6話 秘密
エリェージュ選定の儀は無事に終わり、参加者は会場を後にして、各々の家や宿泊先へ。
夫婦となった俺とフォルテは一緒に俺の宿へ。
それを加味した部屋なので一緒ですが、何か?。
尚、フォルテに同行していたメイドさんも一緒に宅に来るそうです。もし、俺が婿入りしていたら、メレアさんも一緒だったそうです。
その為、同行するメイドは未婚者に限定されて、生涯仕えるんだそうです。
結婚しても、寿退職は基本的には無いんだとか。条件の良し悪しは現時点では何とも言えませんね。だって、詳しくは知りませんから。
そんな訳で、現在、部屋には俺達四人だけです。今後も長い付き合いになるので先ずは自己紹介を。フォルテ付きのメイドの名はクーリエで、十六歳。尚、メレアさんは十七歳だそうです。
「二人共、俺達の事は立場的に知ってはいると思う
だから、色々と思う事は有るだろうし、これからも頼る事・苦労させる事も少なくはないと思う
それでも俺は自分の選択を間違いだとは思わない
ただ、直ぐに結果として示す事も出来無い
だから、大変だとは思うけど、信じて欲しい
そして、俺達の紡ぐ未来を見届けて欲しい」
「……正直に申し上げれば、私がアルト様の同行と為ったのは旦那様と奥様、メイド長の決定です
私自身が希望して、という訳では有りません」
「まあ、メイドも雇われてる身だからね」
「はい、否とする事は難しいのが実情です
ですが、この道中で私の気持ちは変わりました
当初とは違い、アルト様に御仕えしたい
そう、心から思う様に為りました
アルト様が仰有られる様に今は未熟でしょう
しかし、それは誰しもが同じな訳です
私にも、そういう時期は有った訳ですから
勿論、当然だと言えば当然の事なのですが、それを当然の事として自らが実践出来る方は稀です
ですから、私はアルト様に御仕えし、見たいのです
この先、アルト様が成し遂げられる偉業を」
「……それは流石に過大評価じゃないかな?」
「それも可能性では有りませんか?」
「成る程ね、そう言われたら、そうだね」
「フォルテ様、アルト様が貴女を御選びに為られた理由は有るにせよ、貴女は貴女です
どうか、御自身の御意志を大事に為さって下さい」
「──っ、はい、有難う御座います」
俺の御株を奪う様に決め台詞を言ってフォルテを感動させるメレアさん。
涙ぐむフォルテを渡さない様に抱き寄せ、二人に見せ付ける様にする。
「盗りませんよ」という表情のメレアさんだが、そういう人程、油断ならないのが現実です。
尚、クーリエさんは途中から泣いていました。
聞けば、三歳の頃からフォルテを知っている為、彼女なりに抱えていた気持ちが有ったそうです。
何だかんだで俺もフォルテも恵まれてますよ。
こうして理解してくれる人が居るんだから。
その後、四人で軽く談笑して、予定の確認。
慌ただしい話だけど、明日には今居る王都を離れセンテリュオンに戻り、一泊。
翌朝には再び王国船でメルーディアに。
少し位は観光させて下さいよ。
国費だから仕方無いにしても、新婚旅行代わりの御祝儀みたいなもので。
此方は国事として頑張ってるんだから。
──という文句を言いたくなります。フォルテと二人だけの時には愚痴りましたけどね。フォルテも賛同してくれたので二票は有ります。
メレアさん達が退室した後は、部屋にフォルテと二人きりという訳で。ちょっと緊張しました。
新婚初夜ですが、事実としての初夜です。決して夫婦の営み的な初夜は先の話です。
御風呂こそ別々でしたが、ベッドは一緒。
フォルテに左腕で腕枕をしながら、他愛無い話を暫くして、抱き合う様に身体を密着させて就寝。
──って、眠れるかぁーいっ!!。
自分を滅茶苦茶慕ってくれてる美少女が横に。
ロリコンではないし、今は同い年だから遣っても犯罪にはならない。──と言うか夫婦だし。
