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水上型機甲神骸

初回3話を毎朝投稿します。

そのあとは週更新の予定です。


よろしくお付き合いお願いします!

 六式が、第一甲板に繋がる機甲神骸(アーミス)専用エレベーターに固定される。第一甲板到着後すぐに開放され、敵と向き合うこととなる。


 陸戦の訓練は二カ月に一回程度しかしていないため、勇名(いさな)には苦手意識がある。心拍数を見てか、永遠(とわ)が後部座席から声をかける。

「お兄ちゃん、肩の力を抜いて。私がナビゲーションするから、大丈夫だよ」


「あ、ああ。頼むな、永遠」

「さっさと終わらせて、浸食を最低限にするんだから」

 勇名は深呼吸をしてから、通信をオフラインにするボタンから手を放し、オンラインにする。

「人員退避よし、残留物よし、経路安全よし。六式準備よろし」

 勇名の通信に、すぐに反応がある。

「昇降機上昇始め」


 身体が沈み、浮き上がるような感覚に勇名の表情が険しくなる。陸戦と水上戦では、戦い方が全く違う。

 不安に襲われるものの、先に第一甲板まで上がっている早ヶ瀬(はやがせ)三尉のためにも、逃げる訳にはいかないと自分を奮い立たせる。


 エレベーターが第一甲板に到着する。戦術データ・リンクで共有している通り、早ヶ瀬三尉のA-14Sが右舷(みぎげん)側の敵機甲神骸(アーミス)と交戦している。

「早ヶ瀬機を援護するよ! お兄ちゃんは、足を止めないで不規則に動き続けることに集中して」

「了解」


「携行式速射砲の射撃モードに切り替え」

永遠の声に反応して、全方位モニターの中に照準や射角などが表示される。

 早ヶ瀬機の居場所や、勇名の操作する六式の状態を見ながら、永遠が照準を合わせていく。


「動きが規則的だから、きっと素人だよ。食らえ!」

永遠が叫ぶとほぼ同時に、六式の右手に装備している携行式速射砲が火を噴く。

 始めの弾が敵の右足を捉えると同時に、第二射、第三射と続く。


 三発全てが命中し、敵が血飛沫を上げながら倒れる。

羽佐間(はざま)、よくやった。次に行くぞ!」

 早ヶ瀬三尉からの通信が入る。

「次も俺が前に出るから、仕留めてくれ」

「了解」


「早ヶ瀬、この敵は潜航型にオマケをつけただけの玩具だよ。敵の本隊が別にいるかも」

「永遠もそう思ったか」

 早ヶ瀬三尉が永遠に答える。

 永遠の階級は三佐なので、早ヶ瀬三尉より上官ということになる。二等学徒という新兵である勇名は、永遠三佐の補助要員ということになっている。


「とにかく、もう一柱(ひとはしら)をしっかり倒してから、敵の出方をみるよ」

「了解」

 永遠に返事をした早ヶ瀬三尉は、艦上の空港に向けて移動している様子の敵に接近していく。六式もそれに続く。


「今度の敵はミサイルポッドの残弾があるみたいね。空港の破壊が目的かな」

「そんなこと、させるか!」

「わかってるよ、お兄ちゃん。航空隊にも同期が何人もいるんだよね」

「ミサイルが誘爆する可能性も考えると、今、仕留めるべきか」


 永遠の指示で、勇名は六式の足を止める。

 どうやら、永遠は右肩部に艤装された肩部無反動砲で狙撃するらしい。

 足首を軸に収納されていた水面滑走用のブレードを下ろし、固定具代わりにして第一甲板に打ち込む。これにより、より正確な射撃ができる。


 永遠が照準を合わせる。右肩部無反動砲が火を噴き、敵の腰部に命中する。

 二本の足が胴体から離れて、大量の出血と共に地面に転がった。胴体も地面に叩きつけられて沈黙する。


「永遠、お見事だな」

早ヶ瀬三尉が手を叩く。

 先行していたA-14Sが(きびす)を返して戻ってくる。

 ちょうどそのタイミングで、艦艇群司令部から通信が入る。

「水上型機甲神骸(アーミス)迎撃準備! 敵水上型機甲神骸と思われるレーダー反応多数あり」


 戦術データリンクに状況が反映され、海上にいくつかの反応が見える。

「まだ距離があるから、カタパルトに急ぐよ」

 永遠の呼びかけに早ヶ瀬三尉が答える。

「了解。先にエレベーターで降りてくれ」

「わかった。管制塔(コントロール)へは連絡しておくよ」


 永遠はすぐに第二港湾ブロックにある水上型機甲神骸用管制塔に連絡を入れた。艤装を水上対水上型に変える準備をしておくよう言い、六式と早ヶ瀬機が出るまでは本格的な戦闘をさせないよう伝える。


