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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 作者:よっしゃあっ!
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72.ぬぐえぬ違和感


 生徒たちとダーク・ウルフの様子を窺う。
 学生の数は十人ほど。
 おそらくは全員スキル持ちだろう。
 動きが普通の学生のそれとは全然違う。
 にしても―――。

「……なんで、あのモンスターがここに居るんですかね?」

 ぽつりとイチノセさんが呟く。
 彼女も同意見だったらしい。

「さあ、それは本人に聞いてみない事には分かりませんが……」

 今のところ戦局は、ダーク・ウルフの方がやや有利といった感じか。
 数の上では、学生たちの方が圧倒的に有利だが、ダーク・ウルフの力はそれを上回っている。
 それでも、学生たちが健闘できているのは、俺達と戦った時のダメージが抜けきっていないからだろう。
 明らかにダーク・ウルフの動きは鈍い。
 かなり弱っている様だ。

 でも、だからこそ、分からない。
 どうして奴はこの場に現れたのか?

 経験値を得るため効率よく人を狩るのならば、確かに避難所を襲うのは理にかなってる。
 でも、それなら傷を癒してからでも、問題はない筈だ。
 その方が成功率は格段に上がる。

 アイツは俺達との戦いの際、自分の不利を悟ればすぐさま撤退する程度の知能は持ち合わせていた。
 その程度の事が分からない筈がない。
 なのに、奴はこの場に現れ、学生たちと戦いを繰り広げている。
 その光景に、俺はどうにも違和感を感じずにはいられなかった。


「ウォォォオオオオオオオオオオンッッ!!」

 ダーク・ウルフが吠える。
 足元に展開した『闇』が広がり、周囲の物を飲み込もうとする。

「みんな!その黒いのには絶対に触るな!飲み込まれるぞ!」

 戦いの指示を出しているのは、眼鏡をかけた神経質そうな学生だ。
 声からして、多分生徒会の副会長だろうか?
 前線から一歩引いたところで、学生たちを指揮している。

 そして眼鏡を上げる動作が実に堂に入ってる。
 インテリ系だね。インテリ眼鏡君だ。

「う、うあああああああ!」
「助けてくれえええええええ!」

 どうやら二人の学生が逃げ遅れた様だ。
 足の先が『闇』に嵌ってしまっている。

「何をやっている、馬鹿どもが!早くそこから脱出しろ!」

「で、でも副会長!そんな事言ったって、これ、全然抜けないんだよ!」
「俺も……なんか引っ張られてる感じがして……」

 インテリ眼鏡君はいらだたたしげに声を張るが、彼らは全く抜け出せない。
 むしろ、もがけばもがくほどにより深く吞み込まれてゆく。

「ちっ無能どもが……もういい!そいつらは無視しろ!他の奴らは攻撃を続行だ!」

 おいおい、あっさり見捨てたよ、あのインテリ眼鏡君。
 容赦ないな。
 いや、まあ正しいっちゃ、正しい判断か。
 下手に救援に行けば、二次災害になっちまうだろうし……。

「で、でも副会長……」
「み、見捨てるんですか?」
「アイツら、まだ生きてるんですよ?」

 ただ彼の傍にいた学生たちは、非情になりきれていないようだ。
 助けたいという気持ちが強いのだろう。
 すると、彼は手に持っていた鉄パイプを地面に叩きつけた。

「お前ら!誰に意見しているんだ!僕は五十嵐会長から戦場における全指揮権を与っているんだぞ?僕に逆らうって事は、会長に逆らうも同じだ。その意味が分かっているんだろうなっ!?」

「「「ッ……!」」」

 その言葉を聞いて、学生たちは一気に押し黙った。

「そうだ、それでいい。お前らは黙って僕の指示に従っていればいいんだよ」

 彼は満足そうに頷く。
 逃げ遅れた学生二人は絶望的な表情を浮かべた。

「……クドウさん、どうしますか?」

 助けるのか、助けないのかと問うているのだろう。

「現状、彼らを助けるメリットは全くありませんね」

 俺ははっきりと自分の考えを伝える。
 あの二人を助けると言う事は、彼らの前に姿を現すのと同じことだ。

「下手に介入し、姿を見せれば、『魅了』や『洗脳』を受ける可能性があります」

 俺が最も危惧している事。
 それは俺達が彼らのスキルの影響下に置かれる事だ。
 あの生徒会長は、『声』で相手の精神に介入するスキルを持っていた。
 ならば、他の生徒会メンバーだって、似たようなスキルを持っている可能性は十分にある。
 少なくとも、真偽が分からない状態で、彼らの前に迂闊に姿を現す事だけはどうしても避けたかった。

「……確かに、そうですね……」

 イチノセさんも頷く。
 でも、理解は出来ても、納得しきれていないのだろう。
 考えてみれば、俺にメールを送る直前にも、彼女は不良たちを助けてたしな。
 俺と違い、そこまで割り切れていないのだろう。

「まあ、大丈夫だと思いますよ、イチノセさん」

「え……?」

「どうやら、援軍が到着したみたいですし」

 俺は校舎の方を指差す。
 凄まじいスピードで駆けてくる人影があった。
 その人影は、インテリ眼鏡君の横を通り過ぎ、『闇』に飲み込まれようとしている二人の前で急停止する。

