不死身!? 神器!? 大血飛沫!? ~4日目の3~
素っ裸で華麗に闘う残念イケメン舘屋水京。
彼の操る三種の神器とはいかな武具なのか。
どうせロクなものじゃない。
「だ……舘屋さん!」
「大丈夫。水京さんは、不死身だから」
ナルくんの言葉が私を落ち着かせる。
その通りに、舘屋さんはすぐさま体勢を立て直して、死霊たちを撫で斬りにしてゆく。
「あ、そうなんだ。じゃぁ、大丈夫……じゃねぇし!」
落ち着かねぇし!
「不死身!? 何それ!?」
「貴様、日本人のくせに知らんのか? 死なずの身と書いて、不死身だ」
「知ってますけど!? そうじゃなくって、なんで舘屋さんが不死身なの!?」
「んなことは知らん」
「そこ重要!」
「理由や過去など、どうでもいい。私にとって意味を持つのは、奴のその特異体質が、我々にとって至極有用である、ということだけだ」
いいこと言ってるようで、この人、メチャクチャ過激な実力至上主義者なんですけど!
「我々? 舘屋さんは、委員長と争ってるんじゃないんですか?」
だってこの人たち、最初に見たときから罵声浴びせ合って、チャンバラしてたよね?
「ふん、ド鈍感な貴様のこと、すっかり騙されたようだな。水京もまた、我ら《風雲風紀委員会》の一員よ」
「ド鈍感って何!? 無駄に語呂がいいぶん、超ムカツクんですけど! ──ッて、えええ一員!?」
それじゃ、今まで散々に闘ってたのは……!
「奴の主な任務は、我々と敵対している体を装いつつ、事件の犯人と思われる者と接触し、その内情を探ることだ」
な、なにぃ!?
じゃ、私は最初っからこいつらの芝居に振り回されてたってのか!
「そして、敵の技術を奪い取るのも奴の使命。手の内をある程度盗むことが出来れば、我らの戦力増強は勿論、以後、同じ系統の事件が起こったときにも対処しやすくなる。舘屋水京は伊達と酔狂だけで仙術から陰陽道まで、あらゆる呪術を使いこなす男。こういった任務には最適な人材だ」
「どんな天才ですか舘屋さん! 伊達と酔狂だけで色々こなしすぎでしょ!」
ていうか、さっきの真言、やっぱ陰陽道かよ!
認めねぇ。あんなのが陰陽師とか、私は絶対に認めねぇ!
断じて断る!
「だが、やはり水京がもっとも輝くのは、ああして〈サンシュノジンギ〉を振るうときだ」
「三種の神器? それって『古事記』に出てくる……?」
〈天叢雲剣〉と〈八咫鏡〉と〈八尺瓊曲玉〉の三つだよね。
現存してたの?
ていうか、実在してたの?
「はぁ? 貴様、何を言っている。物乞いに何の関係がある?」
その「乞食」じゃねぇよ!
「生ヒジキなら好物だが」
聞いてねぇよ、テメーの好き嫌いなんざ!
しかも、そこもしっかり「生」かよ!
「私が言っているのは……『三つの咒い』と書いて〈三咒の神器〉だ」
「呪いのアイテムかよ!」
「やつの握っているあの剣は〈天邪鬼剣〉といい、昔々あるところに、お爺さんとお婆さんがいまして──」
いきなり大日本昔話始まったー!?
「その二人によって殺された鬼の腹から出てきた伝説の諸刃の剣だ」
「経緯がおかしい!」
ていうか、お爺さんとお婆さんが鬼倒したのかよ!?
「鬼は美女に化け、老夫婦の孫娘の婚約者を寝取った」
「生々しいわ!」
「だが、そのことに激怒した老夫婦に逆襲され、最後にはお婆さんの必殺技、怒りの空中三段蹴りを喰らって死んだという」
「お婆ちゃんの致命的キックきたーッ! 人の恋路を邪魔した奴が姥に蹴られて死にさらしたー!」
「だが、その鬼の力は死してなお、剣に宿っていた。その刃は鋭く、軽く触れただけで人体すら真っ二つにする」
委員長の言葉通り、舘屋さんは次々に死霊を斬り捨ててゆく。
すると、またも大量に血を吐いて、ブッ倒れた。
「そして……相手に与えたダメージの分、自分も傷つく!」
「なんでやねん!?」
諸刃の剣て、そのまんまやないかーい!
なんて口と心の両方でツッコんでいる間にも(もうどこからどこまでが実際に口に出した言葉か判らない)、舘屋さんは立ち上がった。
二度の吐血で、すでに身体は血塗れだ。
そこに、死霊が襲いかかる。
ドロドロなはずのその手からは、どういう原理か、人間の肉なんか簡単に引き裂きそうな、巨大な爪が生えている。
その一撃に対して、舘屋さんは腕に装着した銅鏡を盾のように構えた。
「あれは、〈夜叉鏡〉といって、昔々ある平安京に」
「ある平安京じゃねぇよ!」
平安京いくつもあってたまっかよ!
「己を裏切った貴族の男を、一族郎党もとろも皆殺しにした上、町に火を放ち、最後には多数の検非違使を相手に血みどろの激戦を繰り広げたあげく、壮絶な討ち死にを果たした女がいた」
「どんな化け物女だよ!?」
ラ○ボーも真っ青だよ!
ていうか、検非違使っていわゆる平安時代の警察だよね!? そんな難しい言葉、よく知ってたね馬鹿委員長!
「最終的に討ち取られはしたものの、女はその勇猛さから〈夜叉姫〉、または〈京の女ラン○ー〉と渾名され、死後も恐れられ続けた」
ない!
二つ目はない!
