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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第二章 全プレイヤーに先駆けて最強PKを攻略せよ!
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クエスト22 おじーちゃん、ギルドの『資料館』でお勉強

 セットする【スキル】を【強化:筋力】、【交渉術】、【暗視】に変え、再び海辺の街『キルケー』へ。ジャッジさんの助言に従い、冒険者ギルドにて情報を集めることにした。


 まず職員に尋ねたのは、件の鍾乳洞――『蒼碧の洞窟』に出現するモンスターについて。


 曰く、儂が最初に対峙し、HP全損と引き換えにどうにか1体倒すことのできた『人の四肢生やす魚のモンスター』の名は『レッサー・フィッシャーマン』。『蒼碧の洞窟』でもっとも多く出現するモンスターで、推奨討伐レベルは20以上。基本的に2体以上で行動しているのでソロではなくパーティでの戦闘を推奨、と言う話だったが……儂、よく1体でも倒せたものじゃな。


 ほかにも片方のハサミが巨大な槌のような人の身長より大きなカニ――『ハンマー・ジャイアントクラブ』というモンスターも出現するそうで。こちらもまた推奨討伐レベルは20前後。複数での行動が基本の魚人とは違って単体で出現し、動き自体は鈍重という話じゃが槌状のハサミによる一撃は大層危険だそうで。加えて、下手な刃物は通さないほど外殻も硬い、ということなので相対するのなら打撃武器か魔法での攻撃を推奨しているのだとか。……つまり、今の儂ではどうやっても勝てない相手だということだのぅ。


 そして洞窟に出現する最後の3種目が、大きな蒼い蝙蝠――『ブルー・ジャイアントバット』。推奨討伐レベルこそ同じく20前後という話だが、この蒼い蝙蝠は困ったことに天井から急に、それも3匹以上の群れで飛来して攻撃してくるそうで。つまりは、あの身動きがとり難い場所にあって空中からの、それも複数での同時襲撃があると言うのだから……今の儂ではもうお手上げじゃな。


 職員に曰く、そもそもギルドの告げる『推奨討伐レベル』にしてもパーティでの――つまりは三人以上の冒険者での戦闘を想定したもので。ソロでの討伐以前に、冒険者なら基本は複数人で組んでの狩りを推奨しているのだそうだ。


 ゆえに、儂のようにレベルが低く、装備も貧弱。そのうえソロでの活動が基本という冒険者が『蒼碧の洞窟』に挑むのは完全に自殺行為とまで言われたが……さもありなん。今の儂もそう思うでな、何も反論できんわ。


 さておき、出現するモンスターについて知れたのは大きい。パーティでの戦闘を想定したものとは言え推奨討伐レベルも教えてもらえたので、まずはレベル20以上を目標に頑張るべきだろう。加えて、あとは装備も整えたいところじゃが……それはまたおいおい考えるとして。こうして情報の有用性をあらためて実感させられたことで、一つ、試してみることにした。


 それが――〈学者〉への転職。


 何故なら〈学者〉は、それぞれの街の冒険者ギルドが管理する『資料館』なる『紙媒体の情報資料』を保管した施設を利用するために就かねばならない〈職〉で。儂の記憶がたしかなら最初に〈運び屋〉に転職した際に見た、転職可能な〈職〉のリストに〈学者〉は無かったと思うのじゃが……それはさておき。儂はさっそく〈学者〉へと転職し、職員に案内されるがまま昔懐かしい『紙』を媒体にしてできた『本』が多数収められた冒険者ギルド内の一室へと、そこはかとなく胸を躍らせながら入室するのだった。


 ほほぅ……これはまた、なんとも面白い。


 今や現実世界では稀少を通り越して文化的遺産とまで言われだした『本』。それが多数あること自体にもかなり心を浮足立たせる要因たりえるが、そこはAFOの『本』であるからして、当然、すべてがすべて遺失言語で綴られたもので。つまりは、会話こそそれなりに可能であるが文字を知らなかった儂には読むことのできないもので。ゆえに――心の底から『面白い』、と感じていた。


 当初こそ情報収集のため、そして状態異常の【虚弱】のせいで6時間は大してレベル上げもできないだろうから、と暇つぶしも兼ねて、などと思っていたが……『文字』の解読が楽しすぎて時間を忘れた。


