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5話 指名


 ゲームを始めて選択出来るヒロインは十二人。

 セレサティーナ嬢達四人の他にも八人。

 彼女達が魔力評価では上位十二人でもある。

 それは必然と言えば必然なのかもしれない。

 ゲームとしては、ヒロインの能力は重要だから。


 さて、三時間程だっただろうか。

 舞踏会という名目の合コンパーティーが終わり、いよいよ、メインイベントの時間です。

 用意された特設ステージ上に並んだ椅子に座り、正面のステージ下の椅子に座る少女達を見詰める。

 舞台発表やアイドルやアスリートの記者会見ってこんな感じなのかもしれない。

 そんな感想を懐いてしまう。

 少女達の視線が重々しくて直視出来ません。



「只今より、第1763期エリェージュ選定の儀、誓契者の指名を行います

規定に則り、第一指名者から順に指名相手の名前を記入し、此方等に手渡して頂きます

発表後、指名された者は壇上へ上がって頂きます

そして、ステージ奥の扉から聖殿に進み、御二人で誓契の宣儀を行った後、右手の扉から出て、別室に移動して待機して頂く事になります」



 そう説明し、司会進行を務めるのは法衣と思しき服装をした女性。多分、宅の母よりも歳上だろう。それでも女優みたいに綺麗なんだから、この世界の女性のポテンシャルは凄いと思う。

