表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第四章「真実の欠片」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/166

第89話 観測される者

石造りの建物だった。


華美な装飾は一切ない。


だが——


一歩足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。


「……ここが」


メイラが小さく呟く。


「王立観測局」


案内してきた男は、静かに頷いた。


長い廊下。


左右には扉が並び、ところどころに見えるのは——魔導式の観測装置。


水晶。


記録盤。


そして、見慣れない紋様。


「……気持ち悪いわね」


ライラが低く言う。


「見られてる感じがする」


「その通りです」


男は振り返らずに答えた。


「ここは“観る”ための場所ですから」


その一言に、セリスの指先がわずかに強張る。


(観る……)


(何を)


(どこまで)


やがて、一つの部屋の前で足が止まる。


「こちらへ」


扉が開かれる。


中は、思ったよりも質素だった。


机と椅子。


壁一面の記録棚。


そして——


一人の男。


「お待ちしておりました」


年齢は四十前後。


落ち着いた声音。


だが、その目は鋭い。


「王立観測局、第二観測官です」


名乗らない。


それが、この場所の“普通”だった。


「座ってください」


促されるまま、セリスは椅子に座る。


ガイウスたちは後ろへ。


——一対一。


そんな空気が、自然と出来上がる。


「さて」


観測官が、紙を一枚取り出す。


「まず確認します」


顔を上げる。


その視線が、まっすぐセリスを射抜いた。


「あなたは、“人間”ですか?」


——一瞬。


言葉の意味が理解できなかった。


「……は?」


メイラが思わず声を漏らす。


「何言って——」


「彼女に答えてもらいます」


静かな遮断。


逃げ場はない。


セリスは、喉の奥で何かが引っかかるのを感じた。


(人間……)


(私は)


答えが、出ない。


「……分からない、です」


ようやく絞り出した言葉。


観測官は、わずかに頷いた。


「結構」


さらりと書き込む。


「では次」


紙がめくられる。


「あなたは、“神”を認識していますか?」


空気が変わる。


ガイウスの視線が、鋭くなる。


ライラが無言で舌打ちした。


「……それは」


セリスが言いかける。


だが、観測官は続けた。


「我々の定義では、“神”とは特定の個体を指します」


一拍。


「——帝国、ヴェストファーレン公爵」


沈黙。


その名が、この場所で“そう定義されている”こと。


それ自体が、異常だった。


「……知っているか、と問われれば」


セリスはゆっくり答える。


「はい」


「接触は?」


「……ありません」


嘘ではない。


だが、完全な真実でもない。


観測官は、その微細な揺れを見逃さない。


だが——追及はしない。


「では」


次の質問。


「“悪魔”については?」


——心臓が、跳ねた。


(……来た)


ノイエは、沈黙している。


だが、その存在が“そこにある”のは分かる。


「……分かりません」


短く答える。


「そうですか」


観測官は淡々と書き込む。


だがその筆圧が、わずかに強くなった。


「では、こちらから提示します」


机の引き出しから、一枚の図が取り出される。


それは——


円だった。


三つに分割された。


「世界は現在、三つの位相で観測されています」


指が、一つを指す。


「神」


次。


「人間」


そして——


最後。


「悪魔」


静かな声。


だが、その内容はあまりにも重い。


「そしてあなたは」


指が、中央ではなく——


境界をなぞる。


「ここにいる」


セリスの呼吸が、止まる。


(境界……)


