幼馴染みとの再会
オーバーウォッチ楽しい。
大月胡桃・・・よろしく」
感情の見えない無表情で言った彼女が自己紹介をした瞬間、胡桃がクラスを見回し黎を見つけた。
と、唖然としていた黎同様、胡桃も無表情が崩れ去り、フラフラとした足取りで黎の方に歩いていった。
「黎・・・?黎・・・なの?」
自己紹介をした時とは全く違う掠れた声のトーン。
そして、胡桃の目元には涙が溜まっていた。
ある程度の事情を知っている担任ですらこれはどういう事かわかってない為、当然クラスの生徒達は今何が起こっているか分からない状況だった。
黎と親しい仲の創悟や幼馴染みの歌乃ですらこの状況は理解していなかった。
「胡桃だよな・・・?」
「黎・・・黎!」
胡桃は黎に歩みより、黎の胸に飛び込んだ。
黎の名を連呼しながら胸の中で涙する胡桃を止める者は誰もいなかった。
そして、また黎も抱きついてきた胡桃を引き剥がすこと無く、優しく抱き寄せた。
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昼休み。
休み時間には席に必ず生徒が群がって、居心地が悪そうだった為、昼は誰よりも早く胡桃を外のベンチに連れ出した。
「相変わらず、人がたくさん居るのは苦手みたいだな」
胡桃は昔からそうだ、人混みは大の苦手でいつも人が少ない所で遊んだりしていた。
「やっぱり、私のこと覚えていてくれたんだ」
さっきは取り乱していたが本当の胡桃はこの無表情。
いつも感情があまり読み取れず、出会った時は黎も相当苦労した。
「まさか、胡桃と約9年ぶりに出会えるとはな」
胡桃と知り合ったのは約9年前。
当時6才だった黎と胡桃は橘孤児院という所で出会った。
親に捨てられ、たどり着いた孤児院で約2年間、黎と胡桃は同じ屋根の下で暮らした。
それはそれは楽しくて毎日、色んな事をした。
胡桃と遊ぶのはもちろん、孤児院にいた同じ年齢の子達と木に登って遊んだり。
だが、ある出来事により、黎と胡桃は離れ離れになった。
そして、お互いの身元も分からぬまま約9年の月日が流れ、今に至る。
黎も胡桃のことが諦められず、何度もあの手この手で探したが、見つからなかった。
しかも名字も黎は御子神黎という名から天津黎に。
胡桃は金扇胡桃から大月胡桃に変わっている。
「黎も変化が無くて良かった・・・かっこいい黎が健在でなにより」
胡桃は頬を赤らめながら目を逸らし、胡桃の言葉に黎も赤面する。
「そ、そういえば、購買でパンを買ってきたから、一緒に食おうぜ」
静かな沈黙に耐えられず、さっき買ってきたパンを胡桃に渡す。
「こういう所も・・・変わってない」
胡桃はわずかに微笑み、黎のくれたパンを受け取った。
その後も会えない間、どうしてたかとか、他愛の無い話で盛り上がった二人だった。
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一方、黎抜きで昼食をとっている歌乃、瑞姫、蘭は教室で突然黎に抱きついた彼女、胡桃の事が気になって仕方がなかった。
幼馴染みの歌乃は黎から胡桃について何も聞かされてない。
「あの子、なんで黎君に抱きついたりしたのかな・・・一体、どんな関係が・・・」
歌乃の表情はいつもの明るい表情とは真逆の曇った表情だった。
もちろんそれは、瑞姫も同じな訳で。
そんな曇った表情をしている二人に蘭がアドバイスした。
「では、あの二人の所、行ってみますか?」
「でも黎は二人にしてほしいって・・・」
瑞姫が否定し、歌乃もうんうん、と首を縦に振っている。
「好きな人の事を知りたいのは別に悪くないと思いますよ?」
蘭がそう言うと、二人はボンッと顔を赤くし、俯いてしまった。
「このまま、二人きりにするのは二人にとっても嫌なはずです、だから聞きに行きましょうよ」
そして、蘭の助言が届いたのか、弁当箱を閉じ二人は立ち上がった。
「わ、私は黎の彼女だから!隠し事は許さない!」