勿論、手を出したりはしません。紳士ですもん。
ただ、今日は色々有って疲れてはいるけど、頭は妙に興奮状態──冴えてるって話なんです。
「……絶対に一人で背負わせはしないからな……」
そう呟きながら、右手で寝息を立てるフォルテの髪を撫で、見詰める。
フォルテに言った事に嘘偽りは有りません。
ただ、言っていない事は有ります。
それはフォルテ自身に関する秘密。
ゲーム的にはネタバレになりますが、フォルテは十二人のヒロインを全て攻略すると選択肢が現れる隠しキャラであり、真のヒロインだったりします。
ゲームでは舞踏会の時の様に主人公の元に順番に十二人のヒロインが挨拶をしに訪れ、会話をして、三つか四つの選択肢を選んで好感度を変動。
その後、指名イベントに移る、という流れ。
現実の誓契の宣儀と比べても大して違いません。
それが、十二人のヒロインを全てクリアした後、十二人各々と話し終える度に追加の選択肢が現れ、全ての選択肢が正しいと十二人目と話し終えた後に指名イベントに入らない展開へ進みます。
「少し気分転換に歩いてこよう」と席を立って、出逢い系イベントの王道、ヒロインと衝突が発生。其処で登場するのが、フォーコリュナーテ姫です。
俺の場合は自分から動いて接触しましたけど。
彼女には流れに任せたままでは出逢えません。
そんな真のヒロインであるフォルテですが。
彼女の魔力評価が無空なのは魔力が無い為です。それ自体は設定上、揺らぐ事は有りません。
しかし、フォルテには強大な力が眠っています。ゲームのタイトルが示す通りの力が。
そう、魔力ではなく、神力が、です。
そして、その神力こそが、ゲームの核心。
ゲームでは前後半の2パートに分かれています。その後半パートが、ゲームとしては本番です。
ゲーム後半のストーリーは選択したヒロイン毎に内容も舞台も異なります。
共通点はシステムだけです。ゲームなので。
ストーリーは各ヒロインの設定に伴っている為、別々の物語として成り立っていたのが特徴。
個人的にも気に入っていた理由の一つです。
その為、所謂ラスボスも十二通りです。
しかし、真のヒロインである彼女のラスボスには頭を抱えさせられました。
一応、周回ボーナスやクリアボーナスが有って、初期とは比較出来無い強さや装備等を持つのに。
ボッコボコにされまくりましたからね。
真のラスボスは、滅茶苦茶エグい設定でした。
だから、はっきり言って選びたくはない相手。
自ら地獄に飛び込む様なものですからね。
ただ、エリクシス王子が選ばないなら。
世界は滅亡に向かって驀地、という事に。
ゲームでは各ルートで物語は終了しますが。
原作の凝っていた所は、時系列が確かな事。
つまり、十二人のヒロインのエンディングよりも彼女のストーリーで世界が滅亡の危機に瀕するのは後に為っているんです。
だから、無関係では居られません。
ゲームそのまま、とは限りませんが。
笑って無視出来る可能性でも有りませんからね。誰かが遣るしかないなら、遣るしか有りません。
だって俺も死にたくは有りませんから。
──という訳で、俺が彼女を指名した訳です。
そうじゃなかったら、今頃はセレサティーナ嬢かステファニー嬢を指名し、イチャラブ生活でした。
別にフォルテに不満は有りませんけどね。
ちょっとばかり気合いを入れて生きないと簡単に死ねるハードさだって話なだけです。
ただ、この辺りはフォルテには話せません。
言っても信じられないでしょうし、余計な不安を抱えさせるだけですからね。
だから、先ずは自分達の下地作りから。
ゲームみたいにステータスが有るんだとしても、ゲーム後半からの要素でしたからね。
多分、その辺りも現実とは近い気がします。
ゲームでは前半でのヒロインとの関係や好感度で後半のステータスに大きな差が生じていました。
