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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
迷宮都市ババロン編
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後ろから這いねらい隊

 ノブナガたちが27階層にたどり着いてから2日が経過した。


 一昨日、攻略を開始した軍隊の方も昨日10階層のボスを突破し、今は最後尾で13階層にいるらしい。

 最後尾の情報は見張り用の分身体からのもので、ボス突破の情報はボス部屋に仕掛けてきた小さい物からだ。


 その小さい物、実はノブナガが新たに作ったアーティファクトで、機能的には盗聴器と同じである。

 “蝙蝠”の“超音波”の派生スキル[+集音]を“生成”する事で周囲の音を拾い、それを念話に乗せてノブナガたちに送られるのだ。

 ちなみに、20階層のボスーー某モンスターのゴ○ーニャみたいな奴ーーの部屋にも仕掛けてきたので、突破すればすぐにわかる。


 そして、その部隊たちを伺っているノブナガ一行はーー30階層のボス部屋にいた。

 昨日、背中に大きな甲羅とそこからポンプのようなものが4つ飛び出したボス(ノブナガとザンが「「カ○ックスッ!?」」と叫んだのは言うまでもない)と戦い、勝利したのだ。

 唯一甲羅から出ていた顔と手足を引っ込めて防御体勢に入られた時は厄介だったが、ノブナガが空間をズラす“隔間(ディレイズ)”をぶっ放して倒した。


 今は、そんな戦闘が行われたとは思えないほど寛いだ雰囲気が流れている。

 ソファやテーブル、それにベッドもあればそんな雰囲気にもなるだろう……



 そんな中、ノブナガはテーブルに紙を広げ、集中するように目を広げている紙に固定してペンを走らせていた。

 右上の方で線を引いているかと思いきや、次の瞬間には右下へとペンを向けて線を引いていく。

 そんな落ち着かないペンの動きをし続け、紙に線を引いていく。


 そして、40分後には地図が出来上がっていた。

 所々雑で曲がっているところはあるが、即席には上出来の地図が完成した。


「ふぅ……これで30階層も終わったぁ」


 地図が完成した事に、ノブナガは集中力を切らしてため息を吐く。

 余程集中していたのか、額に汗を浮かべているほどだ。


「お疲れ様です。紅茶です」

「あ、ありがとうございます。いただきます」


 ノブナガの作業が終わるのを見計らって、エリーナが紅茶を出してくれた。

 それを1口飲んでいる間に、他の女子たちはノブナガが書き上げた地図を囲んで眺めている。


「へぇ、さすがノブちゃん!27から30階層まで綺麗に描けてるよ!!」

「やっぱり、ノブナガの分身って反則よね?」

「自分もそう思うッス!!」

「敵なし」


 ノブナガが描きあげた地図をザンたちは賞賛と呆気のような声を漏らす。


 実は、この地図は実際に歩いて描いたわけではない。


 ノブナガの[+多重分身]、その50体が階層中を駆け巡り、それを共有している本体であるノブナガが紙に描き出したのだ。

 ただ増えただけにも思えるが、その探索力は抜群。

 10分の1のAGLをフルに活用した速度はすれ違った魔物たちを置いていき、群れを成していた魔物には大火力の一撃で振り払う。

 自重を捨てたノブナガに邪魔になる者などない。

 それが50体ともなれば全体を歩き回る手間も無くなり、階層の地図を描き上げる事ができるのだ。


 だが、もうMPが10万を超えているノブナガでも、[+多重分身]を50体も出す事は不可能だった。

 普通の“暗殺者”でも出せて2体のようなMP消費で、さすがのノブナガも20体代で限界がきた。


 そこで、ノブナガが使ったのが“勇者”のスキル“限界突破”だ。

 HPやMP以外を2倍する[+身体強化]と違い、“限界突破”はMPも5倍される。

 これを使う事で、ノブナガは50体という驚異の数の[+多重分身]体を出現させた。

 もちろん、“限界突破”は切り札のようなものなので、制限時間が切れれば肉体の疲労が強撃に襲ってくる。

 約10分の制限時間があるが、時間切れが来ても“高速自己回復”で半日で回復し、今最後の30階層の地図を完成させたのだ。


「さて、これで軍隊も知らない未知のダンジョンの地図が手に入ったわけだが……」


 そう呟き、みんなを見渡すノブナガ。