 そも、ここに収められた書物は、何かの資料や図鑑のようなものばかりではなく。なかには児童書のような、見るからに子ども向けと思われる絵を中心とした薄い本まであり。だんだんと『知らない模様』が『文字』に、『文章』になっていくのがまるでパズルを解くような楽しさを儂に感じさせた。


 ゆえに、『資料館』にて『本』を読み解くこと2時間ほどで視界の隅に流れた[ただいまの行動経験値により〈学者〉のレベルが上がりました]のインフォメーションはともかく。次の[ただいまの行動経験値により【解読】を得ました]というインフォメーションが流れたのには思わず眉根に皺が寄った。


 ……【スキル】をセットすれば、おそらく読めるようになる。そのうえ、読み進めることで【解読】のレベルも上げられるのじゃろうが……ここにきて『謎解き』の楽しみを奪われるというのものぅ、と。そんなふうに悩むのも一瞬に。そもそもからして、今、一番考えなければならないことを思い出して即座に【交渉術】から【解読】に『スキル設定』を変更する。


 ついでに手に入ったSPを消費して『敏捷』を上げ。目標たる『蒼碧の洞窟』――その奥に居るだろう『亡霊猫ファントム・キャット』に会うために、今はすこしでも早く、そして多くの情報を収集するべきじゃろうと判断し、それまで文章の解析に使っていた思考を完全に切り替える。


 ……面倒じゃが、いちおう、すべての書籍を見直すかのぅ。


 サッとでも目を通せば【解読】のチカラもあって意味を理解できるようになり、1ページにかかる時間が一瞬で済むようになったのはありがたい。が、傷みやすいだろう古めかしい紙でできたページをめくるのは、やはり気を使うもので。棚からの出し入れの時間も併せて、『本』の中身を覚える時間よりもページをめくる作業の方が時間がかかるという……。


 それでもどうにか1時間も経つ頃には〈学者〉のレベルが更に上がり。【解読】も2レベルとなった――と同時に、【翻訳】の【スキル】まで得ることができた。


 ……この【翻訳】は、知らない言語での会話を可能にする【交渉術】と、知らない文字の意味を理解できるようになる【解読】の2つを合わせたような効果の【スキル】――いわゆる『複合スキル』というやつで。これ1つあれば2つの【スキル】がお役御免となるわけなんじゃが……なんの思い入れもない【解読】はともかく、ここまでレベルを上げた【交渉術】の代わりとするのは、なぁ。


 まぁ、それでも。セットする【スキル】は【解読】から【翻訳】へ代えるし、新たに増えたSPも『敏捷』にふって、さっさと『本』を読み進める作業に戻るわけじゃが。


 とりあえず、状態異常の【虚弱】が消えるか、キルケーの『資料館』内の『本』を読み切るまでは、と。そう考えながらページをめくり続けること更に数時間。果たして、【虚弱】の文字が消えるころには『本』も読み終わり、≪ステータス≫は以下のように。




『 ミナセ / 学者見習いLv.8


 種族:ドワーフLv.6

 職種:学者Lv.2

 性別:女



 基礎ステータス補正


 筋力:1

 器用:2

 敏捷:3

 魔力:0

 丈夫:1



 装備:見習い冒険者ポーチ、見習い服



 スキル設定(3/3)

【強化:筋力Lv.1】【暗視Lv.2】【翻訳Lv.2】



 控えスキル

【交渉術Lv.4】【収納術Lv.4】【盾術Lv.3】【斧術Lv.7】【槍術Lv.1】

【剣術Lv.1】【解読Lv.2】



 称号

【時の星霊に愛されし者】【粛清を行いし者】    』




 当然じゃが、防具は外しており。現在の格好は初期装備の『見習い服』に『見習い冒険者ポーチ』のみである。


 そして、じつは、『本』に陽をあてないようにするためか『資料館』には窓が無く。終始、天井にある魔法か何かでほのかに光る程度の明るさの丸い物体が唯一の光源であったここでは、何気に【暗視】のレベル上げにもなっていた。が、外はすでに十分に明るかったので退室を機に【暗視】と【収納術】を交換することに。


 これは、現在、インベントリ内のアイテムは『練習用武器:盾』に『量産武器:手斧』、『量産武器:盾』などに加えて『ポーチ』内にあった回復アイテムほか予備の武装だけで。中身の質や量に比例して経験値を取得している【収納術】は、当然ながらレベルを早々上げられないだろう――が、これも【強化:筋力】と同様、ある種『セットしているだけで経験値を加算させていく』タイプの【スキル】なので、セット可能な枠が空いているのなら『とりあえず』でセットすることにしていた。


