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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 作者:よっしゃあっ!
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88.再会


 割れた窓ガラスから漏れる僅かな明かりが、六花ちゃんの姿を照らす。
 別に明かりなんてなくても、『暗視』がある俺には問題はないのだが、イチノセさんは別だ。
 彼女は血塗れで倒れた六花ちゃんの姿を見た瞬間、表情を変えた。

「嘘……リっちゃん……リっちゃ―――むぐっ」
「叫んでは駄目です。いくらスキルがあるとはいえ、用心に越したことはありません」
「ッ……(こくり)」

 『影』で口を覆われ、もごもごとしていたイチノセさんだが、やがて大人しくなる。
 『認識阻害』や『気配遮断』の効果があるとはいえ、絶対ではないのだ。
 周囲にモンスターや人の気配がしないのは『索敵』で分かっているが、それでも用心するに越したことはない。
 イチノセさんと共に―――というか、背負ってるんだけど――急いで倒れている六花ちゃんの下へ向かう。

「わんっ」

 モモは六花ちゃんのそばで、はやくはやくと吠える。
 前にも一度会っているし、モモは彼女の匂いを覚えていたのかもしれない。
 しかし、相変わらずこういう時のモモの判断力は凄まじいな。野生の勘か?

「ぅ……」

 触れると、六花ちゃんは僅かに声を上げた。
 良かった。どうやら死んではいないらしい。

 だが、ギリギリだ。
 酷い状態だ。
 肉体の至る所が切り裂かれ、わき腹に至っては大きく抉られている。
 普通ならとっくに死んでもおかしくない程の大怪我だ。
 それでも生きながらえているのは、おそらく彼女が延命できる何らかのスキルを持っているからだろう。肉体の治癒力を高めるとかそういうスキルだろうか?自己再生?それとも肉体再生とかか?以前治療した時も、異常に傷の治りが早かったしな。

 でも、早急に何とかする必要があるだろう。
 そう言えば、西野君はどこだろう?一緒じゃないのか?
 はぐれたのか、それとも―――いや、今はそれどころじゃないか。

「イチノセさん、回復薬の手持ちは?」
「……ありません。またガチャで当てないと……」
「SPの残りは?」
「…………1です」

 ラストチャンスってことか。
 SPの譲渡が出来れば、俺のポイントを使っても良いんだけどな。

「―――『ガチャ』」

 イチノセさんは躊躇なくスキルを発動させる。
 『ガチャ』を実際に見るのは初めてだな。こんな感じなのか。
 眼前にレトロなレバーボックスが出現する。駄菓子屋で見かける様な感じのヤツだ。
 レバーの上にある黒い帯の様な部分は何だろう?スロットの様にも見えるけど……?

「……お願い。出て……ッ!」

 ゆっくりと、イチノセさんはレバーを回す。
 そして出てきた景品は―――。



 ―――どうして、こうなったんだろう?

 薄れゆく意識の中、六花が感じたのはそんな疑問だった。
 食堂でモンスターたちと戦っている最中に突如聞こえた謎の叫び声。
 それを聞いたモンスターたち―――特に六花たちが相手をしていたレッサー・ウルフたちが一斉に動きを止め、怯えだした。
 いや、レッサー・ウルフたちは怯えというよりも、畏れのような感情を抱いていた気がしたが、どうでもよかった。彼女にとっては好都合だったから。

 西野の制止を振り切り、モンスターたちの間をすり抜け、六花は食堂を抜けた。
 自然と、その足取りは先ほどの叫び声の方へ駆ける。
 特に根拠はない。強いて言えば、勘だ。
 だが、なんとなくそちらの方に彼女の探し人がいるように感じたのだ。

 彼女が。
 一之瀬奈津が。
 六花の親友だった少女が。

 だった。そう、過去形だ。

 今から一年以上前、彼女の親友は学校を中退した。
 原因はイジメ。
 クラスメイトからの陰湿な嫌がらせを受け、彼女は不登校になり、学校を去った。
 それを主導して行ったのが、グループのリーダー格である六花だった。

 ―――と、学校やクラスメイトには認識されている。

 でも、事実は違う。 
 六花は知らなかったのだ。
 親友がイジメを受けている事も、それを行っていたのが自分の所属しているグループだったことも、そして―――その原因が自分にあったことも。

 六花は高校に入って見た目をがらりと変えた。
 俗にいう高校デビューと言うやつだ。
 元々の顔立ちも整っていたし、社交的な性格も相まって彼女は瞬く間にクラスの中心になった。クラスの垣根を越えて、他クラスにも仲の良い者たちが増えた。
 ただ、見た目が変わっても、クラスが別々になっても、六花は変わらず親友との交流を続けていた。