 そんなみんなの顔は、もう既にやる事は決まっているかのような決意の顔になっている。

「準備は出来ている」と目で言っている。


「よしっ。これから、エリーナさんの作戦を決行する!全員っ、予定通りの配置に移動!!」

「はい!」

「うん!」

「はいッス!」

「了解!!」

「(コクリ)」



 ノブナガの言葉に大きく頷くと、ザンとカレンとアリンカが勢いよくボス部屋から飛び出して行った。



 **********************



 3日後。


『やっぱり、100階層まであるとボスはホ○オウかな?それともル○ア?』

『レッ○ウザって可能性もあるぞ?カッコいいし』

『カッコいいでボスが決まるならリ○ードンでしょ』

『その線も捨てきれないなぁ』

『…………2人共、さっきから2人にしかわからない話はやめてくれない?それに、固有名詞出過ぎ。怒られるわよ?』


 アリンカが27階層、カレンが28階層、ザンが29階層に分かれてからというもの、部隊の動きが思うように進んでいないのが原因で暇を弄んでいた“奪還者”メンバー。

 終いには、ノブナガとザンで次の階層ボスがどんなポケ……魔物なのかを話し合っていた。

 さすがに怒られそうな予感がしたのか、アリンカがストップをかけた。

 誰に怒られるかというと……まぁ、想像できるだろう。


『だってぇ、暇なんだもんー』

『確かに、暇ではありますね……』

『もうそろそろ先頭の部隊が27階層に降りてきてもいい頃なんだけどなぁ』


 ちなみに、さっきからカレンからの返事がない。


 みんな薄々と気づいている。


 カレンは……夢の世界に旅立っている、と。


 気づいているが、睡眠も必要な事なので誰も指摘しない。

 というか、いつも見ているあの愛らしい寝顔を想像すると誰も起こしたがらないというのが本音である。


『どうするー?しりとりでもする?』

『そんな緊張感のない事出来るわけないでしょ?』

『だって〜』


 どうやら、相当暇を弄んでいるらしいザン。

 一応、各階層に行っている3人の側にはノブナガの[+多重分身]体がいるのだが、“電流感知”に集中しているせいで会話できないらしい。

 今回の作戦は、このノブナガの分身体たちが要となっているので、無茶して集中を途切らせてしまわないように自重したようだ。


 そうこう言いつつも、時間が過ぎていくのは早いもので30分ほど経過した。



 そして、ついにーー


『っ、来たみたい!』


 27階層にいるアリンカから、そう念話が届く。

 それを受信し、全員の意識が引き締められる。

 ……1名、分身体に起こされて出遅れた者がいるが気にしない。


『“A”ノブナガ、感知状況を』

『先頭の部隊、10人が27階層に降りて来た。[+集音]で会話を拾う限り、探知しながら進んでいる模様』


 本体のノブナガが分身体に状況報告を迫る。

 “A”はアリンカのイニシャルから取ったものだ。

 ザンが“Z”で、カレンが“K”である。


 ちなみに、なぜ分身体と念話で話しているかというと、他の者に同じ状況を説明するのが面倒だったからだ。


『了解。予想通りの数だな。アリンカ、予定通りその部隊はスルーだ。ザンがいる29階層まで泳がす』

『わかったわ。今2組目が来たそうだけど、これも予定通り見逃していいのよね?』

『あぁ。その組はカレンに任せる。2人共、頼んだ』

『オッケー』

『了解ッス!!』


 ぷつんと念話が切れる。


「みんな、大丈夫でしょうか……」


 この時も、各々が可能な事を全力でやっている。

 それに、ノブナガの傍にいるエリーナは心配そうに呟いた。


「大丈夫です。みんな強いですし、俺の分身体もいますから。仲間を信じましょう」

「……そうですね。仲間を信じなければ、私たちがしようとしている事は成し遂げられませんよね」

「はい。それに、俺たちはヤバい奴らを相手にしないといけませんからね。サポート、お願いします」

「はいっ。任せてください!!」



 ノブナガたちがそうこう話している間も、他のメンバーやノブナガの分身体も動いている。


 ーー1つの影となって。



 **********************



 迷宮都市ババロンのダンジョン、その29階層。

 そこで、忍びもせずに足音を立てながら進んでいく10人の騎士がいた。

 尖兵という事もあり、回復役が1人、魔法役が2人、支援役2人、そして前衛役が3人と探知役が2人だ でできた道を調べる部隊となっている。

