第四章 いつか見た世界 (3)
大隅に連れられてきた食堂は「海風」という名前で、木造のさほど大きくはない建物だった。外壁の白い塗装がところどころ禿げてはいるが、そこまでぼろぼろという感じはしない。大隅がドア開き、中へ入る。僕らもそれに続くと、外観と同じように白で統一された内装が見えた。昼時であるからか、地元の人と思われる人たちが十人ほどいる。カウンター席と複数人用のテーブル席があったので、僕たちはテーブル席に座った。すぐに店員と思われる年配の女性が水を入れたコップを持ってきた。
ここまでは歩いて二十分ほどの距離であったが、真昼の炎天下の下ではかなり水分を奪われる。喉がからからだったので、僕は目の前に置かれた水を一気に飲み干した。
海の近くであるためか、魚や貝、蛸なんかを使った魚介系の料理のメニューが多かったが、それ以外にもそれなりの種類の料理があった。僕たちは適当にいくつか料理を頼んで、皆で食べ合った。焼き魚に刺身に貝のつぶ焼きなど、値段はそれほどしない割にはどれもなかなかおいしく、ひと皿も残さずに食べ終えた。満腹になったあと、合計料金を五で割ってそれぞれお金を出してから店を出る。
海への道を戻っているとき、大隅がふと口を開いた。
「そういえば晩のバーベキューの材料買ってないな」
「いま食べたばかりじゃない。食うこと考えるの早いわよ」
秋野が呆れた様子で言った。
「いや、せっかくここまで来たからな。ちょっと歩けば町に出るし、暗くならないうちに買っておいた方がいいぞ」
大隅の提案に中津川が口を開く。
「どうする?みんなで行く?」
「いや、大勢で行く必要はないだろう。二人ぐらいで十分だな」
「じゃあ誰が行くのよ」
秋野が言った。大隅は少し考えるように腕を組む仕草をしてから、それに答える。
「じゃんけんでいいだろ。負けた順に二人な」
こうして買い出しの人間を決めるじゃんけんが始まった。最初に負けたのは中津川だった。彼はなぜか昔からこういった運が絡む勝負に弱い。この五人の中で一番勉強ができる代償かもしれない、と僕は勝手に思っている。
「やっぱり僕か~。まあいいか」
二回目のじゃんけんが始まる。真っ先に勝ち抜けたのは里奈だった。その次に僕が抜け、そして大隅との一騎打ちに敗れて秋野が負け残った。
「あ~、負けた!」
秋野は悔しそうに拳を振った。彼女の場合、買い出しが嫌だというより、勝負に負けたのが気に入らないのだろう。昔から負けず嫌いだった。
「すまんなお二人さん。じゃ、買い出しよろしく」
大隅が言うと、じゃんけんに負けた二人はそれぞれ頷いた。
「しゃあないわね、行くわよ中津川」
「うん。じゃあまたあとで」
「俺たちはさっきの海岸にいるからな」
僕たちは中津川、秋野と別れ、先程の海岸に向かった。大隅はもうひと泳ぎすると言っていたので、僕は彼にさっきの岩場に行っていると伝え、スケッチブックと鉛筆とを手に取った。
「里奈はどうする?」
「じゃあ、私も正くんについてこうかな」
僕が問うと、里奈が読みかけの本を片手に付いてきた。一人では暇ということなのだろう。かといって彼女は泳げないので、僕と話でもしながら眺めながら本を読むのだという。




