救世主
コメント欄に勇気をもらい、ヤツに目を向ける。
ヤツは動かない。
「…お前が行動しないならこっちから行くぞ」
少しでもヤツの思考を私に誘導する!その間にリンに隠れてもらおう。
それにヤツに初手を許したのはこっちが混乱によって追い付けていなかったからだ。今はなんか冷静に物事を考えれる!
素早く狼顔の男の懐に詰め寄り短刀を振るう。それを狼男はかわすが、レンはそれをわかっていたと言わんばかりに回し蹴りを喰らわす
だがその蹴りを喰らっても微動だにしない狼男はまるでお返しだといわんばかりに回し蹴りを繰り出した。
ドゴォォォン——
その回し蹴りの衝撃波だけでうしろの木々轟音を立てて倒れる。
〝なんだよこの威力!?〟
〝いやそれよりもレンちゃんの蹴りを喰らっても全く効いてなさそうだぞ!〟
〝なんなんだよこいつ…〟
〝レンちゃん…頼む逃げて!そんな化け物に勝てないよ…〟
狼男の威力や耐久力を見た視聴者の間には絶望感が漂っていた。ただ、
よし!ヤツの動きが見える!これならなんとか時間稼ぎができる!…
レンの目的は勝つことじゃなく”時間を稼ぐ”こと。
つまり狼男にダメージを与えられなくてもいい。助けが来るまでにレンが”倒れないこと”が真の勝利条件である。
これなら…いけるっ…!!
そう思った瞬間
気付いたら私は横の木まで突き飛ばされていた。
「ぐっ…」
なにが起きた!?今度は油断してなかったしちゃんと相手を見ていた…それなのに…
何も見えなかった
さっきまでのスピードが本気じゃなかった…!?
ついにレンにも絶望が押し寄せる
今の攻撃でレンは内臓と左腕左足を負傷した。もうまともに動けないだろう。
ただ、その絶望はこれだけではなかった
「え…?」
幻覚でなければ目の前には”10体の狼男”がそこにいた。
「うそ…ボスモンスターじゃ…ない!?」
ボスモンスター、ある階層には他のモンスターよりも一段と強いモンスターが一体だけいる。
そしてレンと視聴者は無意識にその狼男の強さからそいつをボスモンスターと認識していた。
しかし違った。
そいつは、いやそいつらは通常モンスターだった。
「そんな…」
思えば最初にホワイトウルフを巻いた時に違和感を持つべきだった。
嗅覚に富んだホワイトウルフを木を渡っただけで逃れられるのか?答えは否である。
ホワイトウルフなどの群れをなす動物型モンスターには縄張り意識がある。そして逃げた先に現れた狼男、そこから導き出される答えは…
———狼男の縄張りに侵入してしまった
やばい…無理だ
それに気付いた瞬間レンには立ちあがる気力すら残っていなかった。
たった一撃であの威力、そしてあの速度。すべてが格上な上にそんなやつが10体もいる。どう足掻いても勝てるわけない。
狼男らがこちらに歩いてくる。
「せめて…リンだけでも逃げて」
私は死んでもいい、だけどリンだけはなんとか逃げ切ってお願い
そう私が願った時————
「きゃああああーーー」
「っ!?」
リンの悲鳴!?
そんな、まさか目の前のこいつらだけじゃないの!?嘘…じゃあリンも…
〝そんな!?通常モンスターなの!?〟
〝嘘!?やばいよレンちゃん!〟
〝レンちゃん諦めないで!!〟
〝お願い逃げて…!!〟
〝まって今の悲鳴もしかしてリンちゃん!?〟
〝俺もう見てられんスプラッタとか無理だわ〟
〝頼む誰かレンちゃんをとリンちゃんを助けて!!!〟
右目に視聴者達のコメント欄が見える。普段はあんなに早く流れてるコメント欄もなんだか今はゆっくり見える。
あぁ、死の間際に世界が遅くなるのって本当だったんだ。ごめんねリン、こんなお姉ちゃんで…
そう誰もがリンとレンの死を覚悟したその時…
——ブォン
「え…?」
気付いたら狼男らの顔が”消滅”していた。
そして、
「大丈夫か?」
目の前で”カラスのようなお面を被った人”が私に手を差し伸べていた




