10階層のボス
ダンジョンの外が明るくなり始めた頃、エリーナたちは起床した。
ダンジョンの中なので朝なのかどうかわからないが、ノブナガが軍隊の監視のために置いてきた[+多重分身]体の視界から朝なのがわかる。
徹夜で魔改造をしていたノブナガも作業をやめ、ベッドや結界を回収して出発する。
すぐそこにある6階層への階段を降りる。
昨日と同じ役割で6階層を進んで行く。
地図があるので注意深く進んで行けば迷う事もなく、魔物の強さも昨日の奴らとほとんど変わらないのであっさりと7階層にたどり着いた。
それが続き、8、9、10階層と3時間ほどで到着した。
そして、今目の前にはーーノブナガたちの倍以上ある高さの扉の前に立っていた。
そこから放たれてくる威圧は「ここボス部屋です」とでも言っているかのようだった。
「これ、完全にボス部屋よね?」
「どっからどう見てもそうだと思うよ」
「むしろ、これで11階層に行ったらダンジョンに文句を言うッス」
扉を見上げながら言うアリンカとザンとカレン。
他の者たちもうんうんと頷いている。
「どうします?」
「そうですね。とりあえず、昼休憩を入れてから挑むとしましょうか」
時刻的にも、もう昼食の時間だ。
ボスを倒すのに何分かかるかわからないし、今のうちにご飯を食べておこうという事らしい。
ボス部屋の扉の前を陣取り、エリーナが朝食を用意した時に作った昼食の弁当を“ストレージ”から取り出した。
弁当の中にはサンドイッチと朝食の残り、それとちょっとした摘みものが入っていた。
それを全員でムシャムシャと食べる。
「で、どうする?ボス戦」
食べながら、ノブナガが全員に問いかけた。
ボス戦の布陣はどうするか、と。
「まず、私とザンは前衛よね。剣だし」
「私は回復ですね」
「じゃあ、自分はエリーナさんと一緒に下がるッス」
「スフィは?」
「視る」
「……俺、スフィの護衛兼中衛しとくよ」
と、あっさりと布陣が決まった。
もともと出来る事が多い者たちなので、どこに配置されてもその役目を果たす事ぐらいは出来る。
今回はMPを節約しないといけないので、魔法が得意ではない者は前に出るようにしただけだ。
昼食を取り終え、お腹が落ち着いてきた頃にノブナガたちは各々の武器を“ストレージ”から取り出す。
ザンとアリンカが剣、エリーナが“ロードオベーロン”を取り出す中、ノブナガは槍を手にする。
「よし、行こう!」
ノブナガの掛け声に全員が頷く。
それを確認して、ノブナガはボス部屋の扉を開いた。
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扉を開いた中は、直径500メートルぐらいの部屋だった。
円状の壁には均等に蝋燭があって、暗い部屋を照らしていた。
扉を開けた瞬間にボスがいると思っていたノブナガたちは、自分たち以外いない事に首を傾げる。
が、次の瞬間、部屋の中心に魔法陣が出現し、そこから這い出るように、それは出現した。
2本の腕と肩と背中上からも2本ずつ生えた計6本の腕を持ち、そのすべての腕はもちろんの事、その巨体を支える2本の足も鍛え抜かれたような筋肉をしていた。
体長3メートルはある6本の腕を持った巨人。
それを見てノブナガとザンはーー
「「ゴ、ゴ○リキーッ!?」」
息ピッタリに叫ぶ。
どうやら、2人とも某モンスターを連想してしまったらしい。
腕が6本の時点で、ゴウ○キーではない。
例え、頭の黄色部分すら一緒だったとしてもっ、違うったら違うのだ!!
ウホォォォォォォォォオオオオオオオオオオッ!!
そんな6本の腕のボスの咆哮が部屋に響き渡る。
それと同時に、右側にある3本の腕を引きしぼり、ザン、アリンカ、それにノブナガに向かって放たれた。
3人ともきっちりと反応し、跳び下がって回避する。
ザンやアリンカは着地と同時に駆け出し、剣で両足を斬り裂いた。
それほど頑丈ではなかったらしく、深くはないが浅くもない傷を負わせた。
ウホォォオオオオオオオオオオオオ!!
斬られた事によるものか気合いを入れる為の咆哮だったのかはわからないが、雄叫びを上げるように叫びながらすべての腕を使って周囲を薙ぎ払った。
大気を潰すような音を立てながら振るってくる腕をどうにか隙間を縫って回避するザンとアリンカ。
ただ振り回されているだけでも、すごい拳圧が周囲に荒れ吹く。
「前衛っ下がれ!カレン!!」
「了解ッス!」
接近戦が難しいと判断したノブナガはザンとアリンカを下がらせ、後衛のカレンを呼ぶ。
それに阿吽の呼吸で応えたカレンが、ゴウリ……ボスの魔物に向かって“咆哮”を放った。
衝撃波が拳圧によって発生した風を相殺……否、それを突き破ってボスの身体を毀つ。
そこにノブナガが突っ込む。
[+縮地移動]を使い、ノブナガ自身が1本の槍となって突進した。
吸い寄せられるようにボスの胸元に槍が突き刺さる。
「我が槍に宿れ雷っ。その穂先は煌めく稲妻の槍!ーー“サンダー・ランス”!!」
そして、ダメ押したばかりに“属性付与”を詠唱し、ボスの肉体を体内から焼いた。
ウホォォォォォォオオオオオオオオオオオオッ!!
