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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
迷宮都市ババロン編
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元奴隷の帰還

「遅くなってすいません。ただいま戻りました。エリーナさん」


 エリーナへ振り向いたノブナガは、屈託のない笑みで言う。


 しかし、倒れ込んでいるアリンカや傷だらけのカレン、それに壁側で横たわっているザンを見ると表情を一変させる。


 状況からして、吸血界にいた時ほど時間が経っているわけではない様だが、それでももっと早く帰ってくればどうにかなったのでないかと思うノブナガ。


「天空の息吹を帰還せし戦士たちへーー“天回”」


 回復魔法を唱え、カレンの傷を回復するノブナガ。


「エリーナさん、後は俺が引き受けます。エリーナさんはカレンたちをお願いします」

「わ、わかりました」


 ノブナガの静かで低い声で、エリーナはノブナガがキレている事がわかった。

 目が、獲物を見るような鋭い視線で魔族たちを射抜いている。


 エリーナが頷くと、ノブナガは意識を魔族たちに向ける。

 エリーナがアリンカに“浄回”をかけるのを背中に、ノブナガは自身状態を確認する。


 さっきは引き受けるとは言ったが、正直ノブナガもそれほど余裕があるわけではない。


 仮眠をしたとはいえ、向こうの世界では5徹したのだ。

 すでに“限界突破”状態であり、“異門(ゲート)”を使った時に結構な量のMPを持っていかれたので、もう通常の5割あるかないかぐらいである。

 肉体的にも精神的にも、いつ意識を失ってもおかしくない。


 だが、魔族たちに目を向けてみれば、その身体は傷だらけで満身創痍なのが伺える。


「一気にケリをつける」


 地面を強く蹴り、一直線にハチ男へと接近するノブナガ。

 制限時間がある以上、やるのは短期決戦だ。


 [+縮地移動]を使ったわけでもないのに、ノブナガの動きは音速を超える。

 大気を押し退ける音が響き渡り、気が付けばハチ男の懐に入っているノブナガ。


「ッ!?」


 知覚能力の埒外な動きに、ハチ男は反応する事が出来なかった。

 認識した瞬間には、デカデカとした拳が目の前に広がっていた。


 “大猩々(ゴリラ)”のスキル“巨拳”。

 ノブナガの右拳が三周りほど大きくなり、圧倒的な物量の拳がハチ男を毀つ。

 “豪腕”も発動し、殴られたハチ男は踏ん張る事も出来ず、軽々と吹き飛ばされる。


 “巨拳”を振るった直後のノブナガに襲いかかる影、クグゥ。

 ノブナガの足を取るべく、長い尻尾を振るってくる。


 それを軽やかにジャンプして回避したノブナガは、右拳を通常サイズに戻しながら詠唱する。


「白氷・冷気・矢・凍れ・射抜くーー“フリーズ・アロー”!!」


 突き出された左掌に鋭く尖った氷が出現し、地面を這っているクグゥに向かって放たれる。

 狙い違わずクグゥの頭に襲いかかるが、その間に入ったカメ男の“鋼鉄化”によって防がれた。


 その事に内心舌打ちをしつつ、ノブナガは宙を蹴って全員の頭上へ。


 そこから片方は一面レンズで、もう片方は穴だらけのすべての穴にレンズが埋め込まれたフリスビーのような形をした物を“ストレージ”から取り出し、自身の下へと投擲。

 精神操作で空中に停滞し、一面レンズの方をノブナガへ向けられる。


「青裁炎光・燃え輝く・熱線・焦げ滅す・貫くーー“サンシャイン・レーザー”!!」


 放たれるのは、オリジナルの2重属性魔法。

 炎と光を組み合わせ、熱線となって放つノブナガが作り出した魔法。

 しかも、中級魔法同士を使った組み合わせは、2重属性魔法の生みの親であるベリンですら、消費するMPが半端ではない事から使えなかった。

 それを[+省略詠唱]で唱えられるあたり、さすがはチートというべきなのだろうか……


 そんな炎光の中級魔法が、一線のレーザービームとなって放たれる。

 狙う場所は、先ほどノブナガが投擲したフリスビーのような物。


 “サンシャイン・レーザー”が一面レンズに命中したかと思うと、次の瞬間に訪れるのは熱線の雨。


 一線のレーザービームだったはずが、10線以上の熱線となって地上に降り注ぐ。

 一線一線が爆発もせず地面に穴を開けていく光景は、正しく天災。

 しかも、熱線はぐるぐると回り、地上に隙間なく降り注いでいる。


 飛輪型熱線用アーティファクト“ブルグラム”


