第28話 幕引き
大会中止から続いた事件編は、今回でひとまず区切りとなります。
クロウたちは現場を見て関わったものの、あくまで“学生”としての立場に引き戻される形になりました。
ここからは再び学園を舞台にしつつ、少しずつ世界の動きも混ぜていく流れになります。
日常と非日常が交差していく章の始まりです。
夜の港から戻ったあと、ほとんど眠れなかった。
目を閉じれば浮かぶのは、あの倉庫の光景だった。
箱の中の学生。
抜かれていく魔力。
現実感が薄いのに、やけに鮮明に残っている。
「……最悪な夢見そう」
ユウト・セルヴァ が天井を見ながら言う。
「夢じゃないから余計にやばい」
「やめろ」
横で カイト が静かに起き上がった。
「そろそろ動くよ」
窓の外はまだ暗い。
だが王都の一部だけ、妙に騒がしい気配があった。
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旧港湾区に着いた時には、すでに包囲は完了していた。
王国騎士団。
完全武装。
無言で配置につき、倉庫を取り囲んでいる。
「……本気だな」
俺は小さく呟いた。
昨日の一件が、どれだけ重いものだったか分かる。
「クロウたちは後方」
バルド・グレイン が短く告げる。
「突入は任せろ」
「了解」
正直、前に出たかった。
だがここで勝手に動けば邪魔になるだけだ。
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静寂が流れる。
誰も動かない。
ただ、時間だけがゆっくり進む。
やがて――
「行け」
短い号令。
次の瞬間、空気が裂けた。
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「突入!」
扉が破られる。
重い音。
中から怒号。
剣がぶつかる音。
魔法が弾ける光。
戦闘は一瞬で広がり、そして――
一瞬で終わった。
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「制圧完了!」
「逃走者なし!」
「負傷者軽微!」
報告が飛ぶ。
ユウトが息を吐いた。
「……早すぎだろ」
「相手が悪い」
俺は短く言った。
騎士団が相手なら、こうなる。
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倉庫の中へ入る。
昨日と同じ場所。
だが、空気が違う。
静かすぎる。
箱は開けられ、倒れている人間が並べられていた。
数はいる。
だが、昨日見たより少ない気がした。
「……こんなもんだったか?」
思わず呟く。
カイトが肩をすくめる。
「全部ここにあったとは限らないでしょ」
「まあな」
深く考えなかった。
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問題の装置は、ほぼ壊されていた。
外殻は残っている。
だが中身は抜き取られている。
「回収されたな」
バルドが言う。
「突入前に一部持ち出された可能性がある」
「でもこれだけ残ってれば十分だろ」
ユウトが言う。
「証拠にはなる」
「なる」
バルドは短く答えた。
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拘束された男たちは、すぐに引き出された。
「俺たちは何も知らねえ!」
「ただの運び屋だ!」
「命令されただけだ!」
よくある言い訳。
だが、今回は妙に揃っていた。
誰も逆らわない。
誰も取り乱さない。
ただ、同じことを繰り返している。
「末端だな」
カイトが呟く。
「組織的だ」
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それでも、話は早かった。
取り調べは簡単に進んだ。
抵抗が少なすぎるくらいだった。
「王都地下の闇組織か」
バルドが低く言う。
「魔力の違法売買を行っている」
ユウトが顔をしかめる。
「人から抜いて売るってことかよ」
「そういうことだ」
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話が繋がる。
人を攫う。
魔力を抜く。
売る。
シンプルで、最悪な構図だった。
「……クソだな」
俺は吐き捨てた。
だが、どこか納得もしていた。
理由が分かると、逆に落ち着く。
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倉庫の奥で、兵士が報告する。
「装置の中核部は未発見!」
「逃走前に持ち出された可能性あり!」
バルドが頷く。
「問題ない。ここまで押さえれば十分だ」
その言葉に、少しだけ引っかかった。
だが、深く考えなかった。
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「これで終わりか」
ユウトが聞く。
「終わりだ」
バルドは即答した。
「組織は壊滅。残党は追う」
