなた。あなたは世界一の、最高の『お猿さん』です」と微笑んだ。
翌朝、再び慌ただしく、しかし活気に満ちて動き出す大坂城。
オレは泥にまみれていた足軽時代のわらじを懐かしく眺めた後、天下人の豪華な羽織をバサリと羽織った。
「さあて、三成! 次はイギリスの商人がお相手だったな。世界の金を全部大坂に集めるがて、ついてこい!」
「はっ、秀吉様!」
応じる三成、そして家康や秀次たちの頼もしい笑顔。
かつて最底辺の足軽だった男は、未来の記憶ですべての悲劇をひっくり返し、世界一豊かで誰も死なない「黄金の豊臣幕府」を率いて、どこまでも爆走していくのだった。
(完)