 勿論、全員が全員ではないんだろうけど。


 聞き慣れない単語が有りますが、前世的に言うと結婚相手を指名し、そのまま結婚式を行う、と。

 まあ、そういう感じみたいです。

 正確には結婚式──御披露目パーティーは後日、各々で行うそうです。

 その辺りは王公貴族としての慣習なんでしょう。



「それでは、指名順第一位、セントランディ王国、エリクシス様、どうぞ中央へ」



 司会の女性に促され、席を立ってステージ中央に進み出る王子。その所作も一々様になっているから見詰める女子達の視線も熱い。

 場所と状況が違えば黄色い声援が飛び交っていて司会の声なんて聞こえないと思う。


 軽く会釈をした王子の前に女性がキャスター式のスコアスタンドみたいな物を移動させる。

 紙とペンが設置されており、其処に指名者が直に指名する相手の名前を記入する。

 特別な紙らしく、インクが滲む事は無く、直ぐに乾く為、その場で二つ折りにして、女性に手渡す。

 女性はスタンドを下げ、自分の立場に戻る。

 尚、スタンドはステージの端に控えるスタッフが新しい紙をセッティングし、次に備えられる。


 王子は中央に立ったままで、女性が間を置く。

 そう遣って会場全体を焦らしている所が、女性の技量──演出が上手いと思ってしまう。



「発表致します

エリクシス様の御指名は──セントランディ王国、エルロック公爵家のセレサティーナ様です」



 女性の発表に合わせ、参加する全員が拍手する。

 胸中は複雑だろうが、それはそれ、これはこれ。社交の場の建前てして、我を出す時ではない。


 俺にしても、この指名は予想通り。

 ゲームでは自分(プレイヤー)がヒロインを選ぶ。

 しかし、王子の立場で考えれば、舞踏会で会って一目惚れでもしない限り、知っている相手を選ぶ。家や国の事情が有れば話は変わるが。

 だから、この指名は最も妥当で高確率だった為、驚きも動揺もしません。


 指名されたセレサティーナ嬢は席を立ち中央へ。ステージに上がる前、他の女子達の方に向き直って一礼してから、王子の元へ。


 一瞬、視線が俺と合ったが、心から祝福する様に笑顔で小さく頷いて見せる。未練等は無いので。


 王子が左手を差し出し、彼女が手を重ね、拍手で見送られる中、開かれた扉の奥へと進んで行った。


 二人が入ると扉は再び閉じられる。

 参加者は事前に段取りの説明を受けているけど。一々仰々しいと思ったのは俺だけなのかな?。


 そんな事を考えている内に次の準備が整う。

 今度はステージの中央にスタンドが設置済みで、第二位の指名者であるレオナルド君が呼ばれた。

 王子と同じ様に記入し、女性に手渡す。



「発表致します

レオナルド様の御指名は──セントランディ王国、マリナ・ルマーノ様です」



 最年少で心構えも出来ていない少女が指名され、緊張しながらも、一つ一つを丁寧に遣っていく姿は思わず感動してしまう。

 流石に泣いたりはしませんが。

 彼女がフルネームで呼ばれたのは平民である為。差別ではなく、家名ではないので名前だけでは別の女子が間違ってしまう可能性が有るから。

 そうなったら、一時的にとは言え混乱しますし、伝統的な場の雰囲気が悪くなりますからね。

 そうした事への配慮です。


 彼女の指名も予想通り。二番目のレオナルド君が嫡男だから婿入り条件の選択肢は先ず有り得ない。その上で魔力評価順で選ぶと彼女になる。

 彼女には貴族社会で頑張って欲しいです。


 三番目はロマーナ君。席を立ちながら右手で髪を掻き上げたりしているが……それは必要かい?。

 ナルシストには何を言っても無駄だろうけど。



「────ノーザィラス王国、ワーゲリック伯爵家のステファニー様です」



 指名されたステファニー嬢が俺に対し複雑そうな視線を向けてきたが、こればかりは仕方が無い。

 誰が誰を指名するのかは話してはならない事だし訊いたりしてもいけない。

 神聖な儀式だからこそ、その辺りは厳格。

 予想は出来ても、牽制や交渉等は一切厳禁。

 だから、ステファニー嬢の幸せを祈っています。


 そして、いよいよ自分の指名番が来ました。

 候補者という意味では、先の三人が安牌。将来を考えたなら、セレサティーナ嬢かステファニー嬢が理想的だったと言える。



「発表致します……?──っ!?」



 紙を開いた女性が驚き、思わず此方等を見た。

 確かめる様な視線に俺は「間違い有りません」と真っ直ぐに見詰め返し、小さく首肯する。

 女性は小さく咳払いし、仕切り直す。



「発表致します

アーヴェルト様の御指名は──ノーザィラス王国、ノーゼンヴィット王家のフォーコリュナーテ様です

フォーコリュナーテ様、どうぞ此方等へ」



 女性の発表と共に、一瞬の静寂。次いで動揺。

 しかし、この場を汚す真似は同盟国全体に対する反逆行為に等しい為、参加者は拍手をする。

 彼是考えるより、兎に角、拍手をしなければ。

 そういう考えも有るんだろうけど。

 停滞したり、混乱したりする事は無かった。


 席を立ち、此方等へと静かに歩み出る少女。

 緩やかなウェーブを持った腰まで伸びる長い髪は自らの歩みで揺れる度、本の僅かな光の加減により柔らかな陽光の様な淡い金にも、一点の曇りも無く丹念に磨き上げられて輝く銀にも、一切の穢れ無く純真無垢を体現する様な純白にも見える白金。

