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166話 紫水湖


 予想通りと言うべきなのか。

 或いは、やはり、御約束の展開だと言うべきなのか。

 見付かったのは最後の四ヶ所目だった。


 フロイドさんが静かに天を仰いでいた。

 夜だから表情は、よく見えなかったという事で。


 探していた対象が今、目の前に有る。

 “アクーウパ”という体長2ミード程の淡水魚。

 見た目は鯉っぽい感じだが、背鰭に毒針を持っている。このサイズは珍しいらしい。獲ったからには食べてみる。決して、「毒持ちは美味い」と誰かが言った訳ではない。ちょっとだけ、同意する気持ちは有るけど。

 ……くっ、美味い。


 さてと、本題に戻って。

 体内から見付かったのは直径3サニタ程の球体。透明なガラス玉の中にサイズの異なる八つの金環が有り、各々が違う動きをしている。その中央には直径3モレ程の鮮血を思わせる真っ赤な核晶。

 飲み込み易く、しかし、消化しないから排泄はされず、体内に残留し続けていた。

 小石程度の大きさだから気にもしなかったのだろうな。気にしても吐き出したりは出来無いと思うけど。

 兎に角、探していた反応は間違い無く、コレだ。

 コレなんだけど…………う~ん。



「……アルト様、何か気になる事が?」


「あー……え~と……これ、端末機(・・・)みたいだ」


「端末機?」


「俺が造ったカラー・アラート、アレと似てるかな

送受信する機能じゃないんだけど……

コレを介して離れた場所(・・・・・)でも効果範囲に出来る」


「え~と、つまり…………コレは本体じゃない?」


「うん、本体は別に有る」


「マジかぁ……」



 俺が言うのを躊躇った理由を理解し、その気持ちを皆を代表する格好でフロイドさんが体現する。

 それはまあ、多少なりとも落胆もしますよね。

 これだけ苦労して、解決とは行かなかったんだから。

 正直、俺も同じ気持ちです。俺が遣ると皆の集中力等が切れてしまうから出来ませんけどね。


 そう思っているとエクレが俺を見る。



「アルト様なら魔道具の魔力を辿る事が出来るのでは?」


「おおっ!」


「無理、これ機能停止状態だから」


「ぉぉぉ……」



 一喜一憂するフロイドさんの反応が面白い。

 ──が、愛妻(メイド長)が睨む。

 「遊ぶのなら片付けてからにして下さい」と。了解。


 少し考えてから、ナユが訊いてくる。



「アルト様、それはマルティエナさんの願いを叶える事で魔道具としての役目を果たした為、という事ですか?」


「恐らくは、そういう事なんだろうな

そして、機能停止状態って事は再稼働(・・・)するって事」


「──っ! それでは新たな誰かの願いを……」


「叶える事が出来るんだろうね」



 その事実には、全員が黙ってしまう。

 「またそんな人騒がせな……」という意味ではなく。

 「有り得ない……」という意味でです。

 それだけ破格の魔道具だと言えますからね。



「……あの、アルト様、凄いとは思うのですが……」


「代償が有るにしても、何故そんな物が、と?」


「はい」



 遠慮勝ちながらも、そう訊ねるフォルテ。

 ある意味、この魔道具は存在自体が歪だ。

 何より、自らの努力で多くを手にしてきたのがフォルテだったりしますからね。思う所は有る筈。

 勿論、俺や皆にしても同じですけどね。



「俺の場合はスキルで魔道具を造れる

でも、魔道具はスキルでしか造れない訳じゃない

現在は失われた技術だけど、その可能性は見えている」


「アルト様が手作り(・・・)された着火の魔道具(ライター)ですね」



 それは所謂、ライター的な形をした魔道具。名前自体は面倒だったから、そのままなんだけど。

 オイルの代わりに魔石を用いる。作製するにあたって、最も苦労し、難しかったのは着火時に起きる火力の調節。ただ着火させるだけだと火事になります。

 ええ、何度も失敗しましたとも。

 それでも、どうにか形には出来た。俺だから。

 いや、別に自画自賛している訳じゃないんで。

 はい、話を戻しましょう。



「要するに、コレは試作品(・・・)だって事」


「……だから、中途半端(・・・・)なのですね」



 そうエクレが評価するのも仕方が無い事。

 代償が必要だとは言え、願い叶えるにしては微妙な所。代償に見合わない願いであれば無駄死にだろう。

 …………いや、或いは、それが狙いなのか?