肉体が焼かれる痛みに暴れ出すボス。
「うおっ、あ、ちょっ!」
結構な暴れぶりで、深々と刺さったはずの槍先が抜けてしまい、それを持っていたノブナガも必然的に飛ばされた。
飛ばされながらも“空踏”を器用に使い、さっきの位置に戻ってくる。
着地したノブナガに追撃を与えようと3本の腕を振り上げたボスに向かい、エリーナが“フレイム・ボール”を放つ。
ほとんどダメージにはならなかったが、一瞬の停滞を見せる。
その内に、ザンが通力で強化した脚力で跳躍し、右肩部分から叩き斬るように振るった。
その間にアリンカが鋭い斬撃で片足を斬り放った。
だが、やはり深く傷つける事が出来ない。
筋肉に押され、刃がそれ以上奥へはいかないのだ。
「仕方ないなぁ」
仕方なさそうにそう呟いたザンは魔剣の能力を発動。
直後、紅い液体がボスの身体から弾けた。
ザンに斬られた足と肩口の傷がパッカリと開き、傷口が抉られたからだ。
これが魔剣の本来の能力、傷口を開く能力だ。
人に使うには殺傷力が強いので、ザンも今まで一度も使った事がない。
不意の激痛にボスが叫声を上げる。
巨体がぐらりと揺らぎ、左の2本の腕を使って己の身体を支えていた。
「我が剣に宿れ炎っ。その刃は焼き切る紅蓮の剣!ーー“フレイム・ソード”!!」
アリンカが“属性付与”を詠唱し、剣に炎を纏わす。
そして、地面に手をついている腕の1本を焼き切る。
バランスを崩し、地面に倒れ込むボス。
「“錬成”!」
倒れ込んだボスの腕や足が地面に呑まれる。
踏ん張る事も出来ないので、手足を引っこ抜く力を出す事が出来ないボス。
そこに[+部分変化]で翼を出して飛翔し、ボスの上にやって来たカレンが両手を突き出してトドメを刺す。
突き出された両手に炎が凝縮され、次の瞬間に一閃の破壊となって放たれた。
頭部に直撃した[+破壊炎線]はすべてを燃やし、消滅させる。
残ったのは頭部のないボスの姿。
指1本ピクリとも動かない、完全な屍だった。
少し間を置いた後に肉体が消滅して魔石を落とした。
残った魔石を拾い上げるノブナガ。
魔族の魔石ほどではないが、それでもこのダンジョン内で倒した魔物のどの魔石よりも大きい事はわかる。
それを“ストレージ”の中に仕舞いながら、みんなの方に振り返る。
「みんな、大丈夫か?」
「大丈夫よ」
「というか、ボスっていう割に楽勝だったしねー」
「問題ないッス!」
元気な声が返ってきたので、問題ないようだ。
「とりあえず、ここで少し休憩して行こう。次の層から魔物が強くなり始めるかもしれないからな」
ボス部屋という予想外があった以上、次の階層から魔物の強さが上がっていないという保証はない。
下手すればMPを使う羽目になるかもしれないので、ここで一休み入れようと提案したのだ。
特にポーションを飲むような事もないので、ただボス部屋にテーブルやソファを広げただけで10分ほど休憩する。
しばらく、紅茶に癒されていた一同だったが、不意にノブナガが「お」という声をあげた事で視線を集める。
その視線に、ノブナガは答える。
「軍隊が攻略を開始したみたいだ。今、1つ目の部隊がダンジョンに入っていった」
どうやら、軍隊が攻略に移ったようだ。
ノブナガが言うには、10人ぐらいの部隊が1つずつ入っているっているらしい。
さすがに、狭いダンジョンを軍隊で進むのは難しかったのだろう。
「ネルラは?」
「いる。まだダンジョンには入ってないけど」
分身体の視界に映るものを見て、ノブナガは答える。
ネルラはまだ自分の部隊の番じゃないようでダンジョンの前で待っている。
「あと、軍の騎士じゃないっぽいのがネルラ以外に2人……いや、3人いるな」
「……魔族?」
「多分、そうなんじゃないか?ネルラの近くに固まってるし」
理由に確信性がまったくないが、分身体の視界を共有しているノブナガからはそう感じられるようだ。
ここで、「あ、偵察球でザンたちに見て貰えばいいんだった」と思い出して、分身体に視界共有型偵察球アーティファクト“ハール”を出してもらおうと思った瞬間、ネルラとその3人はダンジョンへと入っていってしまった。
「ネルラとその3人がダンジョンに入っていった。俺たちも急ごう」
「そうですね。下の階層での仕掛けに丸1日は欲しいですから」
「よーし!行こう!!」
休憩に出したものを“ストレージ”に仕舞い、入ってきた方とは別の扉を開く。
その先には下へと続く階段があり、次の階層に行けるようになっている。
ノブナガがその扉から少し離れた壁に目立たない小さい何かを付けると、一行はその階段を下りていった。
その日の内に17階層、次の日に20階層のボスを倒して22階層まで進んだノブナガたちは、
3日後、最新層27階層に到着するのだった。
中途半端に終わってしまった……