 外側は鋭く“風刃”と“振動両断”が“生成”されているので、フリスビーのように投擲しチャクラムとしても使え、重力魔法と精神魔法で操作する事もできる。

 そして、このアーティファクトの最も特徴が、埋め込まれている複数のレンズだろう。


 構造はザン専用アーティファクト“ルナイト”と同じで、“ルナイト”が一撃に凝縮する物なら、“ブルグラム”は拡散させる物だ。

 威力は一線の数十分の1ではなく、レンズ1つ1つに“生成”されている重力魔法で圧縮されている為、地面すら焼き貫く。


 それにより、地上には太陽の光が降り注いだかのような天災が起きているのだ。


 しかも、熱線を1箇所に留めない為に“ブルグラム”を回転させているので、魔族たちは緊急回避に専念させられる。


 が、カメ男だけは、その熱線の速さにやられて命中する。

 “鋼鉄化”を使って甲羅で凌いでいるようだが、それでも鋼の甲羅を通して少なからずダメージを受けているようだ。


 そんなカメ男に、ノブナガは空を蹴って急接近。

 “ブルグラム”を回収しながら、また“ストレージ”から新たなアーティファクトを取り出した。


 表面は蒼く、全体が黒の1メートルほどの盾。

 片方からは杭のような物が飛び出しており、そちらを敵に向けるようにしてスライド式で左手甲と接続。

 取り付けられたグリップを握る。


 超重量の盾を迫る勢いと落下の勢いを利用して振るう。

 “剛力”を使い、重さに振り回される事もなくカメ男の甲羅に杭を打ち立てる。


 カメ男の足場に蜘蛛の巣のようなクレーターが出来上がる。

 まるで重力に押し潰されているかのような重たい一撃に、カメ男は苦悶の声を漏らす。


 押せず押されずの状態が続き、拮抗し合う両者。


 が、ノブナガが起こした行動を目にし、カメ男は甲羅の背中に冷たい汗を流す事になる。


 拮抗し合う間、ノブナガの右手が盾の後方に伸びる。

 すると、杭がある方から10センチほどから上の部分が左右にパックリと開かれた。

 2つに分かれた中から頑丈な糸が飛び出し、レールのように残った盾の軸の端を中間地点として左右に分かれた2つの端に繋がっている。


 それを側から見ていた者は、その変形した盾をある物と連想させた。


 ーー弓、と。


 まるでその連想を肯定するかのように、ノブナガは軸の端に取り付けた把手を右手で引っ張る。

 カメ男の甲羅に接触している杭がギィィィイイイイという低い音を立てながら回転する。


 次に起こる事を想像したのか、カメ男は絶句するような顔をした後、覚悟を決めたように引き締める。

 甲羅の“鋼鉄化”に全魔力を注ぎ込んだ。

 絶対に耐え抜いてみせるという意思表示だったのだろう。


 そんな覚悟を、ノブナガは一切の容赦なく潰す。


 ピキッ


 初めは、そんな小さい音だった。

 気にしなければ気づかないような、小さな音。


 ピキッ、ピキピキピキッ


 しかし、その音も次第と大きくなり、何の音なのかを明確にしていく。

 そして、


 パリンッッッ!!


 粉々に破壊される、鋼鉄の甲羅。


 カレンの[+破壊炎線]にも耐え、これまでどんな攻撃にも耐えてきた鋼鉄の甲羅が、ここに崩れた。


 “重武人”の“重装術”の派生スキル[+浸透破壊]。

 物体に魔力を浸透させ破壊するスキル。

 生物を対象に使う事は出来ないが、魔力を浸透させる事が出来れば耐久力など関係なく破壊できる。

 もちろん、魔力を浸透させるまでの時間ずっと対象に触れておく必要があるし、断魔鉱石や吸魔鉱石のような魔力が効かない物体には効果がない。


 だが、今回はたかが鉄壁の甲羅。

 破壊に手こずる理由がない。


 自慢の甲羅が破壊され、硬直するカメ男。

 その顔が絶望に染まった瞬間、ノブナガは糸を手放した。


 ズドンッという重たい音を響かせながら、[+収束錬成]で作られた数トンの杭が飛び出す。

 守りを失ったカメ男は至近距離から杭を受け、その肉体をぐちゃぐちゃにして散った。


 カメ男の全身が肉片となって飛び散る光景に、それをした張本人が1番驚いたのは内緒である。


 変形式重装弓アーティファクト“アラビオン”