愚か者(・・・)が知れば群がりそうな魔道具ですね」



 同じ事を考えたのか、そう言うナユ。

 祖国から出て、冒険者として旅をして多くの人々を見たナユらしい視野な広さと柔軟な思考だと思う。


 試作品とは言え、コレが作製された時代の社会の状況が垣間見えた様な気がする。

 まあ、過去も現在も人は人なんでしょうね。



「──で、どうするんだ?」


「変わらないよ

本体を見付け出して破壊、或いは停止させてから回収

万が一の事を考えても残しては置けないしね」


「──となると、その本体が何処に有るのか、か……

手掛かりは無いんだよな?」


「残念ながら無いね~」



 端末機(コレ)からの逆探知も出来無いし、それらしい情報にも心当たりも無い。

 つまり、再び長期化する可能性が高まっただけ。

 はい、見事に手詰まりました。どうするかなぁ……



「カラー・アラートと似ているのであれば、有効範囲には限りは有るのですよね?

凡そでも範囲は絞り込めないのですか?」


「稼働状態ではないからなぁ……」


「……そうなると地道に、ですか……」



 そう遣り取りをしたメレアさんが深い溜め息を吐いた。

メレアさんとしては早く片付けてしまいたいから。

 勿論、それは俺達にしても同じ事なんですけど。

 それ以上に放置も放棄も後回しも悪手なので。このままどうにかして見付け出すしか有りません。



「抑の話として、何故、こんな所に?

本体が近くには無いのだとすれば誰が何の目的で?」


端末機(コレ)が有る理由を、本体を守る為の仕様だと考えれば一応は納得も出来るのでは有りませんか?」


「成る程……だけど、今まで起動していなかったのは?」


「それは流石に……」


「アクーウパが飲み込んだのが原因では?」


「それなら、アクーウパの願いを叶えるのでは?」


「……人ではないから、意思疎通が出来無かった?」


「だから、アクーウパの体内で、マルティエナさんに接近した事によって起動した、と」


「まあ、その可能性が高いでしょうね」


「トメジアス湖は湧水が溜まって出来ているから上流から流れてきたという可能性も無いから……難しいですね」


「……球体で、光って見えて、小さいから……

鳥の類いが何処かから運んで来た、とかは?

