表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社内恋愛応援部  作者: Kaito_Takahara


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/3

第2章 最初の相談者

「失礼します……」


控えめなノックの後、扉がゆっくりと開いた。


入ってきたのは、少し緊張した様子の男性社員だった。年齢は悠真と同じくらいか、少し上だろうか。スーツの襟元を何度も直しながら、落ち着かない様子で室内を見回している。


「どうぞ、座ってください!」


彩乃がすぐに立ち上がり、柔らかい笑顔で椅子を勧めた。


「は、はい……ありがとうございます」


男性はぎこちなく腰を下ろす。


悠真はその様子を観察しながら、向かいの席に座った。こういう場面には慣れていない。だが、不思議と逃げたいとは思わなかった。


「それで、ご相談内容をお聞きしてもよろしいですか?」


彩乃がノートを開き、真剣な表情になる。


その切り替えの速さに、悠真は少しだけ驚いた。


「あの……実は……」


男性は一度言葉を詰まらせた後、意を決したように顔を上げた。


「同じ部署の先輩が好きなんです」


その言葉に、部屋の空気が静かに引き締まる。


「でも……なかなか気持ちを伝えられなくて」


「どれくらい前から想ってるんですか?」


彩乃が優しく問いかける。


「半年くらいです。仕事でよく話すんですけど、プライベートな話になると緊張してしまって……」


「なるほど……」


彩乃は丁寧にメモを取りながら、うなずいた。


悠真は腕を組み、少しだけ考える。

——よくある話だ。だが、その“よくある”の中にこそ、難しさがある。


「告白したいとは思ってるんですよね?」


悠真が口を開く。


「はい。でも……もし失敗したら、今の関係も壊れてしまいそうで……」


その言葉には、はっきりとした不安が滲んでいた。


悠真は小さく息を吐く。


「まあ、それはそうだな」


現実は甘くない。成功もあれば失敗もある。


だが、その横で彩乃がすぐに言葉を続けた。


「でも、何もしなければ何も変わりませんよね」


「……え?」


男性が驚いたように顔を上げる。


「気持ちを大切にすることって、とても勇気がいることです。でも、その一歩を踏み出せた人だけが、未来を変えられると思うんです」


まっすぐな言葉だった。


悠真は横目で彩乃を見る。

さっきまで明るく笑っていた彼女とは別人のように、真剣な表情をしていた。


「……そう、ですよね」


男性は少しだけ表情を和らげた。


「じゃあ、まずは準備をしましょう!」


彩乃は勢いよく言った。


「準備?」


「はい!いきなり告白するんじゃなくて、その前に“距離を縮める”ことが大事です」


「距離を……」


「相手の好きなものとか、休日の過ごし方とか、知ってますか?」


「えっと……少しは」


「それをもっと増やしていきましょう!」


彩乃は楽しそうに説明を続ける。


「例えば、共通の話題を増やしたり、自然に二人で話す時間を作ったり……」


「それ、ちょっとやりすぎじゃないか?」


悠真が口を挟む。


彩乃は一瞬だけこちらを見た。


「やりすぎですか?」


「相手のことを調べすぎるのは、逆に引かれる可能性もある」


「でも、何も知らないまま告白するよりはいいと思います」


「バランスの問題だ」


二人の間に、少しだけ緊張が走る。


男性は不安そうに二人を見比べている。


その様子に気づいた悠真は、小さく息を吐いた。


「……まあ、完全に間違ってるわけじゃない」


「え?」


彩乃が目を丸くする。


「情報はあった方がいい。ただし、“自然に”な」


「自然に……」


「会話の中で引き出すとか、共通のきっかけを作るとか。そういうやり方なら問題ない」


少しだけ言葉を選びながら説明する。


彩乃は数秒考えた後、ぱっと表情を明るくした。


「なるほど!それなら違和感なく距離を縮められますね!」


「そういうことだ」


「さすが先輩です!」


突然の賞賛に、悠真は少しだけ戸惑う。


「別に……普通だろ」


「いえいえ、すごいです!」


素直に笑う彩乃を見て、悠真はそれ以上何も言えなくなった。


その後、三人で具体的な作戦を立てていった。


昼休みに自然に話しかけるタイミング、共通の話題の見つけ方、さりげない誘い方。


一つ一つを丁寧に整理していく。


男性の表情は、来た時よりも明らかに明るくなっていた。


「……なんか、少し自信が出てきました」


「よかったです!」


彩乃が嬉しそうに笑う。


「まだスタートラインに立っただけだけどな」


悠真が現実的な一言を添える。


「それでも、大きな一歩です!」


彩乃はそう言い切った。


その言葉に、男性はしっかりとうなずいた。


相談が終わり、男性が部屋を出ていく。


扉が閉まった後、しばらく静寂が流れた。


「……どう思います?」


彩乃がぽつりと聞く。


「何がだ」


「この仕事です」


悠真は少しだけ考えた。


「……正直、まだよく分からない」


それが本音だった。


「でも」


「でも?」


「悪くはないかもしれないな」


自分でも意外な言葉だった。


彩乃は一瞬驚いた後、ふわっと笑った。


「ですよね!」


「まだ決めたわけじゃない」


「でも、少しはそう思いましたよね?」


図星だった。


悠真は苦笑する。


「……まあな」


そのやり取りの中で、ふと気づく。


さっきまで感じていた違和感が、ほんの少しだけ薄れていることに。


窓の外を見ると、いつの間にか日が傾き始めていた。


何も変わらないはずの一日。

だが、確かに何かが動き出していた。


それは小さな変化だったが、確実に。


——この部署での仕事は、ただの業務では終わらない。


そんな予感が、悠真の中に芽生え始めていた。


そしてその中心には、いつも明るく笑う一人の後輩がいる。


「次の相談、来るといいですね!」


彩乃の声が、静かな部屋に響いた。


悠真は小さくうなずく。


「……そうだな」


その言葉には、ほんの少しだけ前向きな気持ちが混ざっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