ep.46『紗和』
2人は、PCから流れる音が止まったあともしばらく沈黙していた。
ボウの歌声とギターの音色の余韻が、静かな部屋の空気に滲んでいく。
礼堂は目を細め、ゆっくりと息を吐いた。
礼堂:「これって……」
冬月は無言で画面を見つめていたが、やがてぼそっと答える。
冬月:「あぁ……。まぁ、たぶん……ボウさんの新曲なんだろうな」
礼堂は無言のまま頷いた。重たいものを聞いたというより、胸のどこかを温かく突かれたような、妙な気持ちだった。
だがすぐに、冬月の表情が険しくなる。
冬月:「でも、なんで川端さんがこのデータ持ってたんだ? ますます怪しいけど」
礼堂:「さぁな。ただ、確実に何かには絡んでる。でも……川端さんがボウさんを殺したようには思えないんだよなぁ。昨日の感じだと」
礼堂は腕を組み、ゆっくりと椅子にもたれかかる。その視線は天井の一点を見据えていた。
そのとき――冬月がふと何かを思い出したように目を見開き、声を上げた。
冬月:「なぁ、礼堂。昨日さ、川端さんの家から帰ったとき、俺……偶然見かけちゃったんだよ」
礼堂:「何を見かけたんだ? 美人さんか?」
ふざけた口調で言うが、視線は冬月の真剣な顔に引っ張られる。
冬月:「そう。美人さん」
礼堂:「ズコ!!!」
思わずずっこける仕草をしながらも、礼堂の表情はすぐに真剣なものに戻った。
冬月:「……けどな。ただの美人さんじゃなくて……
あれはたぶん……紗和さんだった。」
礼堂:「はっ!? なんで!? お前、何言ってんだよ……!」
礼堂の声が一瞬高くなる。彼の中でも何かが急激に動いたのが伝わった。
冬月:「分からない。ただ……あの人、川端さんの家の方向に歩いていったんだ」
冬月は眉をひそめながら、机の上で手を組み、ゆっくりと首を振った。
礼堂:「……お前、なんでそれを今言うんだよ!!」
冬月:「だってさ……いつもよりも、少し綺麗だったんだよ。雰囲気も違ったし。……なんか声かけづらくて」
少し照れたように頭をかきながら、冬月が言葉を続ける。
冬月:「……紗和さん、実は川端アニキとデキてるのか?……デキテルノカナ?」
その言葉に礼堂は机に突っ伏しそうになりながらも、真顔で応じる。
礼堂:「……とりあえず、紗和さんに聞いてみよう」
冬月:「川端の野郎のこと、どう思ってますか?って聞くのか?」
礼堂:「ちがーーう!!!昨日の夜、何してたかって聞くんだよ!」
礼堂は思わず声を張るが、冷静さを保ちつつ椅子に深く腰を下ろす。
冬月:「……そんな直接聞いちゃって大丈夫か? 怪しまれない?」
礼堂:「まぁ……やんわり聞くしかないよな」
冬月は肩をすくめ、小さく頷いた。
部屋には再び静寂が戻る。
けれど、USBに残された音声と、夜道ですれ違った紗和ーーーそれらが確実に、次の一手を促していた。




