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社内恋愛応援部  作者: Kaito_Takahara


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第1章 配属先の違和感

朝のオフィスは、いつもと変わらないはずだった。

規則正しく並ぶデスク、キーボードを叩く音、時折聞こえる電話の声。そんな日常の中で、佐藤悠真はただ一つ、違和感を抱えていた。


「佐藤、ちょっといいか」


上司に呼ばれたのは、始業から間もない時間だった。特にミスをした覚えはない。だが、どこか落ち着かない気持ちのまま会議室へ向かう。


「急な話で悪いんだがな」


そう前置きされた時点で、嫌な予感はしていた。


「君には新設部署に異動してもらうことになった」


「……新設部署、ですか?」


聞き返した声は、自分でも驚くほど冷静だった。だが内心では疑問が渦巻いている。そんな話は一度も聞いていない。


「これだ」


差し出された一枚の紙。そこに書かれていた文字を見た瞬間、悠真は思わず言葉を失った。


社内恋愛応援部


「……は?」


思わず声に出てしまった。


「そのままの意味だ。社員同士の恋愛をサポートする部署だな」


「いや、意味が分かりませんけど」


思ったことがそのまま口から出た。上司は少しだけ苦笑する。


「まあ、そうだろうな。正直、上の判断だ。職場の雰囲気改善や離職率低下を狙ってるらしい」


「はあ……」


納得できるような、できないような理由だった。


「とにかく、君は今日からそこだ。人員は少ないが、期待されている部署だぞ」


期待、という言葉がやけに軽く聞こえた。


こうして悠真は、半ば強制的に新部署へと向かうことになった。


指定された部屋は、オフィスの一角にひっそりと存在していた。

扉の前で一度立ち止まり、小さく息を吐く。


「……社内恋愛応援部、ね」


もう一度その名前を口にしてみても、やはり現実感がない。


ノックをして扉を開けると、そこにはすでに人の気配があった。


「——あ、来ましたね!」


元気な声が飛んでくる。


視線の先にいたのは、一人の女性だった。

肩までの髪を揺らしながら立ち上がり、ぱっと明るい笑顔を向けてくる。


「はじめまして!山本彩乃です。本日からこの部署で助手を務めます!」


勢いよく頭を下げるその姿に、悠真は一瞬言葉を失う。


「……佐藤悠真だ」


なんとかそれだけを返す。


「よろしくお願いします、佐藤先輩!」


“先輩”と呼ばれたことに、少しだけ違和感を覚える。確かに年次的には上だが、いきなり距離が近い。


「えっと……ここ、本当にその……」


「社内恋愛応援部ですよ!」


食い気味に答えられた。


「……だよな」


確認するまでもなかったらしい。


彩乃は机の上に広げられた資料を指差しながら、楽しそうに続ける。


「社員同士の恋愛をサポートして、より良い職場環境を作るのが私たちの役目です!」


「それ、本気で言ってるのか?」


思わず聞き返してしまう。


「はい!」


迷いのない返事だった。


悠真は思わず頭をかいた。

どうやらこの後輩は、この仕事を完全に受け入れているらしい。


「……で、具体的に何するんだ?」


「恋の相談に乗ったり、告白のタイミングを考えたり、成功率を上げるお手伝いです!」


「それ、完全にプライベートの領域じゃないか」


「でも、職場での人間関係って大事ですよ?」


にこっと笑いながら言われ、悠真は言葉に詰まる。


「誰かの恋がうまくいったら、その人はもっと仕事も頑張れると思うんです」


「……」


「そうやって、みんなが少しずつ幸せになれたら、いい職場になると思いませんか?」


まっすぐな目だった。


理屈としては分かる。だが、それを本気でやろうとする人間がいるとは思っていなかった。


「……変わってるな」


ぽつりと漏らす。


「よく言われます!」


まったく気にしていない様子で笑う彩乃に、悠真は小さく息をついた。


だが、不思議と嫌な感じはしなかった。


その時、机の上に置かれていた内線電話が鳴った。


「はい、社内恋愛応援部です!」


彩乃がすぐに受話器を取る。


「えっ、本当ですか!?はい、ぜひお話を聞かせてください!」


数秒のやり取りの後、彼女は受話器を置いた。


「……最初の依頼です」


その一言に、部屋の空気が少しだけ変わる。


「営業部の方で、同じ部署の先輩に想いを伝えたいけど勇気が出ないそうです」


「もう来るのか……」


悠真は思わずつぶやく。


「はい!さっそく頑張りましょう!」


やる気に満ちた声だった。


一方で悠真は、まだ状況を完全に受け入れきれていない。

だが、逃げる理由もなかった。


「……分かったよ」


そう答えた自分に、少しだけ驚く。


「ほんとですか!?」


「まあ、仕事だからな」


それだけのはずだった。

ただの業務の一つ。そう思っていた。


——この時までは。


後に、この部署での経験が、自分の価値観を大きく変えることになるとは、まだ知らない。


そして何より——


目の前で嬉しそうに笑うこの後輩が、自分にとって特別な存在になることも。

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