姉御
夜営。
森の中。焚き火を囲む五人。
ライラが地図を広げ、淡々と説明している。
「西への検問は二箇所。ここは昼間だけ。こっちは夜も動いてる」
「夜も、となると迂回が必要だな」
ガイウスが地図を指す。
「この森を抜ければ検問を避けられる。ただし——」
「魔獣が出る」
ライラが続ける。
「この季節は縄張り争いの時期。夜は特に危ない」
「昼間に抜ける?」
メイラが言う。
「それが無難ね」
ライラが地図を畳む。
「明後日の朝に動けば、検問の交代時間と重なる。一番人が薄い」
「……よく調べてある」
ガイウスが言う。
感心、というより確認するような口調だった。
「仕事だから」
ライラがあっさり返す。
沈黙。
焚き火が揺れる。
リオが枝をくべながら、ライラを見る。
「……あんた、強いな」
「そう?」
「昼間の立ち回り。五人相手に一人で二人やった」
「三人のつもりだったけど、間に合わなかった」
悔しそうに言う。
リオが少し笑う。
「……負けず嫌いだな」
「当然でしょ」
メイラがお湯を注いだカップをライラに差し出す。
「どうぞ」
「……ありがと」
ライラが受け取る。
一口飲んで——
「上手いわね」
「薬草を少し入れてます。疲れが取れるので」
「気が利く子ね」
メイラが小さく笑う。
ライラはもう一口飲んで、セリスを見た。
「ねえ」
「なに?」
「あんた、王女なんでしょ」
空気が変わる。
リオの手が止まる。
「……手配書に書いてあった」
ライラが続ける。
「エルデン王国、第一王女セリス。国が滅んで逃亡中」
「……そうよ」
セリスは、目を逸らさない。
「隠すつもりはない」
「隠せないでしょ、あの顔で」
ライラが軽く言う。
「で——王女が何をしたいの。帝国に復讐?」
「違う」
即答だった。
「……守りたい人がいる。まだ生きている人たちを」
ライラが、セリスを見る。
しばらく。
「——ふうん」
何かを考えるような間があった。
だが、それ以上は聞かなかった。
「私も一つ、聞いていい?」
今度はセリスが問う。
「どうぞ」
「帝国が嫌いな理由。昨日、今はそれだけって言ってたけど」
ライラの指が、カップの縁をなぞる。
一瞬だけ、目が遠くなった。
「……昔、世話になった人が帝国に消された」
静かに言う。
「消された?」
「殺されたか、捕まったか、逃げたか——今でも分からない。ただ、いなくなった」
焚き火が、小さく弾ける。
「それだけよ」
それ以上は、語らない。
語る気がない顔だった。
「……そう」
セリスは、それだけ言った。
深追いしない。
ライラが、わずかに目を細める。
「聞かないの?」
「聞く必要がある時に聞く」
「……」
ライラが、また口の端を上げる。
「やっぱり面白い子ね、あんた」
リオが小声でメイラに言う。
「……なんか、懐かれてないか」
「懐いてるというか——認めてる感じですね」
メイラが小声で返す。
「ライラさん、人を見る目がある人だと思います」
「お前、なんでそんなに落ち着いてるんだ」
「リオくんが落ち着きなさすぎるんです」
「……それは否定できない」
ガイウスが地図を見ながら言う。
「明後日の朝、森を抜ける。それまでに体力を戻しておけ」
「はーい」
リオが気の抜けた返事をする。
「返事」
「了解です、ガイウスさん」
「……さん、はいらない」
「じゃあなんて呼べば」
「ガイウスでいい」
「それ、距離縮まってないか?」
ガイウスは答えない。
ライラが「ふふ」と小さく笑った。
本物の笑いだった。
夜が深まる。
一人、また一人と横になっていく。
セリスが火の番をしていると——
「眠れないの?」
ライラが隣に座る。
「少し考え事をしてた」
「王女は大変ね」
「あなたも、眠れないの?」
「新しい場所では、すぐ眠れない性分で」
ライラが空を見上げる。
星が出ていた。
「……いい仲間ね」
ぽつりと言う。
「そう思う」
セリスが答える。
「だから——守りたい」
ライラは、その言葉を黙って聞いていた。
何かを、考えている顔だった。
(……この人は)
セリスは思う。
(まだ、何かを隠している)
だが、今は聞かない。
聞く必要がある時が、きっと来る。
焚き火が、静かに燃えていた。
星が、瞬いていた。
五人の夜営は——
まだ、続く。
最後までお読みいただきありがとうございます!
次回は**【本日23時】**に更新予定です。
新たなパーティーでの初戦闘という展開になりますので、ぜひお見逃しなく。
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