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【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第三章「崩れていくもの」

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第68話 侵食

二日後。


乾いた風が、街道をなぞるように吹いていた。


三人は、無言で歩いていた。


帝都へ向かう道。


まだ遠い。


距離以上に——心が重かった。


足音だけが、規則的に続く。


石と土を踏む音。


その単調さが、逆に思考を浮かび上がらせる。


「……前方に気配」


不意に、ライラが言った。


声は低く、短い。


「帝国の追手?」


セリスが問い返す。


「……恐らく」


間違いではない、という確信があった。


「数は?」


「五人。こちらの動きを把握している」


囲まれる前提の配置。


ただの偶然ではない。


「……やっぱり、来るわよね」


メイラが小さく呟く。


ガイウスがいれば——もっと早く気づいた。


もっと安全なルートを選べたかもしれない。


(……いない)


その事実が、胸の奥に沈む。


「どうする?」


ライラが視線を向ける。


「戦う」


セリスが言う。


即答だった。


「逃げることも——」


「逃げない」


言葉を遮る。


「ここで逃げたら、また追ってくる」


「それに——」


少しだけ、間を置く。


「もう、逃げるのはやめたから」


——


帝国兵が、現れた。


街道の先。


木陰から、ゆっくりと。


「——見つけた」


低い声。


五人。


全員、剣を抜いている。


統制が取れている。


ただの兵ではない。


「ヴァルキリーよ。観念しろ」


「しない」


セリスが、剣を構える。


迷いはない。


(ノイエ)


意識を内に向ける。


『……補助します』


機械的な声。


けれど、どこか柔らかさが混じる。


(最小限で)


『……了解しました』


ほんのわずかな沈黙。


それが、何かを示していた。


踏み込む。


一合、二合——


金属音が、乾いた空気を裂く。


速い。


帝国兵の動きは、訓練されたものだった。


だが——


(読める)


三合目で、崩す。


わずかな重心のズレ。


そこを突く。


一人、倒れる。


呼吸が、浅くなる。


メイラが回復魔法の準備をする。


背後から、温かな魔力の流れ。


ライラが情報を流す。


「……左、来ます」


振り返る。


二人、同時に来た。


連携。


(——っ)


受ける。


重い。


弾かれる。


腕に、衝撃が走る。


体勢が崩れる。


足が、半歩遅れる。


その瞬間——


視界が、わずかに歪んだ。


瞳が、変わった。


銀色に。


光を反射するように、冷たく。


後光が——滲む。


「——っ、ノイエ、待って」


『……侵食が進んでいます』


冷静な声。


感情がないようで——ある。


「分かってる」


歯を食いしばる。


『……限界が——』


「大丈夫」


言い切る。


だが——


大丈夫ではなかった。


体の奥が、熱い。


何かが、広がっていく。


でも——動けた。


むしろ——


動きが、研ぎ澄まされていく。


残りの二人を、制する。


無駄が消える。


感情が、削がれる。


ただ“勝つ”ための動き。


全員、動かなくなった。


静寂が戻る。


——


戦闘が、終わる。


風の音だけが残る。


メイラが駆け寄る。


「……また、変わりました」


不安を隠せていない声。


「大丈夫よ」


息を整えながら答える。


「大丈夫じゃないです」


即座に返される。


「……分かってる」


視線を逸らす。


「なら——」


「止まれない」


その一言で、全てを断つ。


メイラが——唇を噛む。


小さく震える。


「……どうして」


絞り出すような声。


「守りたいものがあるから」


「……守りたいもののために——自分が消えたら」


言葉が、刺さる。


「消えないわよ」


反射的に返す。


「……セリスさん」


メイラの目が——真剣だった。


逃げ場を与えない視線。


「消えないって——言い切れますか」


セリスが——少し、止まる。


ほんの一瞬。


だが、それは確かな“迷い”だった。


「……言い切れない」


正直に答える。


「なら——」


「でも、止まれない」


それでも、前を向く。


メイラが「……ずるいです」と言う。


「そうね」


認めるしかない。


「……ずるいです」


もう一度言った。


今度は、少し震えた声で。


泣きそうな——声で。


ライラが「行くわよ」と言う。


空気を切り替えるように。


「……はい」


三人が、歩き始める。


再び、街道へ。


(ノイエ)


内側に、問いかける。


(……侵食が加速しています)


静かな声。


(どのくらい?)


わずかな間。


(……今は、言えません)


(言えない、じゃなくて——言いたくないんでしょ)


沈黙。


宝石が——動かなかった。


光らない。


応答しない。


それが——答えだった。


胸の奥に、冷たいものが落ちる。


それでも——


足は、止まらなかった。

いつも応援ありがとうございます。

セリスの選ぶ「非合理な正しさ」と、それによって少しずつ変わり始める魔剣の関係性。書いていて私自身も、意志の力が世界にどう抗えるのかを考えさせられます。

実は、この『魔剣』とは正反対の「超合理的・現実的」な視点で歴史を再構築する物語も並行して執筆しています。


『室町ホールディングス再興録 〜過労死コンサル、足利義昭に転生す〜』

https://ncode.syosetu.com/n6067lz/


こちらは『魔剣』とは打って変わって、現代のビジネス知識で戦国の世を「ホワイト化」しようと奮闘するコメディ寄りの戦記です。

「意志」で戦うセリスと、「知略とシステム」で戦う義昭。

アプローチは真逆ですが、「理不尽な運命をどう塗り替えるか」という根底のテーマは共通しています。

もしよろしければ、息抜きがてら覗いていただけると嬉しいです。あちらの信長も、なかなかに「非合理」な男ですよ。

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【開始12時間で100PV突破の注目の新作!】意志を持つ禁忌の魔剣は、彼女を守る剣か、それとも彼女を喰らう器か? 復讐に燃える王女が世界の真実を斬り拓く、本格ダーク戦記。
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