平安時代だっつってんだろが!
──ていうか、さっきから話が長い! 死霊が爪を振り上げてから振り下ろすまでに何文字ぶん喋る気だ!?
あっちとこっちで時間の流れが違うってレベルじゃねぇぞ!
アインシュタインが草葉の陰で度肝を抜かれてっぞ!?
「あの鏡はその夜叉姫が生前、命の次に大事にしていたものだ。自尊心と嫉妬の塊となった鬼女の魂が乗り移っており、己を壊そうとする者がいれば──」
そこでようやく、死霊の爪が舘屋さんの鏡に突き立てられる。
瞬間、爪が粉々に砕け散った。
そればかりか、死霊は見えない刃物に切り刻まれたかのように、ズタズタの細切れになって溶けた。
「すなわち、その破壊エネルギーのすべてを攻撃側に反射する」
「す、凄い……!」
と思いきや、防いだはずの舘屋さんの肌にも無数の裂傷が走り、一斉に血を噴いた。
「そして、鏡への攻撃を許した持ち主の身体も傷つく」
「盾の意味がねぇーッ!」
「盾ではない! 鏡だ!」
そうだけどッ!
「最後に、水京が首から下げている曲玉は〈比良坂曲玉〉という」
「名前からして嫌な予感がする!」
「〈黄泉比良坂〉を封じる〈千引の岩〉の破片から作られている。その力は冥界と繋がっており──」
突然、舘屋さんの眼、鼻、口、耳……そして毛穴という毛穴から、ビューッっと血が噴き出た。
血のスプリンクラーになりながら、真っ赤に染まった舘屋さんがバッタリと倒れる。
「身につけた者は死ぬ」
「つける意味は!?」
「ない」
言い切った!
そんでもって、また息を吹き返したよ舘屋さん!
もう全身血みどろだよ! あんたの方がよっぽど死霊だよ!
だが、舘屋さんの奮戦も虚しく、敵の一部が防衛戦を突破して、私たちの方へと攻め寄せてくる。
「マコちゃん、これを」
焦る私の目の前に、ナルくんが水鉄砲を差し出してきた。
昨日、私にくれたやつだ。
あれ、今日は家に置いたまんま、忘れてきたはず。
……え? 私の部屋に入ったの?
という疑問を抱きながらも、私が黙ってそれを受け取ると、ナルくんはさらに二挺の水鉄砲を、両腿に固定していたホルスターから抜いた。
「ファイア! じゃない、ウォーター!」
どっちでもいい!
委員長が叫ぶや、ナルくんが水鉄砲を連射し、水を浴びた死霊たちが次々に崩壊してゆく。
水強ぇぇッ!
「何をしている! 貴様も撃て!」
「え? あ、はい!」
言われるがままに、私も水鉄砲を撃ちまくる。
当然、その水を喰らった死霊も、瞬く間に呻き声を上げながらドロドロと溶けてゆく。
おおー、なんか自分がスゲェ強い存在になった気分。やっぱ、これ硫酸?
「ナサニエルは悪の申し子であると同時に、優れたエクソシストの素質をもあわせ持っている。こいつが祈りを籠めた水は、たとえドブ川の汚水であっても、退魔の威力を発揮する聖水となる」
「聖水なのコレ!?」
ていうか、悪の申し子が聖水作っていいのかよ!?
だが、そうツッコむ前に、バァン、という破裂音が私の鼓膜を激しく震わせた。
数秒と間を置かずに、二度、三度と立て続けに鳴る。
委員長のパーカッション銃だ。
一発撃つごとに、ポケットから取り出した銀色の弾を銃口に入れ、撃鉄を上げて、引き金を引く。
その動きの速いこと速いこと。単発銃なのに、射撃の合間が二秒くらいしかない。
あれ? 単発パーカッション銃なのに?
火薬を使っていない?
「ちなみに私の銃は、アンティークのパーカッションを改造したエアガンだ。構造が単純なぶん、耐久性には信頼が置ける。再装填の手間は、技術でカバーすれば済む」
ああ……どうりで、火薬の匂いもしないと思った。
さすがの銃撃とあって、弾を喰らった死霊は、まるで花火のように粉々に四散する。
「ぐはぁ!」
突然、群れの中で闘っていた舘屋さんが、背中から血を迸らせて仰け反った。
味方撃つなよ!
「あの馬鹿が。しゃしゃり出て無駄弾を使わせおって」
「なんて言い草!」
しかし、そうかー空気銃かー。
安心…………しねぇよ!
「いやいやいや! それ絶対にエアガンとかいう威力じゃないですよね!? 猟銃のレベル超えてますよね! どんな改造してんですか!?」
「知らん。武器製造や改造、メカニックに関しては、バイオに一任している」
あんのお調子者がーッ!
「それに、弾さえ選べば、発射機構の種別、性能は関係ない。チュンを見てみろ」
そう言われて私は視線を、委員長の隣にやる。
そこには、二、三個の弾をスリングショット(いわゆるパチンコ)で次々に撃ち出すカコウさんの姿があった。
あんた男前すぎ!
しかも、今度の彼女の左眼は銀色だ。
ホント、なんなんだこの人?
委員長とは違い、カコウさんは弾を足下に置いた箱から掴み取って撃っている。
そのプラスチックの箱の中にぎっしりと詰まった銀色は──
「パ……ッ」
「チ○コ玉だ」
皆まで言わんでええねーん!
「ひょっとして、昨日パチンコ屋に行ってたのって……」
「弾丸の収集だ。古来より、魔物を倒すには銀の弾丸と相場が決まっているからな。言っておくが盗んだわけではない。ちゃんと打って、取ってきた」
「それがアカンのやーッ!」