アクーウパが飲み込んだ位なのだから」


「確かに鳥は好きそうですが……どんな確率ですか?」


「さあ、考えたくも有りませんね」



 そんなナユとクリスとオリビアの会話。

 それを聞きながら「確かにな~」と思う。

 ──思うと同時に、何かが引っ掛かった。

 それが何かと考え──唐突に謎が解けた。



「オリビアの言った通りみたいだね」


「──え?」


「それでは、本当に鳥が?」


「いや、鳥は関係無いよ

重要なのは、製作者の意図とは無関係な移動だって事」



 そう言いながら、俺は顔を上げ、静かに見詰める。

 それに倣い──誰かが「──ぁ……」と声を漏らす。



「……まさか?」


「ああ、彼処──“メゥダ山”だ」






 メゥダ山はシブェラの森の中に有る小山。

 標高は100ミードも無く、直径300ミード程。

 六合目辺りまでは草木が生えているが、其処から上には植物は見られず、岩肌が剥き出しとなっている。

 その見た目から連想されるのが……まあ、アレです。

 だから、男性からすると縁起が悪い姿なので不人気。

 入山する冒険者も居ないし、登山客も居ない。

 見張らしは良さそうに思うけど、斜度が強く険しい為、観光向けに整備もされてはいない。下手に削ったりしても山崩れに繋がるかもしれないから。



「トジメアス湖の周辺や湖底、地下は探索したけど、()は全く気にしていなかったからね」


「では、此処に埋まっていた物が?」


「風雨に削られて露出してトメジアス湖に落下し、それをアクーウパが飲み込んで……って感じだろうね

確か、マルティエナさんが夢を見た時、オーヤニゥさんが留守だったのって、大雨(・・)被害の話の為だった筈だし」


「その大雨で、ですか……」


「土砂崩れとかも起きてはいないし、オーヤニゥさん達が気付かなかったとしても可笑しくはないしね

寧ろ、端末機が落ちる程度の落石だったんだろうね」


「ある意味、運が良かった訳ですね」


「どういう事?」


「調査の為に山に入っていれば、マルティエナさん以外の誰かが対象になっていた可能性が高い

そうなると、死者が複数(・・)出ていただろうな」


「あー……」



 ナユの一言にアンが反応したので俺が答えておく。

 人の欲は尽きず、不幸が有ると尚更に願う(・・)もの。

 ある意味、上手く出来ている仕組みだと言える。

 悪循環を悪用している仕組みではあるけれど。


 メゥダ山は小さく、トメジアス湖に端末機が落下したと考えれば範囲は絞り込め、直ぐに見付かる。

 八合目辺りの岩肌に出来た小さな亀裂。

 その奥に、埋没した魔力反応が有る。

 ……全体で探せば直ぐに見付けられたなぁ……



「ティア、御願い」


「はい、アルト様」



 【樹界天主】で俺達と埋没している魔道具の本体だけを亜空間へと転移させる。

 はい、無駄に掘ったりする必要は有りません。

 尚、これが実用としては初めてになります。

 勿論、事前に試用して検証済みです。



「……なあ、アルト様?

何か、想像していた魔道具とは違うんだが……」


「どんな形を想像していたのかは知りませんけど、願望を叶える魔道具ですよ?

それなら、自己防衛機能(戦闘能力)は付けますよ」


「そういうものなのか……」


「そういうものです」



 目の前に有る本体は虫っぽい四脚の下半身に、ゴリラの上半身を持った様な姿。

 勿論、生物的な姿ではなく、重機っぽい方向ですが。

 雰囲気として、そんな感じです。


 さて、いつもなら好戦的な我が家の面々が我先にと動く場面ですが──今回は流石に自重中。

 相手が魔道具であり、破壊すればいいという訳でもないですからね。

 ──という訳で、俺の独壇場となります。


 移動力は低い様で、逃げたりはしない。

 見た感じ、四脚は安定性を重視した物で、上半身が回転するタイプかな? ああ、合ってたみたいです。


 近付いて、横に回り込んだら、反応し、迎撃。

 ゴリラの腕──いや、削岩機……パイルバンカー?

 まあ、それっぽい腕で、叩いてきた。

 ……何故、回転しながら腕を振り回さない?

 ほら、簡単に懐に入れた。

 四脚の弱点は中央──機体の真下ですからね。


 まあ、勿論、対策は……………………あれ?

無い?


 上半身が回転しながら右往左往している。

 腕の構造的に真下は自損を防ぐ為にも攻撃不可能みたい仕様なのは判るけど……う~ん。

 所詮は試作品って事かな。


 まあ、これなら無駄に破壊しなくても機能を停止させる事は容易いですね。

 え~と、動力回路は………………ああ、有った。

 …………これを造った奴って馬鹿なの?

 そう思った俺は悪くないと思う。

 何? この自爆装置は。

 俺としては、自爆装置はロマンじゃないと思う。




 翌朝。徹夜明けの為、起床は遅め。

 しかし、外に出て直ぐに村の人達に囲まれた。

 ああはい、判ってます。

 トメジアス湖が元に戻ったんですよね?

 昨夜、一足先に確認していますから。


 ああ、嬉しい事も感謝している事も判ります。

 判りますけど、祝宴等は不要ですから。

 昼過ぎには俺達は発ちますから。ええ、旅の途中なので今後の無事を祈っていて下さい。その気持ちだけで俺達は十分ですから。


 村の人達を誤魔化し──いえ、説得し、湖へ。

 集まって喜んでいる人達の中にオーヤニゥさんと並んで立っているマルティエナさんの姿が。

 此方等に気付き、揃って頭を下げる。

 大事にされる前に近付いて、マルティエナさんの状態を診させて貰い、問題無しと判断。

 マルティエナさん自身も昨日までの不調が嘘の様だと。健康な様で何よりです。



「アルト様、これが本当のトメジアス湖なのですね」


「ああ、観光地になるのも納得だな」


「はい、とても美しい景色です」



 フォルテと話しながら、有るべき姿を取り戻した宝石の様に神秘的な紫水晶の水面を見詰め、目を細める。

 バレたら面倒なので、さっさと退散しますが……

 今は、それも忘れて、この眺望を楽しみましょうか。



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