死線! 決戦! 常識が通用せん! ~4日目の2~
勢いしかありません…
三三┌( ・_・)┘ブォーン
「いやー、多分……ていうか、間違いなくこれから最終決戦ですし? なるたけ身軽な方がいいでしょ? 俺、どちらかというとスピードファイターだから」
飄々と答えながら、刀身で肩をトントンと叩く。
「身軽すぎるわ! ─ッて肩! 肩斬ってる! 血ぃ出てるぅッ!」
「舘屋! お前、なぜ名瀬羽を逃がした!? ……いや、そもそも、ここに連れてきたのもお前か!? なぜ!?」
まったく緊張感のない舘屋さんに真締が怒鳴る。
流石、頭のネジが飛んでるだけあって、全裸は華麗にスルーしてゆく。
「なぜって……先生、仰ったでしょう? 真希子ちゃんを手に入れたら、成くんは俺の好きにしていいと。そういうわけで、俺はこれから彼に協力しますんで、よろしく」
「貴様、最初からそのつもりだったかァ!」
「ま、『伊達と酔狂』が俺の座右の銘ですもの。それにあなたと違って、無理強いは嫌いですからね、俺」
「無理矢理ナルくんにキスした奴が言うな!」
──ッてあれ? もとからナルくんに味方するつもりだったってことは……ひょっとして私、まんまと舘屋さんにダシにされた?
「おのれ……だが、まあいい。お子様が格好付けて騎士ごっこをやったところで……」
真締が後ろへと大きく跳んだ。
ちょうど高台になっている岩場の上に陣取ると、もう一度指笛を吹く。
彼と私たちの間を埋めるかのように、再び、死霊たちが地面から姿を現した。
「ここが呪われた地だということを忘れたのか! お前たちがいくら強くても、所詮は二人。数の前には無力!」
その真締の勝ち誇ったもの言いが、凄まじい説得力で私を恐怖させる。
「ははは! この山に眠る死霊の数だけでもこの通りよ!」
多い! 多すぎる!
何この数!? 目の前一面、死霊の海なんだけど!?
もう兵馬俑とかそんなレベルなんだけど!?
「成くん。ここまで君たちを振り回した責任として、奴は俺が殺ろう。きみは想い人を守りたまえ」
「水京さん……」
「『人の恋路を邪魔する奴は、姥に蹴られて死にさらせ』だ。愛すればこそ、俺は身を引こう」
うわ、舘屋さん……なんか格好いい。
でも全裸のせいで、すべてが台無し!
あと、姥じゃねぇ!
どんだけ致命的なんだよ、婆ちゃんのキック!?
「いや、ナサニエルも攻めに回れ!」
嫌な声が割って入ったと思いきや、二つの人影が私たちのそばに降り立った。
「都倉さん! カコウさん!」
エロコンビだった。
トレンチコートを着た委員長が長い裾をはためかせる。
そして、ピッタリしたツナギを着たカコウさんが胸を……
……うん、殺意湧くわぁ。
しかもそれツナギっていうか、トラックスーツってやつだよね。カンフー映画で見たことあるよ。
ピッタピタだよ。
ボッインボインだよ。
あんた女の敵だよ。
「お前……二年の問題児の都倉! それに、やっぱり一年の問題児の花香!」
あ、やっぱ教師の間でも、この二人って厄介者だったんですね。
心からご苦労様です。
「──ッて、えええ!? カコウさんって一年だったの!?」
「……それがどうした?」
ごめんなさい。どうもしないです。
だから殺さないでください。
「ふははは、まだまだ甘いな、真締! 我々だけではないぞ!」
仮にも教師を堂々と呼び捨てにして委員長が叫ぶ。
なにが「甘い」のかはよく分からないが、それと同時に、さらに三つの人影が飛び込んできた。
当然ながら、神島三人娘である。
三人とも、手には抜き身の太刀を──
──ッておいー!
「なんで刀ー!?」
「え? ああ、私たちの山城国神島流ではね、魔は刀で斬り祓うのが基本なの」
袴姿の五十川さんが答えた。
なにその脳ミソ筋肉な退魔師!?
山城国って京都だよね!?
陰陽師さん! お客様のなかに、陰陽師さんはおられませんか!?
「スズちゃんなんか凄いよー。二刀流だよー」
綾さんも袴だが、裾を思いっきり切り詰めているせいで、ただのキュロットにしか見えない。
そして、伊深さん、本当に大太刀の二刀流だよ!
とんだマッチョガールだよ、あんた! 伊達に生肉喰ってねぇ! 宮本武蔵も真っ青!
しかも体操着──
──ッて、なんで体操着!? 伊深さんだけ!? なんで!?
でもってブルマ!? なんちゅう絶滅危惧種! どこで手に入れられるんだよ今どき!
ある意味、カコウさんの上を行ったよ! 異彩放ちすぎだよ! この人のキャラが分からなくなってきたよー!?
そんでもって、とうの本人は何かを堪え忍ぶかのような難しい顔をして、私たちのやりとりにもダンマリ無視虫を決め込んでいる。
カコウさんじゃあるまいに……この人、こんなに無愛想だったっけ?
「三人組ッ!? お前達までッ!」
教師からもそんな呼ばれ方しとったんかい三人衆!
