VSアンディエル帝国軍第2番隊 その2
ノブナガが“鮫”の魔族、ザクロムと戦い始めた頃。
エリーナたちは2千ーーいや、約1千5百の騎士たちと戦闘を開始していた。
ザンはノブナガに魔改造された魔剣を手に戦場を駆ける。
剣に施された“身体強化”と通力強化を使い、目にも留まらぬ速さで騎士たちを斬っていく。
ザンが通った背後にバタバタと屍のように倒れている騎士たちがいるが、不思議と倒れている騎士たちに斬られた跡はない。
ノブナガが“生成”した精神魔法によって、肉体ではなく精神を斬っているからだ。
魔力が少ないザン用に、“身体強化”以外の機能はすべて魔力結晶からの供給である。
魔族ならともかく、相手が人間であるから、殺す必要性がない。
もちろん、相手が魔族であるならば絶対殺すマンしていただろうが……
ノブナガがそうしているように、ザンもそれに倣っているのだ。
バサバサと斬り倒していくザン。
味方が倒れていく姿に怖気付く騎士も少なくない。
そして、後衛から放たれてくる数々の魔法。
色とりどりに降ってくる魔法に隙間などなく、回避という選択肢が存在しない。
なのでーー
「まとめてっ迎え撃ぅつ!」
一瞬にして通力を刀身に溜めたザンは剣を振るうと同時に通力を解放する。
通力の光が大風となり、ザンに降り注ごうとしていた魔法が空中で爆発していく。
1つ残らず、すべての魔法がザンにたどり着けずに虚空に消える。
その光景に、ほとんどの騎士が怖気付く。
が、それにはまだ早いと、ザンが騎士たちの精神に追い打ちをかける。
「魔法部隊はこれでも喰らえ!“ルナイト”っ」
なぜかテンションアゲアゲでアーティファクトの名前を呼ぶザン。
“ストレージ”から足がない望遠鏡のような物を取り出したが、望遠鏡とは少し違う。
覗くような部分が8つあり、そのすべてにレンズが組み込まれていて、その逆側にもレンズが入っている。
カレンの“ブロイズン”と比べれば、ふた回りほどの大きさをしていた。
そんな如何にもなアーティファクトが重力に逆らって浮遊し、ザンの頭上に浮かび上がる。
そして、精神操作で巨大な砲口を魔法部隊へと向けた。
砲口を向けられた魔法部隊の騎士たちは、無自覚に感じ取った。
いや、本能で感じたのだろう。
ーーマズい。
と。
「光よ・一点に照らすは・闇を払うーー“フラッシュ”!8門!!」
そう詠唱した瞬間、ザンの頭上に浮かんでいるアーティファクトの8つの門に光る球が出現する。
“フラッシュ”は光魔法の初級中の初級な魔法で、暗がりを照らしたり、目の前に出現させて目を潰したりする魔法だ。
昼間で敵から離れたところに出現させるような魔法ではない。
が、騎士たちの危険信号は収まる事はなかった。
そして、その本能は正しかった。
“フラッシュ”の光が各レンズに入っていったかと思うと、次の瞬間ーー砲口から途轍もない光が飛び出し、魔法部隊を襲った。
高速で飛んでくる光は目で追う事もできず、ただ巨大な光としてしか認識できない。
着弾すれば周囲を巻き込み、手榴弾のように光が四方八方に飛び散るので、魔法部隊が全滅。
さらに、その近くにいた支援部隊も無視できない被害にあった。
浮遊砲型光収束アーティファクト“ルナイト”
重力魔法の浮遊と精神魔法の操作で動かすそれは、光を収束させて光魔法の威力を増強する働きを持っている。
8つのレンズには空間魔法が“生成”されていて、空間歪曲で光が曲がるようにしてあり、砲身の方には純粋なレンズしか組み込んでいない。
入り口を通って砲身に入ってきた光が1つにまとまり、砲身のレンズを通る事で光を細く小さくして放つ仕掛けだ。
入り口の方は数と大きさに合わせて付け替える事もできる。
最上級魔法だって通す事も可能だ。
しかし、今回は初級魔法8つで事足りたらしい。
いや、それでもやり過ぎた感は否めない。
「やっぱ、ノブちゃんのはダメだわ……」
使った本人が誰にも聞こえない声でぼそりと呟いた。
この戦いの後、ザンの戦いを見た騎士がザンを『光の狂人』と命名し、それが帝都中に広まったのは、また別の話。
カレンの方は……
「燃え飛べッス!!」
カレンが突き出した両手に炎が凝縮され、一気に放たれる。
炎が物量として放たれたそれは、射線上にいた騎士たちを燃やしながら吹き飛ばす。
鎧を身に付けていようが、“金剛”を使おうが関係なく、そのすべてを溶かして燃やし吹き飛ばしている。
そして、カレンが手を水平に薙ぎ払うと、炎の一線はそれに合わせて移動し、また射線上に入った騎士たちを吹き飛ばしていった。
“咆哮”の派生スキル[+破壊炎線]。
炎を凝縮したものを放つ、竜人族でも強力な攻撃方の1つである。
厄介なのが、炎で焼くのでなく、物量で押し潰してくるところだ。
どれほど炎の対策を立てようが、物理的に押し潰してくるのだから、2つの対処が必要となってくる。
真正面から受け止められる者は、それ相応の力量差がなければ無理だろう。
見える一帯すべてを吹き飛ばしたカレン。
残った者たちを前に、カレンは更なるスキルを発動する。