 [+収束錬成]で鉱物を圧縮しまくり数トンの重さがあり、表面は断魔鉱石でコーティングされている。

 開発当初は、持つと重過ぎて構え辛い事から、そこから先に杭を付けただけの一体型盾にするつもりだったのだが、


「これ、なんかパイルバンカーっぽくない?」


 と思ってしまったのだ。


 もちろん、パイルバンカーの構造なんて知るわけがないノブナガに再現など出来るわけもなく、「なら弓の原理で!!」となり、今の形に収まったのだ。


「き、貴様ーーーーッ!!」


 仲間が殺られ、激怒するクグゥ。

 すでに魔石となった仲間の死を目にし、ヘビとは思えない激声をあげる。

 感情の勢いのまま、ノブナガに食らい付く。

 ガバッと開かれた口を弓型“アラビオン”で防ぐ。


 本当はノブナガに食らい付きたかったクグゥは、内心で舌打ちをしつつ[+溶牙]で“アラビオン”を溶かしにかかる。

 しかし、表面にコーティングされている断魔鉱石が[+溶牙]の魔力を弾いて溶ける事はない。


 クグゥの尻尾を無造作に掴むと、助走をつけるように一回転させて放り投げる。

 これがギャグ漫画であれば、きっと効果音に『ポーーーーン』という文字が入っているだろう。


 すると、ノブナガの目端に映る、スパークの煌めき。

 目を向けてみれば、そこにはハチ男の背中に密着してるウナギ男たちがいた。

 両腕が失くなった事で、身体を密着させる事で[+充電]しているのだろう。

 バチリと弾けるハチ男の針の根元を目にし、一瞬にしてレールガンを連想させるノブナガ。


 それに眉を顰める。

 しかし、それも一寸の事でーー


「正面からぶち抜く」


 盾の軸にある入り口を開け、そこから“ストレージ”から取り出した杭を装填。


「我が弓に宿れ雷。その矢は煌めく稲妻の弓ーー“サンダー・アロー”」


 “属性付与”を唱え、“アラビオン”に雷が纏われる。

 本来は雷を纏わせ、電磁加速させて放つのを考慮して作られている。

 だから、断魔鉱石を表面だけに使っているのだ。


 ノブナガが弦を引いて一拍。


 同時に放たれる、超電磁砲(レールガン)。

 一閃の光となって伸びる2弾は、互いの中間地点で衝突する。


 速度は同じ。

 だが、ハチ男の“毒針”とノブナガの杭では重量が違う。

 30センチほどの針に対し、ノブナガが放ったのは数トン40センチほどの杭。

 当然、結果は言わずがもがな。


 “毒針”が粉々に砕け、破片となって散って行く。

 “毒針”を粉々にした杭は、何事もなかったかのように一直線に伸び、ハチ男たちに襲いかかる。


 咄嗟に反応できたのはウナギ男のみ。

 [+充電]を自身にかけ、自身の身体を無理矢理加速させた事で真横に回避した。

 しかし、光速度を超えた動きが出来ないハチ男は腹に大穴を開けられた衝撃で全身を肉片に変えて飛び散った。

 途轍もなくグロい光景も、次の瞬間には飛び散った肉片が消えて魔石となる。


「チッ」


 2人まとめて射抜くはずがウナギ男を仕留められなかった事に自然と舌打ちが漏れる。


 “アラビオン”を“ストレージ”に戻しながら黒剣を右手に転移させる。

 光速度で回避したせいで派手に壁に衝突し、怯んでいるウナギ男へ襲いかかる。


 腕がないせいですぐに起き上がる事が出来なかったウナギ男は“放電”を放つ。

 全方向に放たれた電撃を全体を覆う結界で防ぎ、間合いを詰めるノブナガ。


 一切速度を緩めず迫ったノブナガは、ウナギ男に向かって剣を振るう。

 “風刃”の派生スキル[+三叉刃]を纏った黒剣がウナギ男の胴に吸い込まれる。


