ep.47『涙がこぼれそう』
翌日、再び冬月宅にて。
テーブルの上には昨日のUSBと二人分のマグカップが置かれている。
一昨日の件、紗和に確認を取るため、礼堂と冬月は作戦を擦り合わせていた。
冬月はカップを手に取り、コーヒーを一口すすってから口を開く。
冬月:「こういうのってさ、普段から仕事で色んな人に電話かけてる礼堂くんが適任じゃないかな?」
礼堂はカップを置き、眉をひそめる。
礼堂:「適任って何が?」
冬月:「いやさぁ、電話かけるの。」
礼堂:「は? だって俺は紗和さん見てないぞ。お前が見たんだから自分で言えよ。」
冬月はにやりと笑い、人差し指を立てて言う。
冬月:「何事も適材適所!この俺が能力を認めてるんだから相当レアだよ〜!期待されてるうちが華だよ、礼堂くん!」
礼堂:「お前はいつから俺の上司になった! ……どっちが電話するかの前に、まず“なんて言うか”決めないとな。」
冬月:「川端さんの家から帰る時に見かけたって、素直に言う?」
礼堂は腕を組み、しばし考え込む。
礼堂:「う〜ん……紗和さんが川端と繋がってた場合、警戒されないか? “あ、探られてる”って。」
冬月:「確かに。じゃあ『一昨日の夜、何してました?』って聞く。」
礼堂:「それはそれで怪しいよ。“なんだ急に”ってなるだろ。」
冬月は身を乗り出し、両手を広げる。
冬月:「じゃあなんて言えばいいんだよ!!」
礼堂は深いため息をつき、カップを手に取りながら視線を落とす。
礼堂は腕を組み、少し顎を上げながら提案する。
礼堂:「例えば……『紗和さん、一昨日の夜お酒飲んでました? 冬月が夜道で紗和さん見かけたとか言ってたんですけど、酒癖悪いからふらふら放浪してたんじゃないかって。俺は“いや、紗和さんはそんな放浪なんかしないよ、人違いじゃないか?”って話をしたんです。なんか心配になって電話しちゃいました。』――こんな感じでどうよ。」
冬月は腕を組んでうんうんと頷き、納得したような顔をする。
冬月:「うんうんうん!とても自然だし、怪しさもないね。かなり良いんじゃないかな〜……ってバカ!!!俺の好感度下がるじゃねーか! お前は上がるし! 却下!! 俺とお前逆にしろ!」
礼堂は涼しい顔で肩をすくめる。
礼堂:「構わないよ、逆でも。ただし、電話かけるのお前になるけどな。」
冬月:「ぐっ……汚いぞ貴様!」
礼堂:「そもそもなんで電話するの嫌なんだよ。」
冬月はソファにもたれ、視線を天井に向ける。
冬月:「う〜ん……なんか、ミスれないじゃん? もし紗和さんが動揺でもしてたら、気遣って話変えちゃいそうだし。その点、君はドライにいけるでしょ?」
礼堂:「人をなんだと思ってやがる。……まあいいや、俺がなんとか聞いてみるよ。」
冬月は指を突きつける。
冬月:「酒癖悪いとか言うなよ。」
礼堂:「分かってるよ。まあ、実際に夜道歩いてたのが紗和さんだとしても、隠すだろうな。」
冬月は顎に手を当て、少し考え込む。
冬月:「ただ、紗和さんなら確実に動揺すると思う。」
礼堂:「よし……じゃあ電話かけるぞ。」
冬月は腕を組んだまま、じっと礼堂を見つめる。
礼堂は軽く深呼吸をしてから、スマホの発信ボタンを押した。
コール音のあと、明るい声が響く。
紗和:「もしもし〜♪ 礼堂くん?どうしたの?電話かけてくるなんて。」
礼堂:「いきなりすみません!……それより、紗和さん、大丈夫ですか?」
紗和:「大丈夫って…?何かあったの?」
礼堂:「いや〜、それがですね。冬月からさっき聞いたんですけど、一昨日の晩、紗和さんを夜道で見かけたみたいで。もしかしたらお酒に酔って、ふらっと出かけちゃったのかな〜なんて……ちょっと心配になっちゃって。」
紗和:「一昨日の晩か〜……えっと……私……何してたっけ? あれ……? 思い出せない……」
礼堂(心の声):「……おや、動揺してる?」
数秒の沈黙のあと、紗和が声を上げた。
紗和:「あ!!! 家にいたわ!野田っちと電話で話してたの。『私たちももっと知り合いを当たってみようか』って話してたのよ。だから、それはたぶん私じゃないわね。冬月くん、私の顔忘れちゃったのね? 悲しい……って伝えておいて(笑)」
礼堂:「あ〜、そうだったんですね! 紗和さん、あいつはホントそういうやつなんですよ!最低なやつなんですよ!」
横で聞いていた冬月の眉がピクッと動き、顔がムッとする。
礼堂:「ところで、紗和さんたちは何か手掛かり見つかりました?」
紗和:「そうね〜……ごめん、まだこれといったものはないかな。私も野田っちも個々で当たってはいるけど、何も掴めないの。野田っちと話しても、本業が忙しいみたいで、なかなか進まないわ。」
礼堂:「まあ、焦らずいきましょう! 紗和さんも野田さんも出来る範囲で大丈夫です。その分、俺たちが頑張りますから。」
紗和:「そんな……申し訳ないわ!私ももっと頑張る!」
礼堂:「一緒に頑張りましょう! あ、今度また夜魔に集まりましょう!」
紗和:「そうね、ぜひ。冬月くんにもよろしくね。
……あっ、でももうお顔忘れちゃったか〜(笑)」
礼堂:「はい!そのままお伝えしておきます!」
そう言って、2人は電話を切った。
切った瞬間、冬月がぼそっと
「いや、、忘れてないんやけど」とつぶやくのが、礼堂の耳にだけ届いた。