25 邂逅
テオスローグは、それにしても雑多な街だった。大通りこそ広いが、狭い路地が至る所に伸びているようだ。建物も高さがあって路地が暗くなっている。建物はレンガ調だがどこか急造したような脆い雰囲気を感じる。ひび割れているからだろうか。
ゴンゴンゴンゴンゴンゴン……
機械の音が大きいから自然と人の声量も大きくなるようだ。路地裏では反響もあって会話ができそうにない。
俺たちは一度大通りに出て食堂か喫茶店を探すことにする。疲れたから休憩も兼ねて昼食にしよう。
……少し遠くに、喫茶店らしき店が見える。テラスに日除けのパラソルとテーブル、何人か人もいるようだ。この街にしてはお洒落感あるな。もしかしたら洒落てない飲食店は雑多な街に溶け込みすぎて気づかないのかもしれない。なんせラカシンポートは街並みもお店もキレイだったからな。あれくらいの店を見慣れすぎた。
「ししょー、ホテルを探す前に一休みしましょう。クタクタです……」
「なら サ店に行くぜ!!」
「えっ?う、うん。そうだね」
「……あそこに喫茶店が見えるだろ。あそこで昼食にしよう」
街の人や街並みを眺めながら向かう。やはり服装の雰囲気は違う。お国柄の違いか流行りなのかはわからないが。
ラカシンポートではカラフルで派手な服装の人が多かったが、テオスローグでは地味な茶系の作業服を着ている人が多いみたいだ。もしかしたら新品は青や緑で油汚れなんかで茶色くなってしまった物なのかもしれない。作業服も道具の一つとして大切に着ているベテランの風格を感じさせる。
大変な仕事だと思うが、しかし街行く人たちも疲れているような感じはせず、むしろ活気のある雰囲気だ。そこかしこから蒸気が出て機械の音がしているから機械職人の多い街なんだろう。作業服以外の人はそれなりに身綺麗にしているが、それでもカラフルで派手な服とは縁遠いようで、白や黒の服を着ている人ばかり見られる。
「あれ……?」
通りの端に見知った顔が見えた気がして、声が出る。
「ん?どうかした?」
ティーテに問われるが、ティーテはどうだっけ、あいつのこと知ってたかな。
「いや……ちょっと見てくるよ。先に行って食事でもしててくれ」
そう言ってさっき見えた人物に近づいていく。──やはりそうじゃないのかな。でもこんなとこにいるはずもないし、そっくりさん?
後姿しか見えないが、近づいてみるとほとんど確信できる。これで振り向いて顔が違ったら俺の記憶力は二度と信じない。女性と話しているようだったが、ゆっくり近づくとタイミングよく話が終わって女性が離れて行ったので話しかけてみた。
「フィル!……お前、どうしてここに?」
話しかけた人物は肩を跳び上がらせて驚くと少し距離を取ってこちらを振り向いた。
俺の顔を見て目を見開き、心底驚いた様子だった彼は一息ついて返答した。
「──アレスさん。こちらのセリフですよ。どうやってここまで来たんですか?」
うーん、俺のことも知っているし間違いなくフィルだ。でも口調がずいぶん丁寧だな。
「どうしたお前、そんな話し方だったか?」
「あー。……アレスきゅーん、おれっちビックリっすよ。どうやって出てきたんスか?」
もしかしてこの口調、演技なのかな。確かになんとなく安定しない気はしていたけど。
「お前さ、俺が誘ったら断ったじゃん?元々来る予定なら一緒に来ても良かったんじゃないの?」
「あー……いやそっスね。じゃあ事情を話すんで場所を変えますか。お二人も来てるんスか?」
フィルを誘った時にティーテとイリスの事も話したんだよな。流すように茶化されたから聞いてないと思ったが、良く覚えているもんだ。
「ああ、あそこの喫茶店に待たせてある」
「じゃあ、そこでいっスよ。合流しましょうか」
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
「ティーテ、待たせたな」
俺は喫茶店に向かい、テラス席に座っていたティーテとイリスを見つけて席に着いた。ティーテはマルゲリータ、イリスはボロネーゼを食べてるみたいだ。どっちもおいしそう。