「ッ!?」


 が、剣がウナギ男に触れた瞬間、ノブナガに襲う痺れ。

 [+帯電]である。

 全身が麻痺し、動けなくなる。


 のだが……


「ハアッ!」


 次の瞬間には、止まった剣を振り抜いてウナギ男を4つに斬り裂いた。

 ばたばたと落ちるウナギ男だったもの。

 それも消え、残るのは魔石のみ。


 ちなみに、なぜすぐに動けたのかというと、“回復魔法”の[+状態自己回復]にある。

 普通はゆっくりと回復していくのもなのだが、“高速自己回復”がその治りを乗で早速させたのだ。

 もし、“魔素再生”も使えたのなら、きっと一瞬の硬直もなかっただろうが……


 残心を解いたノブナガは、クグゥに視線を向ける。

 ノブナガに見られ、身体をビクッとさせるクグゥ。


 ノブナガに自覚はなかったが、今のノブナガは肉体と精神の疲労感に目が少し虚ろになっているのだ。

 魔族3人を殺し、黒髪の隙間から虚ろな目で見られた者は、本能でこう思うのだろう。


「鬼……」


 と。


 そんなクグゥの心情など知らんとばかりに、ノブナガは口を動かす。


「重力は加重する。すべてはここに押し潰されるーー“重潰(グラビウス)”」


 クグゥを重力の鎖で足止めするノブナガ。

 一切合切を圧し潰す魔法なのだが、やはりクグゥは潰される事なくその原型を留めている。


 そんなクグゥに眉を顰めつつ、ノブナガは“ストレージ”から短剣を取り出す。

 重力魔法と精神魔法が“生成”され、今となっては“天下五剣”の短剣バージョンとなった6本の短剣。

 短剣を操作し、クグゥの上空に配置したノブナガは、その短剣を“重潰(グラビウス)”の効果範囲内に放り込む。


 すると、超重力に引かれた短剣は途轍もない勢いでクグゥに降り注ぎ、その長い身体に突き刺さる。

 勢いが凄かったのか、身体を貫通し地面にまで突き刺さっていた。

 激痛に声を上げたいクグゥだったが、重力に圧し潰されているせいで声も出せない。


 そこで“重潰(グラビウス)”を解除するノブナガ。


 重力の鎖が無くなり身体を動かそうとするクグゥだったが、今度は短剣によって固定されている事に気付き、激しく身体を動かす。

 しかし、1、2本ならまだしも6本もの短剣から力尽くで抜け出すのは痛覚的に無理だろう。


 クグゥが身動きを取れない間に、ノブナガは長々と詠唱する。


「死を齎らす闇よ・深き黒より溢れ出で・世界を暗く染め上げろ・不死者は嗤う・ただ静かに・ただ虚ろに・苦痛の叫びを歓喜とし・生命の血肉を貪り尽くせ・汝に終わり無き死を与えんーー“デス・ダークネス”!!」


 全9節によるフル詠唱。

 少しずつ覚えた最上級魔法の1つが、ノブナガの頭上に出現する。


 それは10メートルはくだらない巨大な黒い球体。

 かつて、セインズ村でネルラがベリンたちに使った、闇の最上級魔法。

 すべてを塵1つ残さず消滅させる、殲滅の黒球。


 それが、ノブナガが左手をかざす事で放たれた。

 ゆっくりと落下する、闇の巨球。

 その圧力は凄まじく、下にいるクグゥは暴れる事も忘れて“デス・ダークネス”を目を剥いて見ている。

 それしか出来ないほど、クグゥは圧倒されたのだ。


 何もなく、黒球に呑み込まれるクグゥ。


 後に残ったものは……何もない。

 ただ抉られたように穴が空いた地面があるだけ。

 魔石すら、そこにはなかった。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 手を翳した体勢を解き、ばたりと膝を折るノブナガ。