 緊張しているのが一目で判る目元は、それでも尚少女の本質的な穏やかさと優しさを表している様に円らで愛らしく、真紅の眼は宝石の様に美しい。

 まだ少女ではあるが、王女という立場からか纏う雰囲気には威風堂々とした貫禄すら感じる。

 それが緊張によるものか、地なのかは別にしても妻として隣に立っている姿を想像すると頼もしい。


 そんな妄想をしながら、ずっと見詰めていられる可愛らしさと美貌を備えた少女を妻に迎える。

 油断すると歓喜が爆発しそうです。本当に。


 先の三組と同様に開かれた扉を潜り、聖殿へ。

 高さは2ミードも無くて、扉と同じ形をしている真っ白な一歩道の通路を10ミード程進む。

 突き当たりに有る簾の様に細い縦長の白い布地のカーテンを潜り抜ける。

 その先に有ったのは巨大なホール──ではなく、半径3ミード程のドーム状の空間。

 天井の中央から射し込む光が、中央を照らす中、その奥──真正面に真っ白な石像が有る。

 事前説明によると、全ての魔力持ち──つまりは王公貴族の始祖とされる大聖女様を模した物とか。


 事の真偽は兎も角、今は儀式を行う事が最優先。

 一言も話してはいないが、これも儀式の一環。

 扉に入る前から、誓契の宣儀は始まっている。


 俺達は中央の光が射し込む場所に並んで跪く。

 男子が右、女子が左。

 俺が左手を出し、彼女が右手を重ね、握ったまま空いている手を自らの胸に当てる。

 その体勢で目蓋を閉じ、1分程の黙祷。

 目蓋を開けた後、彼女と顔を見合わせてから前の石像を見詰めながら、誓契の宣言を紡ぐ。



「──私、アーヴェルト・ヴァイツェル・フォン・クライストはフォーコリュナーテを妻とし、生涯を共にすると誓います」


「私、フォーコリュナーテ・エルールエ・フォン・ノーゼンヴィットはアーヴェルトを夫とし、生涯を共にすると誓います」


『永き時の始端より、現在(いま)へと到る血の系譜

現在(ここ)より遥かなる終端へと続く命の史跡

私達は、如何なる苦難にも障害にも屈する事無く、この想いを、愛と成し、命を繋ぐ事を誓います』



 声を重ね、言い終えた瞬間。

 足元から光が溢れ、自分達を包み込む。

 それは一瞬の事で、視界が眩むという事も無い。ちょっとした不思議体験。

 そして、気付けば繋いでいる手の甲には光り輝く紋章の様な物が浮かび上がっていた。

 直ぐに光が薄れ、見えなくなってしまったけど。消えて無くなった訳ではなく、確かに其処に在る。そう感じられるのは、それが誓契紋(スティグマ)だから。

 また、その代わりに誓契紋の刻まれた手の中指に純白の指環が填まっています。

 これは“真愛の誓環”という魔道具だそうですが正確には魔道具とは違うのだとか。

 魔道具とされるのは便宜上の扱いだそうです。


 彼女と顔を見合わせると立ち上がり、右手に有る扉から出て聖殿を後にする。

 同じ様な造りだけど、まるで雰囲気が違う普通の建物と変わらない10ミード程の通路を進んだ後、待機していたメイドさん達に案内され、個室へ。

 個室とは言っても、前世でスイートルームに近い立派な部屋だし、彼女と一緒だけど。

 これから一緒に暮らす夫婦なんだから、これ位で気にしてたら遣ってられませんよ。

 メイドさんも居ないので自分で飲み物を入れる。



「フォーコリュナーテ様、何にしますか?」


「ぇ?、あっ!、アーヴェルト様、私が──」


「ああ、そんなに気を遣わなくても大丈夫ですよ

──って、これだと一緒ですね

気にするな、フォーコリュナーテ

俺達は夫婦になったんだ

必要以上に気を張る様な事はしなくてもいい

肩の力を抜いて、話そう」


「ですが…………判りました、アーヴェルト様」


「俺の事はアルトでいいよ

そう家族や家の者達から呼ばれてるからね

フォーコリュナーテは?」


「ぇ……ぁ……いえ、私は……特には……」


「あー……御免ね、王族だと愛称で呼ぶ事は無いか

でも、そのままだと堅いし…………うん、それなら今から“フォルテ”って呼んでもいいかな?」


「…………フォルテ……」


「しっくりこないなら、別なのを考えて──」


「──いえ!、フォルテで御願いします!」



 初めて彼女が自己主張する様に距離を詰める。

 ただ、自分でも意識した行動ではなかった様で、我に返ると距離の近さに顔を真っ赤にする。

 慌てて離れようとするが、それは許さない。

 直ぐに左手を彼女の腰に回して抱き寄せる。

 バランスを崩し必然的に俺の胸に凭れ掛かる様な格好になってしまう。

 そして、自分よりも頭一つは身長の低い彼女からすれば見上げる形になる。

 照れている美少女の上目遣いの破壊力は凄まじいとだけ言って置きましょう。



「も、申し訳──んっ……」


「礼儀作法や言葉遣いは大事だけど、俺達は夫婦だ

これから御互いに支え合い、認め合い、高め合って長い人生を一緒に生きていく

対外的な事は有るけど、基本的には対等な関係だ

だから、自分を卑下する様な事はするな

俺はフォルテ(・・・・)、御前を選んだんだ

決して、ノーザィラスの王家を選んだ訳じゃない

その事だけは、忘れないでくれ」


「……アルト様……」


「そう、それでいいんだよ」


「……ぇ?、あ……」


「改めて、これから宜しくな、フォルテ」


「……はいっ、宜しく御願いします、アルト様」



 そう言って笑う彼女を見て、俺も笑う。

 作り笑顔ではない、年相応の可愛らしい笑顔だ。これが見られただけでも彼女を選んだ価値は有る。勿論、ちゃんと考えての事だけど。


 まあ、それは兎も角として。

 まだ堅さは残っているが、それは仕方が無い。

 一国の王女とは言え、彼女は四女。王家の跡取りという訳ではないし、実質的には政略結婚要員。

 嫁ぎ先は国内外・家格・年齢・容姿は関係無く、王家の、国家の、政治的な理由で決定される。

 その為、此処で指名される事は大きな違い。

 だから、粗相が無い様に気を付けるのは当然。


 本来、婿を取るから立場的には優位に有る筈が、セレサティーナ嬢は配慮を欠かさなかった。

 王子が自分を選ぶ確証も保証も約束も無い以上、他の相手に悪印象を与えるのは愚策。

 その場合、後日、どんな相手との縁談が来るのか予想出来無いし、拒否する事も難しくなる。

 それが王公貴族の立場というもの。


 だから、先ずは御互いに知る所から。



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