「もごもご……もごもごもご」
「ししょーお帰りなさい。そちらの方は?」
「あぁ、こいつは俺と同級のフィルだ。偶然会ったんで連れてきた。──フィル、そっちのもごもごしてるのがティーテ、こっちの可憐な少女がイリスだ」
「よろしくっス。ティーテちゃん、イリスちゃん」
「もぐもぐ……ごくん。ちょっとアレス、紹介に差がありすぎない?──フィルくん、すごい偶然だね」
あれ、この二人面識あるのかな。学校は同じだけど普通科と騎士学科で違うから会う機会はないと思うけど。敷地は一緒だから知ってても不思議ではないのかな。
「こんな異国の地でティーテちゃんに偶然会えるなんて、これは神様が結んでくれた運命としか考えられないよ。二人で観光にでも出かけようじゃない?」
「ま「おい!フィル、どういうつもりだ?!」」
ティーテが何か言おうとしていたかな、しかしここは牽制しておかなければなるまい。できる限り低い声を出して詰問する。すこし脅迫じみている。
「……っス。失礼、なんでもないっスよ。そんなに怒るとは思わなかったっス。おれっちとしたことが読み違えたっスね」
「冗談はさておき、早速話しましょうか、あんまり時間もないっスから。周りが騒がしいんで大丈夫とは思うっスけど、少し声は落としてくださいね」
フィルは給仕が運んできたレモン水に口をつけ、一呼吸置いてから話し始めた。こいつ誤魔化す気かと思い声を荒げようとしたが、次のフィルの言葉に面食らって言葉を失った。
「まずはおれっちの正体を明かしましょう。おれっちは国王直属の近衛師団人事部の営業課長っス」
「え、課長なの?偉い人?」
「……いや、営業課は元々おれっち一人っス。人事部は他に総務課長と部長くらいしかいないっスね」
なにこいつ、どういうこと?なんで学校に入ってきたんだ?すでに働いてるってことだよな。
「近衛師団がどうしてこんなとこに来る?人事ってことはスカウトか?」
「アレスきゅん、半分正解っスね。おれっちの仕事はスカウトっス。要は学校で優秀な人物に当たりをつけるのが仕事っス。
ただ近衛はもう先の戦争で壊滅状態っス。だからここへ来た目的は本来の仕事ではなく、救出っスね」
フィルはここまでを一息に言ってまたレモン水に口をつけた。……国王直属部隊が救出する相手と言えば、国王かその周辺人物だろう。誰か捕まったんだろうか?
「誰を救出に?」
「そこで本題っスね。アレスきゅんを見込んで頼みがあるっス。
アレスきゅん達がどうやってここまで来たか知らないっスけど、常人には不可能っス。かと言って他のお二人もコネがあるとは思わないっスね、仕事柄詳しいんスよ」
ここまで来られたからにはその力を認めようってわけか。さすが人事課長様の言う事はありがたいね。それにしても前置きが長いな。
「国王陛下とご家族を助け出してほしいっス。国王陛下は戦争犯罪の重要人物として捕えられ、ドルゲンローグの首都に送られている途中っス」
「今はここ、テオスローグにいるってことか」
「そうっス。首都にある中央裁判所で形ばかりの裁判はやるっスけど、間違いなく王族は死刑っス。そうなる前に助けたいんスよ」
……戦争に負けたから国の代表は犯罪者として処刑か。しかし曲がりなりにも法に基づいて犯罪が裁かれようとしているのに、逮捕された被告人を逃がしたらそれは当然大罪だ。そこまでして見たこともない国王とやらを助ける義理はない。ここは当然NOだ。
「悪いなフィル、力にはなれそうにない」
「そうでしょうね、でもこれを聞いたらきっと協力したくなるっスよ」
なんだこいつ、もったいぶりやがって。そんなのがあるなら最初から言えよ。なんにせよ協力しないけどな。もう決めたんだ。
「……エアリス先生も捕まってるっス」
「────なんだって────?」
―――― あとがき ――――――
漢字を開くと意味がわかりにくいけど自分で読めない文字にルビを振っています。




