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【完結済】聖女になったらしいので不測事態対応対策いたします  作者: 紙垂川 比依子


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その1 召喚

「そうなの。先生ったらさ、いっつも、あの子ばっかり贔屓してるのよ。やっぱり? ふーん、そんなこともあったの。ほんと、狡いよ」


 お昼前の下り電車の中。若い子の高い声だからだろうか、離れた席なのにやけに良く聞こえてくる。いやいや、私だってまだ若いんだけど。学生時代良かったなぁって、つい思っちゃうって、やっぱり年なのかな。


 社会人二年目の私、千東紗綾(せんとうさあや)は、一部上場企業の人事部に所属するキャリアウーマン? いや、ただの使いパシリだ。今日も人事部主催の幹部候補社員の研修に駆り出され……たのではなく、駆り出されたのは、同期入社の河合 凛(かわいりん)さんだ。ホントにかわいくて皆にちやほやされてる。自分の事で精一杯であんまり周りを見ていなかった私は、こういうの初めて見た時、嫉妬より感動したんだよね。おー、可愛いのは正義なんだなぁって。


 あ、そうそう。で、私は、河合さんが会社に忘れていった今日の資料を研修会場まで届けに行く途中なんだけど。あら、今日の研修議題は『不測事態対応対策』って、今が不測事態なんじゃないの? なんて思ってます。


 研修会場、遊園地と併設してるのよね。最寄り駅自体は、都心からアクセスいいし、後はロープウェイで登って行けるんだけど、それは遊園地のお客さん用なのよね。研修会場は、坂を登って行かなくちゃならない。これが結構キツイ。まあ、元々山だものね。研修担当の人達は車で登り降りするくらいなんだもん。誰か用事で降りてきていないかなぁ……いないよね。いない、間違いなくいない。


 午後の研修に間に合わせるように言われてるから、ギリギリだなぁ。帰りにさっき見た美味しそうなお蕎麦屋さんに寄って帰ろうかな。お腹空いてきたなぁ。


 あれ、薄暗くなってきた。『今日も快晴です。抜けるような青空が広がるでしょう』ってちょっと河合さん似のお天気キャスターさんが言ってたわよね? 一雨来るの? あれ、あれ、……真っ暗になっちゃった。


「「「わー!! おめでとうございます!!」」」


えっ!? 何? ここは何処?


「聖女様、ようこそ。我がタンダルディアへ」

「えっ? 聖女様って。召喚されちゃったとか?」

「はい。左様でございます」


どうしよう。資料持って行かなくちゃいけないのに。……って、そこじゃなかった。


「か、帰りたいんですけれど」

「聖女様には、我が国にご滞在頂きご活躍頂きたく存じます」

「活躍って言われましても。帰れるんですよね?」

「それは……」

「言葉濁しましたよね」

「お疲れでございましょう。先ずはお部屋へ。夜には歓迎の祝宴を用意させて頂いておりますので、どうぞこちらへ」


絶対、一方通行のやつだ。失踪、いや、ないな。思い詰めるタイプと思われてないし。山で迷子になったとか、人攫いにあったとかって言われるのかな。神隠しなんてのもありかなぁ。お父さんとお母さん、心配掛けちゃうな。で、何で私なの! 今更だけど。


 案内された部屋は、質は良さそうなんだけど超シンプル。白一色って、精神的に良くないんじゃなかったっけ。着ていたスーツを脱がされて、お風呂へって言われましても、『大丈夫です。一人で入れますから』と、お断りするのに手間取ったわ。


 用意されてた服だけど、これ確かに聖女様ぽいわね。白衣(しろぎぬ)に金糸の刺繍がとっても豪華なんだけど、私に似合ってる? 小柄で童顔の私には、大人っぽ過ぎてて、馬子にも衣装にもならないんじゃないかな。うっ、悲しい。


袖とか裾とかあっという間に手直しされた。見事! 匠の技です。ロングドレスは初めて着たと伝えたら、ちゃんと前裾を少し上げてくれた。聖女と呼ばれてる人が転んだら不味いですよね。ハハハ、私でした。匠さん達、ありがとうございました。

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