「うえっ、田中っちとカトちん、すっげーピンチじゃん。二人とも、だいじょーぶ?」

 言葉とは裏腹に、緊張感のない口調。
 現れたのは、派手な髪をサイドテールでまとめたギャルっぽい女子高生。

「あ、相坂六花!貴様、援軍に来たのか?おい、何を勝手に行動している!?」

 インテリ眼鏡君が怒鳴るが、彼女は大して気にしていない。
 二人の手を取り、引き上げようとする。
 だが、闇に囚われた二人の脚は簡単には抜け出せない。

「んー、やっぱ力ずくじゃ、無理か。なら……」

 彼女は腰に下げた鉈を手に取った。
 それを見た二人の表情が強張る。
 彼女が『何をしようと』しているのか、すぐに悟ったのだろう。

「え、ちょ、相坂さん?」
「じょ、冗談……だろ?」

「二人とも、ゴメンね」

 そして次の瞬間―――彼女は手に持った鉈で、容赦なく二人の脚を切断した。
 血飛沫が舞い、同時に二人の体が『闇』から切り離される。
 悲鳴が木霊する。
 そのまま二人の身体を引き揚げると、素早く後方へ下がった。

「よし、救出成功だね!」

 どさりと、今しがた助けた二人を地面に置き、彼女は満足げに頷く。
 そのあまりに迷いのない行動に、学生たちは茫然なった。

「……はっ。き、貴様ら!何を呆けている!攻撃の手を緩めるな!」

 いち早く我に返ったインテリ眼鏡君が再び指示を飛ばす。
 他の学生たちも攻撃を再開した。

「あ、足が……」
「い、あ、痛ぇ、痛ぇよぉぉ……」

「ごめんね、二人とも。でも……死ぬよりマシでしょ?」

 苦悶の表情を浮かべる二人に対し、六花ちゃんはあっさりと言い放つ。
 まあ、確かにああなった以上、ああする以外、助ける方法なんてないしな。

「全く、なんて野蛮な。これだから不良は……」

 クイッと眼鏡を上げ、六花ちゃんを睨み付けるインテリ眼鏡君。

「でも、こうしないと、二人とも死んでたよ?」

「別に構わないだろ?僕の指示を順守できないクズなど必要ない」

「うわぁ、感じわるっ」

「何とでも言え。ともかく、二人を助けて満足したなら、僕の指示に従え」

 あくまで傲岸不遜に言い放つインテリ眼鏡君に、六花ちゃんは苛立つ。

「……はぁ?なんで私が―――」

「六花、指示に従え」

 一触即発の空気の中、割って入ってきたのは西野君だった。
 どうやら彼も援軍に駆け付けたらしい。

「……ニッシー?」

「一応、この場の指揮官は彼だ。俺もサポートするから、今は彼の指示に従ってくれ」

「むぅ、分かったよ……」

 西野君の説得で六花ちゃんは渋々納得したようだ。
 すぐさま鉈を構え、ダーク・ウルフの方へと向かってゆく。

 西野君と六花ちゃんが戦闘に加わったことにより、戦局は傾き始めた。
 学生たちは『闇』に飲み込まれないよう適度に距離をとり、遠距離攻撃主体の攻撃に切り替えたのだ。
 おそらくダーク・ウルフの体力を削り、長期戦に持ちこむ算段なのだろう。
 アイツは元々、俺達との戦いで消耗している。
 確かに長期戦に持ちこめば、勝ち目はあるかもしれない。

「モンスターが逃げていくぞ!」

 ダーク・ウルフもそれを悟ったらしい。
 学生たちの包囲網を強引に突破し、市街地へと逃げてゆく。

「おい、逃がすな!追え!」
「待てっ」

 インテリ眼鏡君はすぐに追撃を仕掛けようとするが、それを西野君が手で制した。

「……なんの真似だ、西野?」

「深追いは危険だ。今は、負傷者の手当てを優先すべきだ」

「何を呑気な事を……。あのモンスターの強さを見ただろう?あんなのを野放しにしておくのは危険だ。仕留められるときに、仕留めておいた方がいいに決まってるだろうが。君は、指揮官である僕の指示に逆らうのか?五十嵐会長から全権を与ってるこの僕に!」

「それはアイツが一体だけだったらの話だろ?」

「なに……?」

「俺や相坂はホームセンターで、アイツに似たモンスターと戦った。ソイツらは群れで行動していたよ。それに仲間を呼ぶ遠吠えの様なスキルも持っていた。もしアイツが逃げた先に仲間がいたらどうする?仲間を呼ばれたらどうする?一気に形勢逆転だ。俺達は全滅するぞ?」

 西野君の言葉に、周囲がざわめく。
 彼の言葉が決して嘘でも誇張でもない事が分かったのだろう。
 インテリ眼鏡君は、忌々しげに舌打ちした。

「……いいだろう。ココは、あえて貴様の『忠告』を聞きいれてやる。でも、忘れるな。あくまで、現場の指揮を与っているのはこの僕だ」

 そう吐き捨てて、インテリ眼鏡君は校舎の方へと歩いて行った。
 それを見て、西野君は深くため息をつく。
 他の学生たちも緊張の糸が切れたのか、その場に座り込む者が殆どだった。

「……どうやら、終わったみたいですね」

「……」

「……あれ?イチノセさん?」

 返事がない。
 どうしたんだ?
 イチノセさんの方を見ると、彼女はぽかんと口を開けて、一点を見つめていた。

「なん……で……?」

 視線の先。
 そこに居たのは、一人のギャルっぽい女子高生。

「リっちゃん……」

 え?リっちゃん?
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