第147話 繋がる断片
三日間——準備をした。
山への食料。
防寒のための衣類。
ベックへの連絡。
ライラが——一つずつ、手配した。
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その間に。
セリスは——一人で、記録を見ていた。
ガウスから受け取った写しと——ベックから聞いた情報。
そして——ベルフェゴールが言っていた言葉。
「その剣の本当の名前を——いつか、知ることになる」
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(……繋がっている)
(でも——全体が、まだ見えない)
(断片が——ある)
(でも——全体を繋ぐ何かが)
(まだ、足りない)
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「……何を見ているんですか」
メイラが——来た。
「記録です」
「ガウス教授の?」
「ええ。それと——ベックから聞いたことも」
「何か——わかりましたか」
「……断片は、ある」
「でも——繋がりきっていない」
「どんな断片ですか」
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セリスは——紙を、メイラに向けた。
「魔導石は——ルシファーの封印と同じ力で作られている」
「知っています」
「バール教の光の神バールが——封印を維持しようとしている」
「ええ」
「ヴェストファーレン公爵が——私をヴァルキリーとして育てようとしていた」
「……ヴェストファーレン公爵」
メイラが——少し、止まった。
「エルマさんの旦那さんでしたよね」
「義兄です。エルマさんの兄」
「……あの方が、セリスさんをヴァルキリーとして?」
「そういう節が——あった」
「ガイウスも——62話で密偵の兆候に気づいていた」
「……でも、なぜですか」
「……まだ、全部は分からない」
「でも——一つ、引っかかっていることがあります」
⸻
「何ですか」
「公爵が——私に偽名を用意していた」
「セラ・エーレンベルク」
「帝都に入る前から——用意されていた」
「……事前に知っていた、ということですね」
「ええ」
「私が帝都に向かうことを——知っていた」
「それは——どういうことか」
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メイラが——少し、考えた。
「……計画していた、ということですか」
「そうかもしれない」
「でも——公爵が、なぜセリスさんのことを」
「……そこが——まだ、分からない」
「でも——引っかかっている」
「引っかかりを——たどっていく」
メイラが——頷いた。
「ノイエみたいですね」
「……そうかもしれない」
⸻
「……ガイウス」
セリスが——呼んだ。
「何だ」
「一つ——聞いていいですか」
「ああ」
「ヴェストファーレン公爵について——どう思いますか」
「どう、とは」
「あの人が——何者なのか」
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ガイウスが——少し、間を置いた。
「……正直に言う」
「ええ」
「あの男は——人間ではないと思っていた」
「……人間ではない?」
「62話に——密偵の兆候を感じた、と言った」
「ええ」
「あの時——感じたのは、密偵の兆候だけではなかった」
「何を感じたんですか」
「……人間が持つ——限界を感じなかった」
「限界?」
「人間は——情報を収集する時に、どこかで限界がある」
「知らないことがある」
「間違えることがある」
「でも——あの男は」
「私が気づいていないことを——すでに知っていた」
「私の過去を——調べていた痕跡があった」
「それが——自然すぎた」
「人間が調べた、にしては——あまりにも」
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「……自然すぎた」
セリスが——繰り返した。
「ええ」
「人間が調べれば——どこかに、痕跡が残る」
「でも——あの男の知識には、痕跡がなかった」
「初めから——知っていたような」
「そういう知り方だった」
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「……ノイエ」
セリスが——静かに、呼ぶ。
『……はい』
「ヴェストファーレン公爵について——知っていることがありますか」
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長い——沈黙。
⸻
『……』
返事が——なかった。
「……ノイエ?」
⸻
また——間があった。
今度は——いつもより、長かった。
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『……引っかかります』
「何が?」
『……その名前が』
「ヴェストファーレン公爵の名前が?」
『……はい』
「なぜですか」
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また——沈黙。
⸻
『……分かりません』
『でも——引っかかります』
『強く——引っかかります』
⸻
「……強く」
「以前より——強い引っかかりですか」
『……はい』
「どんな感じですか」
⸻
少し——間があった。
⸻
『……近い、と思います』
「近い?」
『……何かが——近い』
『あの男が——何者なのか』
『答えが——近い気がします』
「でも——分からない」
『……分かろうとしています』
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セリスは——少し、止まった。
(……ノイエが感じている)
(強い引っかかりを)
(私も——感じている)
(答えが——近い)
(でも——まだ、届かない)
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その夜。
セリスは——一人で、考え続けた。
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公爵が——偽名を用意していた。
公爵が——エルマさんを呼び寄せた。
エルマさんが——私を養子にしようとした。
公爵が——状況を設計して、能力を引き出す方式で動いていた。
神が——ヴァルキリーを育てようとしていた。
その方式が——同じだ。
状況を設計して——直接命令しない。
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(……同じだ)
(公爵の動き方と)
(神の動き方が)
(同じだ)
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「……ノイエ」
「一つ——聞いていいですか」
『……はい』
「神は——人間の姿をとることができますか」
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長い——沈黙。
⸻
『……できます』
「できる?」
『……神は——器を持てます』
『人間の体を——借りることができます』
「借りる?」
『……完全に乗っ取るのではなく』
『人間の体を——媒介として、存在できます』
「その場合——その人間は、どうなるんですか」
『……長くは、持ちません』
『でも——短い期間なら、可能です』
「長くは持たない——」
⸻
セリスは——止まった。
「……公爵は」
「エルマさんの兄は——長く生きていました」
「ずっと——公爵として」
「それは——一人の人間が、神に乗っ取られていたのではなく」
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『……あるいは』
ノイエが——静かに言った。
『……最初から』
『人間ではなかったのかもしれません』
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「……最初から」
「人間ではなかった」
「神が——人間の姿を作り出した」
「ヴェストファーレン公爵という——存在を、作り出した」
「そのために——エルマさんを兄として持つ、という設定も含めて」
⸻
『……分かりません』
『でも——引っかかります』
「強く?」
『……はい』
「……私も、強く引っかかっています」
「でも——まだ、確信が持てない」
「証拠が——ない」
⸻
「……証拠を探す必要がありますか」
メイラが——静かに言った。
「聞いていたんですか」
「少し——はい」
「……証拠がなくても」
「セリスさんが——そう感じているなら、そうなのかもしれない」
「証拠がなくても、動けることはある」
「感じていることを——信じていい時がある」
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「……ノイエ」
「あなたが——強く引っかかっている」
「その感覚を——信じますか」
⸻
少し——間があった。
⸻
『……分かろうとしています』
「その感覚を——信じることを?」
『……はい』
「……私も、同じです」
「まだ、確信は持てない」
「でも——信じようとしています」
「公爵が——神かもしれない」
「その可能性を」
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沈黙。
⸻
「……次の山への干渉が終わったら」
「もっと、近づけるかもしれない」
「ノイエが——封印核に触れることで」
「何か——分かることがあるかもしれない」
『……はい』
「一緒に——たどっていきましょう」
『……はい』
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夜が——深くなっていた。
灯りが——小さくなっていく。
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(……答えが、近い)
(でも——まだ届かない)
(でも——近い)
(それだけで——今夜は、十分だ)
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