 と、それはさておき。『本』も読み終わったこともあり、儂は名残惜しい気もする『資料館』を引かれる後ろ髪を振り払うようにあとにして。昨晩、世話になった職員は交代で居なかったが、それでもとりあえず『資料館』を借りたことに対して受付嬢の一人に礼を言い、冒険者ギルドを出るのだった。


 果たして、現在の時刻は朝の8時近く。現実世界で言えば、朝の6時半すぎ、といったところで。ゆえに……おそらく、これぐらいの時間なら非常識ということもあるまい。


「――≪メニュー≫、オープン」


 眼前に表示させた≪メニュー≫から『メッセージ』の項を選び。美晴ちゃんたちに教わったアドレスへと『心配かけてすまない。儂は大丈夫だ』というメッセージを送る。


 そして、


[フレンド:みはるん☆さんからメッセージが届いています!]

[フレンド:スィフォンさんからメッセージが届いています!]


 この時間なら『山林を駆け抜ける風』の三人も今はもう起きているだろう、と。先日のお礼を言うため、彼らがよく利用しているという宿屋へと向かう道すがらに流れるインフォメーション。


 体感時間にして3倍という現実との時間差を思えば即座に返信を寄越したと知れるタイミングでのそれに思わず瞳を細め。インベントリから『見習いローブ』と、ついでに『小兎と森狐の毛皮鎧』を選んで装備し。ローブのフードを目深にかぶって顔を隠しつつ路地の陰へ。


 そして、


『みはるん☆:よかった! すっごい心配したんだからね! じゃあ、またAFOで会おうね、おじーちゃん!』


『スィフォン:ミナセさんがご無事で何よりです。私もみはるんもまえと同じ現実世界で16時にAFOにログインしますので、またお会いできるのを楽しみにしています』


 開いたメッセージを二度、三度と見返し。そうして表情から笑みが消えるまで隠れてから、ようやく物陰から出て、再び『山林を駆け抜ける風』のもとへと向かうことに。


 果たして、歩くこと数分。ちょうど彼らが宿から出るところに遭遇した。


「おお、ミナセ! ミナセじゃねーか!!」


 気づいたのは、おそらく全員がほぼ同時で。彼らのリーダー格である熊の『獣人』――ジングソーが体を向け、黒豹の女獣人――リュンシーが顔を向けるのと狼青年――ギーシャンが声をあげてこちらに駆け寄ってくるのがほとんど大差ないタイミングだったのは、さすが全員が高レベルの〈野伏〉。あるいは、儂が彼らを視認するころには足音ないし気配を察する【スキル】等で知られていたのでは、と思ってしまうほど反応が早い。


「おうおう、元気そうじゃねーか! お前がいきなり気ー失って心配したんだぞコラぁ!」


 そう笑顔で――獣顔なせいでよくわからんが、おそらく雰囲気的に『笑顔』だろう表情で言って、儂の頭に手を置き、わしゃわしゃと髪をかき混ぜるギーシャン。その声に喜色が濃いのを見て儂もほのかに笑みを浮かべ、


「ああ、すまぬ。心配をかけた」


 そして、ありがとう、と。万感の思いをこめて告げ、頭を深く下げた。


「……へへ。ま、良いってことよ!」


「俺たちはただ依頼をこなした。それだけだ、気にするな」


 対して、下げた頭上で何やら照れているような雰囲気になるギーシャンと腕を組んでそっぽを向くジングソーを『視て』、思わず伏せた顔に笑みを刻む。


 ちなみにリュンシーは、そっと儂の頭に手を置き。さきの狼青年によって乱された髪を整えるように撫でつけながら、


「……ミナセが無事で、よかった」


 そう、まるで姉が妹に対するような、どこまでも慈愛に富んだ声音で告げた。


「心配した」


「……すまない」


 撫でり、撫でり。それはもう優しい手つきでのリュンシーのそれのせいで頭が上げられない儂。


 ややあって、「もう大丈夫?」と問い、彼女が手をどけるのに合わせて顔を上げ、「うむ」と頷く。


「あれは、ただ疲れて倒れただけでな。見ての通り、今はもう元気じゃ」


 それより、と。今まさにどこかに出かけようとしていた三人に「これからどこへ?」と問う。……もし時間的な余裕があれば、あらためて何かお礼をしたいのじゃが。


「あン? 俺らはこれからおやっさんのとこに預けてた武器とか返してもらって何か依頼でも、って感じだが?」


 何かようか? とでも訊きたそうな声音で告げるギーシャンに「……ふむ」と思案顔を作って頷きを一つ。彼の言う『おやっさん』が儂も知る武器屋の『ドワーフ』の店主のことだろうと察し、あらためて口を開く。