「極めて不安定な位置です」


観測官の目が、わずかに細くなる。


「正直に言いましょう」


紙を置く。


「あなたは“危険です”」


空気が凍る。


メイラが一歩踏み出しかける。


だが——ガイウスが止めた。


「理由は?」


短く問う。


観測官は答える。


「三つの位相すべてに干渉可能な個体は、過去に例がない」


一拍。


「制御不能になった場合——」


言葉が、静かに落ちる。


「世界構造そのものに影響を及ぼす可能性があります」


沈黙。


重い。


あまりにも。


「……じゃあ、どうするの」


ライラが低く言う。


「捕まえる?殺す?」


観測官は、首を横に振った。


「いいえ」


その答えは、予想外だった。


「観測を継続します」


「は?」


「あなたは貴重な“サンプル”です」


その言い方に、明確な温度の欠如があった。


「そして同時に——」


視線が、わずかに鋭くなる。


「既に帝国側も、同様の認識に至っています」


セリスの背筋に、冷たいものが走る。


(……アルベルト)


「時間の問題です」


観測官は、静かに告げる。


「彼は来るでしょう」


その一言で——


すべてが繋がる。


追跡ではない。


これは——


「……狩りじゃない」


セリスが呟く。


観測官は、わずかに口元を歪めた。


「ええ」


否定しない。


「“最適化”です」


その言葉。


どこかで聞いた響き。


「排除か、利用か」


静かに続ける。


「いずれにせよ、あなたは選ばれます」


——選ばれる。


その言葉に、強い違和感。


(違う)


セリスは、ゆっくりと顔を上げた。


「……選ぶのは」


声は、小さい。


だが、確かだった。


「私です」


沈黙。


観測官の目が、わずかに変わる。


「……なるほど」


初めて、ほんの少しだけ“興味”が滲む。


「それが——人間側の回答、ですか」


セリスは答えない。


だが、その沈黙が答えだった。


観測官は立ち上がる。


「本日の観測は以上です」


あまりにもあっさりとした終わり。


「宿は手配しています。しばらく王国に滞在してください」


「……監視付きで?」


ライラが言う。


「当然です」


否定すらしない。


扉が開かれる。


「そして——」


最後に、観測官は振り返った。


「備えてください」


一拍。


「次は、“対話”では済まない可能性が高い」


その意味は、明白だった。


——外へ出る。


空気が、やけに軽く感じる。


だが、胸の奥は重いままだった。


「……最悪ね」


ライラが吐き捨てる。


「完全にロックオンされてるじゃない」


「でも」


メイラがセリスを見る。


「さっきの」


セリスは、ゆっくりと空を見上げた。


(神)


(悪魔)


(人間)


その全部に、触れてしまっている。


「……うん」


小さく頷く。


「分かってたことだから」


強がりではない。


事実だ。


ただ一つ、違うのは——


(逃げられない)


完全に。


その時。


遠くで、鐘の音が鳴った。


ゆっくりと。


重く。


まるで——


何かの“到来”を告げるように。


セリスは、目を細める。


(……来る)


理由は分からない。


だが、確信だけがあった。


——次は。


もう、“観測”では終わらない。

いつも応援ありがとうございます。

セリスの選ぶ「非合理な正しさ」と、それによって少しずつ変わり始める魔剣の関係性。書いていて私自身も、意志の力が世界にどう抗えるのかを考えさせられます。

実は、この『魔剣』とは正反対の「超合理的・現実的」な視点で歴史を再構築する物語も並行して執筆しています。


『室町ホールディングス再興録 〜過労死コンサル、足利義昭に転生す〜』

https://ncode.syosetu.com/n6067lz/


こちらは『魔剣』とは打って変わって、現代のビジネス知識で戦国の世を「ホワイト化」しようと奮闘するコメディ寄りの戦記です。

「意志」で戦うセリスと、「知略とシステム」で戦う義昭。

アプローチは真逆ですが、「理不尽な運命をどう塗り替えるか」という根底のテーマは共通しています。

もしよろしければ、息抜きがてら覗いていただけると嬉しいです。あちらの信長も、なかなかに「非合理」な男ですよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【開始12時間で100PV突破の注目の新作!】意志を持つ禁忌の魔剣は、彼女を守る剣か、それとも彼女を喰らう器か? 復讐に燃える王女が世界の真実を斬り拓く、本格ダーク戦記。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