46.どこにでもいるスライム
とてもいいお知らせがある。
イチノセとのメールを終わらせた俺は、再び『メール』スキルを隅から隅まで調べ上げた。
その結果、『ブロック機能』は見つからなかったが、『マナーモード』の様な物を発見することが出来たのだ。
メールを受信しても、天の声さんが頭の中に響かない様に出来るらしい。
しかもLV1の状態でも、設定可能。素晴らしい。
これ幸いと、俺は早速メールをマナーモードに設定した。
これで脳内がとても静かになり、快適な状態が約束される事となった。
ああ、良かった。
大事だよね、マナーモード。
携帯だって、会議の時や得意先に出向くときはきちんとマナーモードに設定するのは社会人の常識。
取引相手との会話中に、スマホ鳴らして断りも入れずに電話に出ちゃったりするのは、最低のマナーだよ。
まあ、何はともあれ、これで落ち着いて行動することが出来る。
やったぜ。
≪熟練度が一定に達しました≫
≪スキル『メール』がLV1から2に上がりました≫
…………。
うん、聞かなかったことにしよう。
『メール』はLV1のままだ。
そう言う事にしておこう。
≪条件を満たしました≫
≪『メール』にチャット機能が追加されました≫
≪現在チャット可能な登録者は一名です≫
≪チャットを行いますか?≫
「……」
俺は無言で、ノーを選択。
次いでメール機能を確認した。
……うん、追加されてる、チャット機能。
こんちくしょうが!
なんで、このタイミングでレベル上るんだよ!
おかしいだろ!
レベル上るんなら、もっとこう『剣術』とか『急所突き』とか他のにしろよ!
頑張って使ってるんだからさ!
とりあえず、チャット機能を確認する。
あ、オンオフ可能だこれ。ラッキー。
迷わずオフにしておく。
『未読』が一件増えてる。
……後で確認しよう。
それがいい。
というか、見たくない。
さ、探索を再開するか。
何もかも見なかったことにして、俺はモモたちと共に歩き始めた。
「田んぼが増えてきたな……」
しばらく歩いていると、田んぼが見えてきた。
ここは郊外でも、更に端っこの方だし、こんな景色も珍しくない。
「もう五月だし、田植えの時期だもんなー」
田んぼには水が張られて、青い稲が植えられている。
もっとも、この稲がこれから育つ事はもうないだろう。
育てる人が居ないのだから。
でも良い景色だなー。
『メール』で痛んだ俺の心を癒してくれる。
そして、未読を見るのが怖い。一杯溜まってそうで……。
「……ん?」
そんな事を考えながら、田んぼを見ていると、ふと目に付くモノがあった。
―――スライムだ。
田んぼの中に、スライムがぷかぷかと浮かんでいた。
それも結構一杯。
コイツら、こんなところにも居たのか。
まあ、例によって何をするわけでもなくただ浮かんでいるだけの様だ。
流れに身を任せながら、たまーに稲にくっ付いて食べている。
のんびりしてるなー。
「くぅーん?」
コイツら、どうするのー?とモモが問うてくる。
どうするって言われてもなぁ……。
倒すのに手間もかかるし、このままでいいんじゃないか?
「……(ふるふる)」
俺がそう思っていると、アカが何やら震えだした。
擬態を解除し、モモへと近づいていく。
どうしたんだろうか?
「……(ふるふる、ふるふる)」
アカが震える。
すると、モモはこくりと頷いた。
え、もしかして、今のって会話してたの?
「わん!」
モモは一鳴きすると、『影』を田んぼに向けて伸ばした。
そのまま、スライムを一匹捕まえる。
スライムは特に抵抗もしないまま引っ張られ、モモの傍まで引きずられてきた。
クラゲ釣ってるみたいだ……。
「モモ、アカ、そのスライムをどうするんだ?」
気になって訊ねると、アカはスライムへと近づいてゆく。
すると、アカは驚きの行動に出た。
なんとモモが捕らえたスライムを『取り込み』始めたのだ。
「えっ!?」
驚きのあまり声が出る。
アカはスライムの体を覆うように広がり、徐々にその体を取り込んでゆく。
取り込まれている方のスライムも全く抵抗せず、されるがままだ。徐々にその体が小さくなってゆく。
時間にして一分ほどだろうか。
アカは捕えたスライムを完全に取り込み、満足そうに体を震わせた。
ほんの少しだけ、取り込む前より体が大きくなった気がする。
中々に衝撃的な光景だった。
知らなかった……。スライムって、仲間のスライムを食べるのか。
いや、種族的には、食べると言うよりも融合に近いのかな……?
すると、アカは俺の方へとやって来て、再び体を震わせる。
今度は何だ?
注意深く見守っていると、今度はアカの体が二つに分裂した。
な、なんだと!?
「「……(ふるふる、ふるふる)」」
二匹になって震えるアカ。
心なしか、一匹の時より体が小さい。
一匹だった時の三分の二くらいのサイズだ。
そのまま、じーっと俺を見つめてくる。
「ん?なんだよ?」
「「……(ふるふる)」」
心なしか、褒めてもらいたそうな気配を感じる。
どう?こんなこともできるんだよーと胸を張ってる……気がする。
もしかして、俺に褒めてもらいたいがために、他のスライムを取り込んだのか?
「お……おー凄いな、アカは。こんな事も出来るんだな!うん、凄い!」
俺がそう言うと、二匹のアカは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。
ぜんぜん飛び跳ねれてないけどね。
撫でて欲しそうだったので、撫でておく。
ひんやりとして、思いのほか撫で心地が良かった。
アカは嬉しそうに体を震わせる。
「うー……」
すると、モモが体を擦り寄せてきた。
どうやら自分の事も撫でてほしいらしい。
ははは、可愛い奴め。
「ああ、モモも偉いぞ。アカの手伝いをしてくれて、ありがとな」
そう言って撫でると、モモは嬉しそうに目を細めた。
そのまま、しばらくモフモフを堪能する。
至福の時間だった。
「―――もっと仲間を取り込みたい?」
一通り撫で終えた後、アカはそう提案してきた。
どうやら、仲間のスライムを取り込むことで、アカは自分の性能を上げる事が出来るらしい。
俺としては願ったりかなったりだが、アカはそれでいいのだろうか?
一応同族なんだし、忌避感はとか無いのかな?
そう訊ねると、問題ないとの事。
どうやら、スライムにはそう言った仲間意識などは無いらしい。
ならば、俺としては言う事は何もない。
俺とモモはスライムを片っ端から捕まえ、アカに与え続けた。
田んぼの中だけでなく、排水桝の方にもスライムは一杯居た。
流れに身を任せてる内に、そこに密集してしまったのだろう。
おかげで、大量のスライムをアカに与える事が出来た。
「よし、んじゃ、そろそろ別の場所に行くか」
あんまし一箇所に留まるのもよくない。
移動しようと思い、田んぼから離れると『索敵』に反応があった。
人じゃない……モンスターの気配だ。
それも、今までよりも強い気配を感じる。
すぐさまモモを陰に忍ばせ、アカを擬態させる。
俺もその場に身を伏せ、『潜伏』を使い、様子を窺った。
『望遠』を使い、反応のあった方を見る。
「アレは……」
そのモンスターの姿を見て、俺は思わず目を見張った。
でっぷりと太った巨躯に、豚の頭を持つモンスター。
オークだ。
鼻をひくつかせ、周囲を見回しながら、こちらへと近づいてくる。
……何かを探しているのか?
どうする?
数は一匹だ。
逃げるべきか、それとも戦うか……。




