表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社内恋愛応援部  作者: Kaito_Takahara


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/9

第8章 揺れる心

七月に入り、社内恋愛応援部は以前にも増して忙しくなっていた。


相談件数が増えたことで、悠真と彩乃は毎日のように打ち合わせを行い、社員たちの恋愛相談に向き合っていた。


周囲からの評判も悪くない。


「恋愛相談ならあそこに行けばいい」


そんな声も聞こえるようになっていた。


本来なら喜ぶべきことだった。


だが悠真の心は、どこか落ち着かなかった。


理由は分かっている。


分かっているからこそ厄介だった。


「失礼します」


その日やって来た相談者は、営業部の男性社員だった。


悠真は顔を見た瞬間、見覚えがあることに気づく。


「高橋さん?」


彩乃も驚いたように声を上げた。


そう。


第7章で彩乃と話していた、あの高橋だった。


「お久しぶりです」


高橋は笑顔で椅子に座る。


人当たりがよく、爽やかな雰囲気の男性だ。


女性社員から人気があるという話も聞いたことがある。


「今日はどうされましたか?」


彩乃が尋ねる。


すると高橋は少しだけ照れたように笑った。


「実は、好きな人がいて」


その言葉に、悠真は特に何も感じなかった。


最初の数秒は。


「その人に気持ちを伝えたいんです」


「なるほど」


彩乃がうなずく。


「ちなみにどんな方なんですか?」


何気ない質問だった。


高橋も何気なく答えた。


「明るくて、誰にでも優しくて、一緒にいると元気をもらえる人です」


彩乃は微笑む。


「素敵ですね」


「はい。本当に素敵な人なんです」


高橋は少し恥ずかしそうに笑った。


そして続ける。


「実はその人、この会社の人なんです」


「そうなんですね」


「はい」


ここまでは普通だった。


だが次の瞬間。


高橋の視線が、彩乃へ向いた。


ほんの一瞬だった。


しかし悠真は見逃さなかった。


そして。


気づいてしまった。


「……」


胸の奥が嫌な音を立てる。


まさか。


いや。


でも。


「その人のこと、好きになってどれくらいですか?」


彩乃はまだ気づいていない。


普通に質問を続けている。


高橋は少し考えた後、答えた。


「半年くらいですね」


半年。


ちょうど社内恋愛応援部ができる前後だ。


悠真の嫌な予感は強くなっていく。


相談が終わった後。


高橋は笑顔で帰っていった。


部屋には悠真と彩乃だけが残る。


「いい人でしたね」


彩乃が資料をまとめながら言う。


「……そうか」


「?」


彩乃が首を傾げる。


「先輩?」


「なんでもない」


またその返事だった。


彩乃は少し不満そうな顔をする。


「最近そればっかりですね」


「……」


「どうしたんですか?」


聞かれても答えられない。


なぜなら。


高橋の好きな相手が誰なのか。


ほぼ確信してしまったからだ。


その日の昼休み。


悠真が一人で資料を見ていると、廊下から聞き慣れた笑い声が聞こえた。


顔を上げる。


そこには彩乃と高橋がいた。


また話している。


しかも今日は昨日より楽しそうだった。


高橋が何かを話し、彩乃が笑う。


彩乃が話し、高橋が笑う。


ただそれだけ。


本当にただそれだけなのに。


悠真の胸は妙にざわついた。


「……」


資料の文字が頭に入ってこない。


自分でも驚くほど落ち着かない。


そしてふと思う。


もし高橋が告白したら。


もし彩乃がそれを受け入れたら。


その時、自分はどうするのだろう。


考えたくないのに。


考えてしまう。


その日の帰り。


珍しく彩乃が先に声をかけてきた。


「先輩!」


「ん?」


「今日、一緒に帰りません?」


悠真は少し驚いた。


いつもなら自然と一緒になることはあっても、彩乃から誘うことは少ない。


「別にいいけど」


「やった」


彩乃は嬉しそうに笑った。


その笑顔を見ただけで、少しだけ気持ちが軽くなる。


我ながら単純だと思う。


二人は並んで駅へ向かった。


夕方の風が少しだけ涼しい。


「そういえば」


彩乃が言う。


「高橋さん、頑張ってほしいですね」


悠真の足が止まりそうになる。


「……何がだ」


「恋ですよ」


彩乃は当然のように言う。


「好きな人がいるんですよね」


「そうだな」


「応援したくなります」


その言葉に、悠真は苦笑しそうになる。


——そりゃそうだ。


彩乃はそういう人だ。


誰かの恋を応援したい。


誰かの幸せを願いたい。


だからこそ、この部署にいる。


「先輩?」


彩乃が不思議そうに覗き込む。


「なんか変ですよ?」


「……別に」


また言ってしまった。


彩乃は少し笑う。


「今日は三回目です」


「数えてたのか」


「数えますよ」


そう言って笑う彩乃。


その笑顔を見ながら、悠真は思う。


本当は言いたい。


高橋の恋を応援したくない。


そう思っている自分がいる。


でも言えない。


そんな資格はない。


まだ何も伝えていないのだから。


その夜。


悠真は眠れなかった。


ベッドに横になっても、頭に浮かぶのは彩乃のことばかりだった。


笑顔。


声。


仕草。


今日の帰り道。


全部が頭から離れない。


そしてようやく認める。


もうごまかせない。


これはただの好意じゃない。


仕事仲間への信頼でもない。


もっとはっきりした感情だ。


「……好きなんだな」


静かな部屋でつぶやく。


言葉にした瞬間、胸が少し苦しくなる。


なぜなら同時に気づいてしまったからだ。


好きだからこそ怖い。


失うのが怖い。


関係が変わるのが怖い。


それは以前、自分が相談者たちに話していた感情そのものだった。


そしてふと、第4章の彩乃とのケンカを思い出す。


「好きなら伝えたいって思うの、普通じゃないですか!」


あの時の言葉。


今なら少し分かる気がした。


誰かを本気で好きになった時。


気持ちを伝えたいと思うこと。


そして怖いと思うこと。


その両方を。


悠真は静かに目を閉じる。


恋愛応援部の部長代理。


恋を応援する側の人間。


そんな自分が今。


誰よりも恋に振り回され始めていた。

(第9章では、彩乃側も自分の気持ちに気づき始めて、二人の関係が大きく動き出す展開になるよ。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