 黒剣を杖にし、肩で息をしているのが遠目でも見て取れる。


「ノブちゃん……」

「ノブナガさん……」


 いつの間にか目を覚ましていたらしいザンがエリーナたちの傍でノブナガを見ていた。

 毒から回復したアリンカも、MPが少し回復したカレンもノブナガを見ていた。


 その視線に気づいたノブナガは俯いていた顔を上げ、エリーナたちに目を向ける。

 そして、疲れた顔ながら笑顔を浮かべ、左手でサムズアップを向ける。

 そんな途轍もない戦闘を繰り広げた者とは思えない仕草にジト目を向けるが、それがなんともノブナガらしいと笑みを浮かべ、4人してサムズアップを返した。


 そんな暖かな空気が5人の中で流れる。


 そして、


 ーーそれは突如として終わりを告げる。


「ッ!!エリーナさんッ!!」


 突然、焦るような必死の声を上げるノブナガ。

 黒剣を放り出してエリーナの方へ手を伸ばし、残ったMPを絞り出して[+縮地移動]を発動させる。


 エリーナを庇うように回り込み、エリーナを前に押し退けた。


 その行動に驚愕しつつ、全員が視線をノブナガに向けた瞬間、目を剥いて固まる。

 信じられない光景を目にしたかのように、誰もが動きを止め瞠目する。


 そこにはーーーー胸元から黒塗りの刃が飛び出しているノブナガの姿があった。


 一拍置いて、ノブナガの口から血が吐き出される。


「まさか、あの世界から帰ってくるとはな。さすがに驚いたぞ、小僧」

「ま、魔お、う……っ」


 ノブナガの背後にいつの間にか立っている男、“魔王”サラン。

 その手には紫がかった黒い刀が握られ、その刀身をノブナガに突き刺していた。


「が、さすがの小僧もこれまでのようだな。仲間を庇ったのは素直に賞賛しよう。しかし、我とて仲間を殺された身。部下の仇は……取ってやるのも上司の筋というものよ」


 刀身をノブナガから抜き放つサラン。

 支えをなくし、仰向けに倒れ込むノブナガ。


「ノブナガさん!!」


 エリーナが真っ先に駆けつけ、ノブナガを抱き上げる。

 急いで回復魔法をかけようとするが、もうすでにMPがない事に気がついて焦燥の声でノブナガを呼ぶ。

 他のメンバーも駆け寄り、ノブナガを叫声のように呼ぶ。


 その声が、徐々に遠くなって行くように聞こえるノブナガ。

 呼吸が荒くなり、視界も少しずつ暗くなっていく。


 すでにいつ気を失ってもおかしくなかった状態での致命傷だ。

 まだ意識を保っている方がすごい。


 そんなエリーナたちが必死の叫ぶ間、サランは刀の刀身に着いた血を左手で拭き取って集め始めた。


「まあ、小僧の血も必要だったのでな。仇のついでではあるが、無事回収できて何よりだ」


 エリーナたちを無視し、最深部の扉へと歩き始めるサラン。

 途中、サランが手にしていた刀が光の粒子となって散り、再構築される。

 それは紫色の髪を靡かせる黒ドレスの少女ーーネルラだった。


「ネ……ネル、ラ……」


 靄がかかったような視界の中、ネルラの姿を捉えたノブナガ。

 消えそうな声で、手を伸ばしながら呼ぶ。


「…………ごめんなさい、ノブナガ。例えわたしの役目が終わってしまうとしても、わたしは……お父様から離れる事は出来ないのよ……」


 足を止め、肩越しに振り返って言うネルラ。

 その時のネルラの悲しそうで辛そうな顔が、暗い視界のノブナガにもはっきりと見えた。


 ネルラは歩を進め、サランの後ろに付いて行く。


 そして、扉の前に立ったサランは左手に集めたノブナガの血を扉の真ん中にある穴へと注ぎ込む。

 すべての血を注ぎ込むと、ネルラの後ろに移動する。


「ネルラ。通力を」

「……はい、お父様」


 言われるがまま、両手を扉に付いたネルラが通力を流し込む。

 通力が注ぎ込まれ、扉に刻まれた幾何学模様が光を放ち始める。

 すべての幾何学模様が光を放つと、ガコンッという音が最深部全体に響き渡り、そしてゴゴゴゴッとゆっくりと開き始めた。


 逆光に手を翳し、扉が開き切るのを待つサランとネルラ。


 そして、完全に扉が開き、その先にあった物に目を向ける。

 エリーナたちも目を向けたその先には、飾られているかのように置かれた、美しい弓があった。


「タニーッ!!」


 その弓を見た途端、ザンがそう叫んだ。


 その反応から察するに、その弓はザンとスフィと同じ精霊なのだろう。


 だが、そんなザンの叫びに反応する者はいなかった。


 その前に、サランがその弓を手にしてしまったからだ。


「ふっ、ふはっ。ふははははははははははははっ。やったぞ!ついにっ、ついに!4つすべてのダンジョンを攻略した!!これで後はっ、約束の日を待つのみ!!」


 最深部に響く、サランの高笑い。



 そんな高笑いが、ノブナガには絶望へ誘われる死神の笑い声に聞こえてくる。

 それは今にも死にそうなせいなのか、今の状況のせいなのかはわからないがーー



 ーーそこでノブナガの意識は、プツリと切れた。

迷宮都市ババロン編、終了です!


ダンジョンの進み具合とか結構省いたのですが、それでも終わるのに時間がかかりました笑

予想外だったのが「戦う少女たち」を3もした事ですかね(^^;)

武装幻想獣が今後使われていくんで、早めに登場させたかったのが理由なんですけど……作者の想像力が尽きそうデス。


何はともあれ、ようやくここまで来る事が出来ました。

今の見立てでは、次章が最終章となります。

すべてを終結させる最終章、きっとアホみたいに長くなると思います。

正直、今から考えただけで気が滅入りそうです……


ですが、とりあえず完結だけはさせたいと思っておりますので、最終章『アンディエル帝国編』をお楽しみに!


それでは、今後とも「奴隷からはじまる下克上冒険」をよろしくお願いしますm(._.)m 作者より

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