「ならば、依頼はともかく武器屋までは儂もついて行こう」


 その道中で『お礼』の件は済ませるとして。予備の斧を1つ2つ買い足しておこうと思っての儂の言葉に「ああ、ミナセは随分と武器を壊していたからな」と納得の声をあげるジングソー。


 対して、ギーシャンなどは「つか、そもそも何であんなに武器持ち歩いてたんだよ」と。そんな彼の怪訝そうな声音から察するにPK討伐で大量の武装を手に入れられたことは気づかれなかったようで。インベントリという大量のアイテムを持ち運べるプレイヤーの撃破に『利点』を見出されること無く済みそうで密かに安堵した。


「うむ。まぁ、格上を相手にしようとするんじゃ。備えは万全にしておかんと、のぅ」


 ……本当に、いろいろな意味で。と、そう肩をすくめて告げれば三人は納得したようで。なかでもギーシャンなどは儂の言葉で思い出したのか「ブハッ!」と吹き出し、


「つってもよミナセ! お前、あの夜だけでもけっこうな数、武器をぶっ壊してやがったよな!」


 あれは見ていて笑えた、と。ぎゃははは、といささか下品な笑い声をあげながら肩をバシバシ叩く狼青年に苦笑を返し、


「そうは言うが、あれだけ多くのモンスターを3時間以上も嗾けられたうえで格上の〈狩人〉の攻撃を防ぎ続けたのじゃぞ? 冒険者ギルドで売っとる1つ100Gの武器の耐久値を思えば、あれは仕方なかったと思うんじゃが……」


「なるほど、大した武器が無かったように見えたが……あれはギルドで初心者向けに売っている量産品ばかりだったのか」


 儂の言葉にジングソーは得心いったと頷き。リュンシーも儂が盛大に武器を壊し続けていたのを見ていたのだろう、「納得」と小声で呟いていた。


「はは! なんにしてもミナセ。あんまり武器ぶっ壊してばっかだとおやっさんたちにブン殴られっからな!」


 気をつけろ、と。そう忠告し、あらためて儂の頭髪をかき回すギーシャン。


 対して、「……いや、儂としても好きで武器を壊しているわけではないんじゃが」などと仏頂面で返しつつ、彼の心遣いに内心で密かに喜ぶ儂。……ふふ。いやはや、なんとも面はゆいのぅ。


「なんであれ、ミナセも行くのならさっさと行くぞ」


 果たして、そんなジングソーの言葉に従って儂らは歩き出し。当初の予定通り、あらためて礼の言葉を告げたうえで、儂が『ログアウトした後』のことを訊いてみた。


 すると、どうにも儂が絶賛する志保ちゃんと言葉が通じなかったことが予想外だったようで。それでもジャッジさんを通して軽く挨拶程度の会話はしたらしいが、けっきょくはそれだけ。事前の依頼額の交渉に際し、「ミナセが認める凄いプレイヤーと知り合えるのなら、それだけで報酬になる」とまで言っていたが……うぅむ。


 儂としては、たったその程度の接触で大幅に依頼額を下げてしまったうえ、聞けば美晴ちゃんたちの護衛まで少ない時間とは言えしてくれたと言うし、罪悪感が凄いのじゃが――




「こんの、バカモンがぁぁぁあああああッ!!」




 辿り着いた武器屋で。面白半分でギーシャンが告げた、儂が1日で10以上の武器をぶっ壊したと話したせいで店主が激昂。振ってきた拳骨の一撃でそんな思いも吹っ飛んだ。


 ……うぐぐぐ。まさか一撃でHPを4分の1以下まで削られるとは。おかげで胸の痛みも気にならなくなったぞ、ギーシャン。いやはや、まさかこの歳で拳骨を落とされるとは、と儂は痛み以外の理由で頭を抱え、しばしの間、蹲るのだった。



おじーちゃんの成長メモ


・〈学者〉レベル0→2、敏捷+2

・【暗視】レベル1→2

・【解読】取得、レベル1→2

・【翻訳】取得、レベル1→2


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