王都陥落、そして私は魔剣を抜いた
はじめまして。
本作は「亡国の王女」と「意思を持つ魔剣」が織りなす、戦記ファンタジーです。
剣と魔法の世界でありながら、戦争や国家、そして“人とは何か”をテーマに描いていきます。
少しシリアス寄りではありますが、魔剣との掛け合いや成長要素も重視していますので、楽しんでいただければ嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
バール教暦1152年(帝国暦356年)——
燃えていた。
王都アルヴェリアは、空そのものが赤く染まるほどに燃えていた。
「——セリス」
振り返った瞬間、父の顔があった。
血に濡れながらも、その目だけは穏やかだった。
「これを持て」
差し出されたのは、一振りの剣。
飾り気のない黒い鞘。しかし、触れた瞬間——
それは脈打った。
「父上……これは……」
「決して抜くな」
短く、強い声だった。
だが次の瞬間、城門が破られる轟音が響く。
時間はない。
「生きろ、セリス」
その言葉が、最後だった。
——
気付けば、走っていた。
炎の中を。悲鳴の中を。
そして。
背後から迫る帝国兵。
「止まれッ!」
囲まれた。逃げ場はない。
震える手。
剣に触れる。
(抜くな)
父の言葉がよぎる。
だが——
剣が、囁いた。
『抜け』
その声は、冷たく、そして確信に満ちていた。
セリスは、剣を抜いた。
——その瞬間。
世界が、静止した。
音が消える。
炎の揺らぎも、兵士の動きも、すべてが凍り付いたように止まる。
そして。
『——認識しました』
頭の奥で、声が響いた。
冷たく、整った声。
『接続を確認。“器”としての適性を満たしています』
何を言っているのか分からない。
だが。
次の瞬間。
自分の身体が、勝手に動いた。
「……え……?」
剣が、振られる。
ただ、それだけ。
それだけで。
——目の前の敵が、消えた。
斬った感触すらない。
音も、抵抗もない。
ただ”そこにいたもの”が、いなくなった。
『初期稼働に問題なし』
その声は、どこまでも冷静だった。
『これより、あなたの生存を最優先とします』
息が、できない。
理解が追いつかない。
震える手。
だが、その剣だけは——
ぴたりと、自分の手に吸い付いたままだった。
『ご安心ください』
静かな声が、告げる。
『あなたはもう、一人ではありません』
——その言葉が。
なぜか、ひどく恐ろしかった。
——
後に語られる記録には、こう記されている。
バール教暦1152年、帝国暦356年——
グランツ帝国がエルデン王国を滅ぼした年。
そして。
一人の王女が、魔剣を抜いた年。
「バールの名において、世界の秩序は守られる」
——帝国軍の進軍旗に、その言葉は刻まれていた。
第1話を読んでいただきありがとうございます。
ここから、セリスと“普通ではない剣”の物語が始まります。
次話以降で、剣の異質さや世界観が少しずつ明らかになっていきます。
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引き続きお付き合いいただければ幸いです。