 第二次全洋大戦前から実戦を積み重ねた永遠と、最新機種のテストパイロットでもある早ヶ瀬三尉は、わだつみ艦載機甲神骸の実質的エースであり、どちらもいない状態での実戦はリスクが大きすぎる。


 エレベーターで降りると、早速水対水戦用の艤装が取り付けられていく。背部ミサイルランチャーが左右二つ、それを覆うように地面効果翼(じめんこうかよく)が取り付けられる。


 艤装が完了して六式がカタパルトに乗る頃には、先行したA-8S部隊からの情報が戦術データリンクに載ってくる。

 編隊が遠巻きに敵を包囲して艦隊への接近を防いでいることがわかる。


「的確な動きだね。被害が出る前にどうにか間に合わせないと」

「ああ」

 勇名は永遠に答えつつ滑空前の点検を終え、管制塔に連絡をとる。

「滑空準備よろし」

管制塔(コントロール)B(ブラボー)了解。滑空を許可する」

「永遠・羽佐間機、出ます」


 六式は低い姿勢をとる。地面効果翼と腰部にあるエリクシアエンジンが、アイドリング状態から本格稼働を始めると同時に、カタパルトが白い蒸気を上げ動き始める。


 エンジンから推進剤の放出を始めると、カタパルトの推進力と合わさり、勇名の身体に重力の数倍のGがかかる。

 タイミングを計り六式の膝を伸ばすと、エンジン出力を最大にする。風を捉えた六式が、速度を上げつつ、海面に近づいていく。


 遠くにある空と海の境目に目をやりつつ、足首を軸にブレードを足の下に展開し、出来るだけ柔らかく着水する。

「六式、着水成功」

勇名が管制塔に連絡する。

ご武運を(グッドラック)

管制塔からの返信が届く。

 六式は水しぶきを上げながら、波を切って進んでいく。


「お兄ちゃん、早ヶ瀬機を待っている間が惜しいから、このまま一直線に接敵するよ」

「わかった」

 戦術データリンクの情報からして、先行している味方機は、少しずつ包囲を崩され、艦隊への接近を許しつつある。


「実戦経験がないのに、みんなよく頑張ってる。お兄ちゃんも、肩の力を抜いて回避運動だけに集中して。火器管制は私がやるから」

「ああ。まさかこんな日が本当に来るとは思ってなかったけど……」

「たった十五年の平和だよ。いつ壊れても不思議じゃなかったの。この世界の七賢帝体制は、やっぱり不安定なシステムなんだと思う」


「俺は、体制とかよくわからないけど……。あいつらが俺の同期や仲間達を殺そうとするなら、俺があいつらを殺す……」

「思いつめないで、お兄ちゃん。引き金は私が引くから」

「俺にとっての戦争は、自分が人殺しになることだってのは、わかってた。だから、永遠が引き金を引く指は、俺の指でもある」


「ミサイルの射程距離に入るよ。敵の後ろに回り込んでいくよ」

「ああ、訓練通りにやってみせるさ」


 水上型機甲神骸同士の戦いは、戦闘機同士の戦いに似ており、互いに背後を取り合うドッグファイトになる。

 勇名は敵の動きを読みつつ、六式を旋回させていく。海面との摩擦を利用することで、航空機より急激な旋回が可能になる。


「敵を視認……ロックオン。発射」

永遠の管制で背面ミサイルランチャーから四発のブレットミサイルが発射される。

 フランス語でイタチを意味する名前通り、獲物を追うように急激な軌道修正をしながら敵に近づいていく。


 ある程度敵に近づいたブレットミサイルが分裂すると、四つの更に小型のミサイルになって敵を追い詰めていく。合計十六発の小型ミサイルが襲いかかる。

 しかし、敵も何度となく急旋回しつつ、左肩部の対空機関砲(CIWS)で小型ミサイルを迎撃している。


「今のうちに距離を詰めて」

「わかってる。すぐに無反動砲の射程距離内に入ってやるさ」

 ミサイルに追われる敵の不規則な動きを読みつつ、距離を詰めていく。


「お兄ちゃん、後ろ取られそうだよ。前だけじゃなくて、レーダーもしっかり見て」

「すまない。急旋回する」

 六式の姿勢を低くして、右手で海面に触れ、右急旋回をする。

 追ってきた敵とすれ違うとき、相手が爆発するのが見える。すれ違いざまに、永遠が携行式速射砲を二発命中させたのだ。


「一柱撃破! 早ヶ瀬機も来たね」

 レーダーで僚機を示す青い光が近づいてくる。敵機は残り八柱のようだ。支援をしてくれている味方機には被害がない。

「お兄ちゃん、一気に行くよ!」

「ああ!」


 勇名がアクセルを踏み込むと、エンジンから薄紫の光を放ちつつ、六式が更に加速していく。


水上型機甲神骸同士の争いはいかがでしたか。感想や評価、レビュー、いつでもお待ちしています。

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