「事件は収束だ」
あまりにもはっきりしていた。
迷いがない。
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俺たちは顔を見合わせた。
終わったらしい。
あっさりと。
昨日あれだけのものを見たのに。
「……こんなもんか」
思わず漏れた言葉に、誰も否定しなかった。
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その時、倉庫の外から朝日が差し込んできた。
夜が終わる。
それと同時に、この事件も終わったように見えた。
倉庫の外に出ると、朝の光が一気に差し込んできた。
夜の港で感じていた重さは、嘘みたいに薄れている。
騎士たちは淡々と作業を続けていた。
拘束した連中を連行し、証拠品を回収し、現場を封鎖する。
無駄がない。
手慣れている。
「……ほんとに終わったんだな」
ユウト・セルヴァ がぽつりと言う。
「思ったよりあっさり」
「こんなもんだろ」
俺は短く答えた。
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バルド・グレイン が戻ってくる。
「聞き取りは終わった」
「どうだった」
「王都地下の闇組織による魔力の違法売買だ」
迷いのない答えだった。
「今回の件もその一環」
それで話はまとまった。
ユウトがため息をつく。
「結局、金かよ」
「大体そういうもんだろ」
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回収された物の中に、壊れた装置の一部が運ばれていく。
魔導石の破片。
焼け焦げた金属。
「これで証拠は揃うのか?」
俺が聞くと、近くの兵士が答えた。
「十分だ」
短い返事だった。
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「学生はこれ以上関与するな」
バルドが言う。
「本件は王国が引き継ぐ」
「君たちは学園へ戻れ」
それだけで終わりだった。
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ユウトが伸びをする。
「なんか、現実に戻された感じだな」
「元から現実だ」
「いや、そうだけどさ」
カイトが静かに言う。
「でも一応、区切りはついた」
「そうだな」
俺も頷いた。
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帰りの馬車の中。
窓の外では、王都がいつも通り動き始めている。
店が開き、人が歩き、声が飛び交う。
昨日までと同じ光景だった。
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「なあ」
ユウトが言う。
「大会、中止のままだよな」
「当たり前だろ」
「だよなー……」
少しだけ残念そうだった。
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カイトが小さくあくびをする。
「とりあえず寝たい」
「それな」
ユウトも同意する。
「今日は絶対昼まで寝る」
「授業あるぞ」
「え?」
一瞬、沈黙。
「……マジ?」
「マジだ」
「鬼かよ」
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そんなやり取りをしているうちに、学園が見えてきた。
見慣れた門。
見慣れた建物。
ここに戻ってくると、さっきまでの出来事が少し遠く感じる。
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馬車を降りる。
朝の空気。
生徒たちの声。
いつもの日常。
「……戻ってきたな」
ユウトが言う。
「だな」
俺も短く答えた。
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あの事件は、終わった。
そういうことになった。
闇組織。
魔力売買。
摘発。
全部説明がつく。
それで十分だった。
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校舎へ向かいながら、ふとだけ思う。
「……仕事、早すぎだろ」
ぼそっと漏れる。
カイトが肩をすくめる。
「王国だしね」
ユウトが笑う。
「頼もしすぎて逆に怖いわ」
俺は軽く息を吐いた。
「まあ、片付いたならいいだろ」
それ以上、考えることはなかった。
第28話まで読んでいただきありがとうございます。
今回は“幕引き”というタイトル通り、事件自体は解決した形になっています。
ただ、あくまで表向きの話なので、今後の展開の中で少しずつ見え方が変わっていくかもしれません。
次回からは学園生活に戻りつつ、クロウたちの成長や関係性も進めていく予定です。
少し空気が変わるので、その辺りも楽しんでもらえたら嬉しいです。