 だが、それを面白くないと思う者達も居た。
 学園カーストの頂点に居る六花と、底辺に居るような地味な少女。
 釣り合わない、気に入らない。そう考える者も居たのだ。
 くだらない嫉妬心。くだらない劣等感。
 六花の所属していたグループの中にもそんな感情を抱いていた者たちが少なからず居た。
 そして、その牙は、六花の知らない間に親友に向けられていたのだ。

 六花が気づいた時には、もう全てが手遅れだった。
 親友は学校を去り、彼女達の周到な根回しによって、六花はイジメの主犯格とされた。
 会いに行くことも連絡を取る事も出来なかった。
 向こうの両親と学校が、それを許さなかった。
 こうして六花は最も親しい友人を失った。

 ぽっかりと胸に穴が空き、それでも上っ面だけはなんとか見繕って、へらへらと何でもないように見せかけて、彼女は今日まで過ごしてきた。

 だが、再会した。
 このモンスターのあふれる世界で。
 彼女の顔を見た瞬間、それまで溜めこんでいた感情が爆発しそうになった。
 また一緒に遊びたい。話をしたい。
 買い物で服を選んだり、家で一緒にゲームをしたり、そんな何でもないような事を一杯したかった。

(でも……もう……無理かなぁ……)

 食堂を抜けてからも、激闘の連続だった。
 校内にも予想以上にモンスターは大勢居たのだ。
 戦って、探して、戦って、探して、結局見つけ出せなかった。
 そして今、六花は力尽きようとしていた。

 手足の感覚がもう殆どなかった。
 辛うじて自分が壁にもたれかかっているのだけは分かる。
 息を吸い、吐き出すだけでも、体が悲鳴を上げている。
 もうじき自分は死ぬ。
 はっきりと、それを認識して尚思い浮かぶのは親友の顔だ。

(……謝りたかったなぁ……)

 死ぬ前にただ一言。
 謝りたかった。
 そして出来る事なら、今度こそ彼女を守りたかった。

(死にたくないなぁ……)

 死んだら謝れない。
 死んだら守れない。
 だから死にたくない。

 ふと、足音が聞こえた。
 なんだろう?

「わんっ」

 犬の鳴き声が聞こえた。
 それに次いで、誰かが走ってくる音も聞こえた。

 誰だろう? 
 二人?だろうか?
 よく見えない。よく聞こえない。
 誰かが何かを叫んでいるような気もする。
 どこかで聞いたことがあるような声だ。
 とてもとても、大切な、そう会いたくてたまらなかった彼女の声に似ている気がして―――……あぁ、だめだ、もう、眠い。
 意識が途切れそうになる。

 不意に、何かが口に入った。
 液体?いや、ゼリーのような感じがした。
 こくりと、それを飲み込んだ。

 その瞬間、暗く冷たい水面の底から引き上げられるような感覚が全身を駆け巡った。
 内側から肉体を焼かれたよう気がした。
 それまで滞っていた血液が全身を駆け巡り、心臓が張り裂けんばかりに鼓動を繰り返していく。
 それと同時に激しい痛みを感じた。
 それまで感覚の無かった手足が、痛覚を取り戻した証拠だ。

「が、っは……ッ!?」

 意識が朦朧とする。
 体に力が入らない。
 酷い倦怠感がした。
 それでも、その『声』は聞こえた。
 自分の名を呼ぶ、その声の主は―――

「……ぁ」

 ゆっくりと目を開けた。
 目を開けるだけでも、今の彼女には重労働だった。
 埃と自分の血でかすんだ視界に、誰かが映る。

「……ナ……ん?」

 上手く声が出せなかった。
 信じられなかった。
 会いたいと願ってやまなかった少女の姿が目の前にあった。

「良かった……リっちゃん、本当に良かった」

 抱きしめられた。温かなぬくもりが伝わってくる。
 一年ぶりに会った親友は酷い顔をしていた。
 涙でぐしゃぐしゃに濡れているし、化粧っ気も無い。
 元の素材は抜群なのに勿体ないなぁと思う。

「……がはっ……ご、……ごめんね……ナッつん……気付いて……あげられ……なくて。ごめ……ん……私の、せいで……学校……一緒に……居てあげられなくて」
「……ッ!?」
「ごめんね……ゆるして、くれなくても……ただ……ナッつんに……あやまり……たく……て」

 謝りたかった。
 ずっとずっと謝りたかった。
 もうとっくに時間切れかもしれない。
 謝ったところで遅すぎたのかもしれない。
 それでも―――彼女は、一之瀬奈津は笑ってくれた。

「いいよ……別に。リっちゃんが生きてくれていたら、こうしてまた会えたんだから、それだけで良いよ……」
「ナ……つん……」
「久しぶり、会いたかった」
「……うん、私も会いたかった」

 この日、二人の少女はようやく再会を果たした。
 
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