「一体どうやってこの場所を……!?」
「貴様がそれを知る必要はない。なぜなら、ここで死ぬからだ」
委員長が真締を指さし、そして親指を下に向ける。
うわ、超悪役っぽい!
しかもヤラれ役っぽい!
「ほざけ! 二人が七人に増えたところで、なにが変わるものか! やれ、亡者ども!」
真締が手を前にかざした。
それを合図に、死霊たちが私たちに向けてズルズルと進軍を始めた。
闘いの火蓋が切って落とされたのだ。
その瞬間────
「うひゃーひゃひゃひゃひゃけけけけけ──!!」
すさまじく邪悪で奇天烈で、頭のネジが四、五本ブッ飛んだような笑い声が、私のすぐそばから響いた。
その哄笑とともに突撃したのは──
え……伊深さん?
美人で、普通で、生肉喰う以外はあんまり目立ってなかったはず伊深さんが、まるで別人のように……ていうか発狂したかのように、真っ向から死霊の怒濤と激突する。
両刀がプロペラのように振り回される。
たちまち、十個近い死霊の首が飛んだ。
ドロドロから悪臭が発せられる刹那、マスクが私の顔に被せられる。
……あれ? でも、口回りが空いて……
「委員長、それ違います」
五十川さんが指摘する。
「あ、これチュンのコレクションのルチャ(メキシカン・プロレス)マスクじゃないか」
「なんでンなもん持ってきた!?」
大声でツッコむ私の口が、今度こそ防毒マスクで覆われる。
よしよし悪臭防げてる。
シュコー。
──ッて、え? 私、まさかここから最後まで、このダブルマスクのままシュコ!?
「いや……これ! このレスラーマスク取ってよ!」
「ごめん、暇がないわ」
「いいじゃん。けっこー似合ってるよー」
五十川さんと綾さんが、こともなげに拒否する。
「綾ちゃん。スズちゃんに続くわよ!」
「もっちもちぃーのロンッ!」
そして、二人揃って伊深さんのあとを追った。
伊深さんを筆頭に、いつものデルタフォーメーションを組んだ三人が、分厚い死霊の壁をズンズン斬り崩してゆく。
「うわっひゃひゃひゃ! うひゃはははひゃひぇー!」
しかし、げに恐ろしきは伊深さん。絶え間ない高笑いを上げながら、他の二人をあわせた以上の死霊を斬り刻んでいる。
「あれが、神島三人衆の三位一体戦法だ」
呆気に取られている私に、委員長が解説してくれる。
「いや……あれは大暴れしてる伊深さんを、二人がフォローしてるだけじゃ……」
しかし、私の異見には完全無欠の無視を決めて、変態は続ける。
「奴らのコンビネーションの前では、百や二百の雑魚など所詮……雑魚でしかない!」
「雑魚以外になんか言い回しねぇのかよ!?」
「とくに伊深は我が委員会の切り込み隊長だ。普段はおとなしい奴だが、刀を握れば怖れを知らぬ戦闘狂へと変貌する。単純な制圧力では、チュンに匹敵する」
「それは、ただの危ない人では!?」
そうやって変態委員長とアホなやりとりをしている間に、三人衆では止めきれなかった死霊が、私たちに向けて襲いかかってくる。
「俺が出る。突破口第二弾といこうか。成くん、真打ちは任せたよ」
舘屋さんが身を屈め、地面の砂を一掴みした。
掌に乗せて、フッと息を吹きかける。
すると、飛んだ砂がまるで散弾銃のように、迫り来る死霊たちを蜂の巣にした。
うっわ、スゲェ! これも仙術ってやつですか!?
舘屋さん格好いい(全裸以外)!
だが蜂の巣にした程度では、死霊たちは怯みこそすれ、崩れ去ってはくれないようだ。
「オンマタタビアビシニアンソワカ!」
今度は思いっきり怪しい真言を唱えながら、自分の髪の毛を一束むしり取って投げた。
その髪の毛の一本一本が、一寸法師のような舘屋さんへと変化して、空を飛びながら死霊の群れへと襲いかかった。
「いくぞー」
「おー」
「くらえー」
口々に甲高い雄叫びを上げながら、手にした剣で死霊をザクザクと斬り刻んでゆく。
「かかれー」
「うちとれー」
「めしとれー」
あ……これは、なんか可愛いかも……
「おしめとれー」「アニーよ銃をとれー」
「ぺすかとーれー」「かちゃとーれー」
「好きなだけ取ーれー」「しるぶぷーれー」
あ、小さくてもやっぱ舘屋さんだ。早くも言ってることの意味が分からん。
「舞え! 俺!」
そして華麗かつ優美な剣の舞とともに、本体の舘屋さんが躍り出る。
──だめだ! ただのストリップ・ダンスにしか見えないッ!
しかし、そこは流石の舘屋さん。滑らかな、そしてやっぱりなんかイヤらしい動きで、スイスイと死霊たちを斬ってゆく。
いや、ちょっとアレは斬れすぎじゃね? 素人の私から見ても、死霊たちにまるで手応えがねえぞ?
豆腐を切るかのようだぞ?
と思った瞬間────
「ぐぼはぁッ!」
舘屋さんが盛大に吐血した。




