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魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第二章「守るということ」

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姉御

夜営。


森の中。焚き火を囲む五人。


ライラが地図を広げ、淡々と説明している。


「西への検問は二箇所。ここは昼間だけ。こっちは夜も動いてる」


「夜も、となると迂回が必要だな」


ガイウスが地図を指す。


「この森を抜ければ検問を避けられる。ただし——」


「魔獣が出る」


ライラが続ける。


「この季節は縄張り争いの時期。夜は特に危ない」


「昼間に抜ける?」


メイラが言う。


「それが無難ね」


ライラが地図を畳む。


「明後日の朝に動けば、検問の交代時間と重なる。一番人が薄い」


「……よく調べてある」


ガイウスが言う。


感心、というより確認するような口調だった。


「仕事だから」


ライラがあっさり返す。



沈黙。


焚き火が揺れる。


リオが枝をくべながら、ライラを見る。


「……あんた、強いな」


「そう?」


「昼間の立ち回り。五人相手に一人で二人やった」


「三人のつもりだったけど、間に合わなかった」


悔しそうに言う。


リオが少し笑う。


「……負けず嫌いだな」


「当然でしょ」



メイラがお湯を注いだカップをライラに差し出す。


「どうぞ」


「……ありがと」


ライラが受け取る。


一口飲んで——


「上手いわね」


「薬草を少し入れてます。疲れが取れるので」


「気が利く子ね」


メイラが小さく笑う。


ライラはもう一口飲んで、セリスを見た。


「ねえ」


「なに?」


「あんた、王女なんでしょ」


空気が変わる。


リオの手が止まる。


「……手配書に書いてあった」


ライラが続ける。


「エルデン王国、第一王女セリス。国が滅んで逃亡中」


「……そうよ」


セリスは、目を逸らさない。


「隠すつもりはない」


「隠せないでしょ、あの顔で」


ライラが軽く言う。


「で——王女が何をしたいの。帝国に復讐?」


「違う」


即答だった。


「……守りたい人がいる。まだ生きている人たちを」


ライラが、セリスを見る。


しばらく。


「——ふうん」


何かを考えるような間があった。


だが、それ以上は聞かなかった。



「私も一つ、聞いていい?」


今度はセリスが問う。


「どうぞ」


「帝国が嫌いな理由。昨日、今はそれだけって言ってたけど」


ライラの指が、カップの縁をなぞる。


一瞬だけ、目が遠くなった。


「……昔、世話になった人が帝国に消された」


静かに言う。


「消された?」


「殺されたか、捕まったか、逃げたか——今でも分からない。ただ、いなくなった」


焚き火が、小さく弾ける。


「それだけよ」


それ以上は、語らない。


語る気がない顔だった。



「……そう」


セリスは、それだけ言った。


深追いしない。


ライラが、わずかに目を細める。


「聞かないの?」


「聞く必要がある時に聞く」


「……」


ライラが、また口の端を上げる。


「やっぱり面白い子ね、あんた」



リオが小声でメイラに言う。


「……なんか、懐かれてないか」


「懐いてるというか——認めてる感じですね」


メイラが小声で返す。


「ライラさん、人を見る目がある人だと思います」


「お前、なんでそんなに落ち着いてるんだ」


「リオくんが落ち着きなさすぎるんです」


「……それは否定できない」



ガイウスが地図を見ながら言う。


「明後日の朝、森を抜ける。それまでに体力を戻しておけ」


「はーい」


リオが気の抜けた返事をする。


「返事」


「了解です、ガイウスさん」


「……さん、はいらない」


「じゃあなんて呼べば」


「ガイウスでいい」


「それ、距離縮まってないか?」


ガイウスは答えない。


ライラが「ふふ」と小さく笑った。


本物の笑いだった。



夜が深まる。


一人、また一人と横になっていく。


セリスが火の番をしていると——


「眠れないの?」


ライラが隣に座る。


「少し考え事をしてた」


「王女は大変ね」


「あなたも、眠れないの?」


「新しい場所では、すぐ眠れない性分で」


ライラが空を見上げる。


星が出ていた。


「……いい仲間ね」


ぽつりと言う。


「そう思う」


セリスが答える。


「だから——守りたい」


ライラは、その言葉を黙って聞いていた。


何かを、考えている顔だった。


(……この人は)


セリスは思う。


(まだ、何かを隠している)


だが、今は聞かない。


聞く必要がある時が、きっと来る。



焚き火が、静かに燃えていた。


星が、瞬いていた。


五人の夜営は——


まだ、続く。

最後までお読みいただきありがとうございます!

次回は**【本日23時】**に更新予定です。

新たなパーティーでの初戦闘という展開になりますので、ぜひお見逃しなく。

面白かった、続きが気になる!と思っていただけましたら、

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