 探知役、つまり“暗殺者”が下への階段を探し、それを後から来る部隊にもわかるように壁に傷を刻んで進んでいるのだ。


 そんな10人が、魔物を警戒しながら“光術師”が作り出した“フラッシュ”の光を頼りに進んでいく。

 進んで戻るを繰り返し、時に魔物と戦闘を繰り広げながら、少しずつだが着実に進んでいる実感はあった。


 未踏階層という事もあり、騎士たちに油断はなかった。

 そう自負していた。


 ーーにも関わらず、探知役も騎士の誰も気づかなかった。


 自分たちに近づいて来る脅威を。

 自分たちの首筋に振るわれた一閃を。


 気づいた時には、もう意識などない。

 すべてが等しく意識を途絶えさせ、暗く深いところへと引き込まれていく。


 残ったのは、意識のない騎士の山のみ。

 その山も、通路の前後の壁が変形した事で見えなくなった。

 通路なんてなかったかのように完璧な壁が完成し、まるで神隠しのように消えていった。



 こんな出来事が今、27階層と28階層でも行われていた。



 ーー俊敏に動く、這い寄る影によって。










『こちら、ザン〜。30組目が終わったよ〜』

『自分も終わったッス!!』

『こっちも終わったわ。そして、92組目が来たそうよ』

『お疲れ様。そして、頑張ってくれ。以上』

『『えぇ〜、まだ終わらないの(スか)〜』』

『み、みなさん、頑張ってください!!』


 ノブナガたちの今回の作戦。

 まぁ、わかったかもしれないが闇討ちである。

 探知を潜り抜けて接近して精神をバッサリしているわけだ。


 している事は簡単だが、準備には時間がかかった。

 確実に闇討ちを成功させるには、騎士たちの未知の場所でなければならない。

 さらに言えば、自分たちはわかっていなければならない。

 その為に30階層までを攻略し、その地図を描き上げたのだ。


 そして、この作戦の要はノブナガの[+多重分身]体である。


 まず、相手の探知に引っかからない結界を張る事は、アーティファクトでアリンカたちにも出来る。

 だが、逆に相手を探知する為に“気配探知”や“魔力探知”を使えば、それを逆探知される恐れがあったのだ。

 ならば、逆探知の恐れのない感知系ーー“電流感知”を使う事にし、それが可能なノブナガの分身体を3人に付けたのだ。


 これにより、騎士たちはアリンカたちの存在を知らず、アリンカたちは騎士たちの居場所を知っている形になる。

 そこに、持っている者に“気配遮断”の効果を与えるアーティファクトで密かに背後から接近して“精神魔法”が“生成”された剣で一振り。

 完璧な闇討ちが出来る。

 後は、後から来た騎士に見つからないように騎士の山を隠せば、誰も気づかないエンドレス闇討ちが可能になるわけである。


『ザン、もう92組目が29階層に行ったぞー』

『休みをプリーズ!!』

『次、93組目が来た……っ!?来た!あいつらよ!!』

『っ!来ましたか!!』

『ようやく、俺たちの出番ですね。そのまま、素通りして30階層まで泳がせて!』

『了解ッス!!』


 アリンカが言う、あいつらにノブナガたちの顔は一層真剣さが増す。

 ザンは行動中なのか返事はなかったが、念話の向こうから険しそうな想いが届いてくる。



 その後も94組目を順序よく闇討ちしている間にも、その“あいつら”は尖兵が残した印を辿って下へと進んでいく。

 ついに29階層を超え、30階層へ。


 実は尖兵が印を付けながら進んでいる事を知った時に、こっそりと[+多重分身]体を召喚してボス部屋までの道がわかるように印を付けていた事により、“あいつら”は迷う事なく30階層のボス部屋にたどり着いた。


 “あいつら”3人は、印があったのに誰もいない事にコソコソと話している。



 すると、目の前の大きな扉がギィィイイイという音を立てながら開かれた。


 勝手に開かれた事に目を剥く“あいつら”は、 視線をボス部屋に向けた事によって入ってきた。



 ボス部屋の中心で仁王立ちしている、黒髪の少年が。



「30階層のボス部屋へようこそ、魔族共。カメ……階層ボスじゃないが、代わりに俺がお前たちを歓迎してやるよ」



 背の剣を抜き放った少年ーーノブナガは、扉の前で立ち尽くす魔族共に剣先を向けながら、不敵な笑みを浮かべて言った。

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