だから俺も先ずはフォルテとイチャラブします。それで強く成れるなら一石二鳥です。
そんなこんなで、目の前には久し振りの我が家。
まあ、出発の時にチラッと見た程度なんで大して見慣れた感はしないんですけどね。
どうせ明日にはフォルテ達と一緒に生活を始めるクライスト家の別邸に移る事に為りますから。
「初めまして、御義父様、御義母様、皆様
私は、フォーコリュナーテ・エルールエ・フォン・クライストと申します
未熟な身ですが、宜しく御願い致します」
俺が妻と紹介し、フォルテが丁寧に挨拶。
俺と舞踏会で話していた時よりも堂々としていて思わず見惚れてしまう程。
道中、こっそり俺と練習していたのは内緒。
素のフォルテは意外と緊張し易いので。その辺を努力で補い、形に出来るのは彼女の才能。
俺はゲームの知識が無くても、彼女を失敗作等と思う事は絶対に有り得ない。
寧ろ、そう思える連中は他に大勢居るからな。
尚、挨拶をしたフォルテの家名はクライストに。俺と結婚したので当然。戸籍も変わります。
「父上、母上、私もフォルテを妻に迎えた身です
まだまだ未熟ですが、これからは一層の努力をし、二人で共に未来を築いてゆきたいと思います
まだ色々と御迷惑も御掛けする事とは思いますが、御指導・御鞭撻の程、宜しく御願い致します」
そう言ってフォルテと一緒に頭を下げる。
暫しの静寂が有り──背後から拍手が。
メレアさん達から?。いや、続く様に周囲からも拍手が聞こえてきたので取り敢えずは成功かな。
──とか思いながら、頭を上げたら、無言のまま母上が近付いてきて俺の額に手を当てる。
そして、「……熱は無いわね」と一言。それって一体どういう意味ですかね、母上?。
……そうですか、そういう意味ですか。
くっ……俺の知らないアルト君の所業が憎い。
まあ、良い方に評価が上がり易いんですけど。
宅の両親はフォルテに対して含む所は無い様で、普通に俺の嫁として歓迎してくれている。
寧ろ、「こんな息子だが、宜しく頼む」といった雰囲気の方が強いから、俺としては複雑。
フォルテが嫌な目に遇わないなら構わないが。
もう少しは我が子の評価を上げて下さい。
それはそれとして、宅の両親が貴族っぽくはない理由は、この二人が珍しい恋愛結婚だから。
幼馴染みという訳ではなくて、舞踏会で御互いに一目惚れし、父上が母上を指名、と。
ただ二人は三歳差だが、それは父上が八歳の時、風邪で参加出来ず一年遅れた為。
同時に、母上は戸籍持ちには珍しく六歳で参加。これは当時の母上の実家が色々焦っての事らしい。貴族といっても皆が裕福・安泰な訳ではないので。
そんな事情が重なり、結ばれた訳です。
だから、恋愛に対して物凄く寛容なんだとか。
これはメレアさんからの情報です。
出来れば、その情報は早めに欲しかった。
まあ、何にしても、偏見や差別無く、フォルテを受け入れてくれる両親には素直に感謝しています。
まだフォルテは自分に自信が有りませんからね。些細な事でも傷付き易いので。俺が愛を以て伝え、自信を持たせ、確かなものにしてみせます。
「アルト様、御義父様も御義母様も優しい方ですね
こんな私を笑顔で受け入れて下さいました」
「フォルテ、そんな風に自分を卑下するのは禁止
ずっと、そういった価値観の中で育ってきてるから染み付いてるんだろうけど」
「ですが……」
「フォルテが自分を卑下するって事は、妻に選んだ俺の事も、父上や母上、クーリエさんの事も一緒に卑下するのと同じなんだって気付いてる?」
「──ぁ……わ、私っ、その様なつもりでは──」
「判ってる、そういうつもりじゃないんだって
ただ、だからこそ、フォルテには胸を張って欲しい
何度でも言うよ、俺がフォルテを選んだんだ
誰かに言われた訳でも押し付けられた訳でもない
俺が、フォルテを欲しいと思ったんだ
だから、フォルテ、信じて欲しい」
「~~~っ、はいっ……」