カレンの両手足、そして背中が光ったかと思うと、次の瞬間にはその姿に目を剥く事になる。
何せ、どこからどう見ても人にはないものだからだ。
両手足を纏う紅い鱗と鋭い爪。
背中には両手を広げても足りないほどの翼が生えているのだ。
何も知らない者には驚愕の出来事だろう。
“竜化”の派生スキル[+部分変化]。
書いて字の如く、部分的に“竜化”できるスキルだ。
なので、翼だけとか腕だけとかも普通にできる。
「行くッスよー!」
そう言うと、地面を蹴って騎士たちに襲いかかるカレン。
翼を打って推進力を高め、騎士たちに迫る。
鋭い爪で攻撃し、振るわれてくる攻撃を自慢の鱗で防いで薙ぎ倒していく。
時に翼で吹き飛ばし、時に翼を薙ぎ払う。
その頃にはほとんどの騎士が腰を抜かしていた。
「“ブラック・バレット”!」
そんな聞き慣れた声が聞こえると、黒い球がカレンの背後に忍び寄って来ていた騎士に着弾した。
特に背後の騎士を気にした様子はなく、カレンは魔法を撃ってくれた本人ーーエリーナに振り向いて言う。
「エリーナさんっ、忝いッス!!」
その声が聞こえたエリーナは片手で応えると、すぐに視線をアリンカの方へ戻してしまった。
カレンもチラッとアリンカの方を見てみれば、どうやらアリンカは隊長のガウルと戦っているらしい。
しかも、周りを騎士に囲まれている状況。
急を有する状態だ。
「悪いッスけど、とっとと片付けさせて貰うッスよ!!」
カレンは竜の全力を持って突進した。
後に、カレンが帝都中で『脳筋娘』と呼ばれるようになっていたのは、まだ先の話だ。
**********************
時間は少し遡り、合戦が開始した直後。
アリンカは剣を手に正面から攻めてくる騎士に向かって駆け出した。
面で迫ってくる騎士たちは圧倒で、いくらなんでも剣1本では難しいと思ったアリンカは詠唱を開始する。
「旋風・荒れ吹く・渦・吹き飛び・毀つーー“ストーム・タンク”!!」
突き出された左手から渦巻く風が飛び出し、騎士たちに着弾する。
数人は“金剛”で堪えたが、それ以外の者は装備を凹ませながら吹き飛ばされ、気絶している者もいる。
だが、それも前衛部隊からすればほんの一部に過ぎず、今度は“属性付与”を唱える。
「我が剣に宿れ風!その刃は荒れ吹く疾風の剣ーー“ハリケーン・ソード”!!」
アリンカの得意な風を纏い、前衛部隊に突入する。
様々な武具で襲いかかってくるのを回避し、逆に自身の剣を命中させていく。
ただ、どうしても防つ具や武器に阻まれ、その数を減らす事は出来ない。
そうしているうちにアリンカはだんだんと包囲され、防戦一方に成りかねない状況に追い詰められる。
「風・纏う・疾風ーー“ゲイル・ラビット”!!」
完全に包囲される前に“ゲイル・ラビット”を発動させたアリンカは空高く跳んで包囲を抜ける。
着地の瞬間に魔法が飛んでくるがーー
「“フレイム・ウォール”っ。“リキッド・ピラー”!“ストーム・フォート”っ。“ライト・シールド”!!」
それは背後のエリーナが“ロードオベーロン”の防御魔法を発動させ、4重の防御がアリンカから魔法を完全に防いだ。
(あんまり使いたくなかったけど……仕方ない)
ノブナガが作ったヤバいアーティファクトには頼りたくなかったアリンカだが、そうも言ってられない状況なので遠慮なく使う事にする。
「行くわよ、“咫耶”」
アリンカが手にする剣を起動させると、“属性付与”によって纏われていた風が収束する。
風がぐんぐんと収束していき、その風が視認できるほどにまで収束される。
そして、ついに風は限界まで圧縮され、そのうちに光を放ち始めた。
それは風を圧縮する事でできるプラズマだ。
ただ光っただけのようにも見えるが、決してそれだけではない。
何せ、ただ纏われているだけのものが収束されたのだ。
さらにプラズマも発生し、頑丈性と威力を持ったアリンカの剣はーー聖剣の域に至る。
剣型属性圧縮アーティファクト“咫耶”
剣に纏われている属性を重力魔法によって圧縮する剣のアーティファクト。
機能はそれしかなく、威力が増強するだけのようにも思われるが、アリンカという“剣聖”にとっては違う。
アルザンタイトで出来たその剣は、風を圧縮した事で更なる頑丈性に優れ、そしてその頑丈さはアリンカの腕によってすべてを斬り裂く剣になる。
名前は、剣に付けられた魔石から取った。
魔石は蜘蛛の魔族だった少女、タヤのものだ。
アリンカが持っていたが、アリンカがタヤの魔石を使った剣を作って欲しいとノブナガに頼んだのだ。
そんな想いが込められた剣を振るうアリンカ。
神速の一閃が放たれたかと思えば、アリンカの前で倒れる騎士は5人。
5人共、武器と防具を斬り裂かれ、肉体を斬られている。
武器を振るってくる者には武器ごと斬り裂き、盾を構える者には盾ごと貫く。
しかも、動きがまったく見えないのだから恐怖でしかない。
ばたばたと数が減っていく騎士たち。
始まりの士気が嘘のように沈み、誰もが怖気付いていた。
が、まだ1人、アリンカに圧倒されていない者がいた。
「っ!?」
流れるように騎士を斬ったアリンカの背後に異様な圧力が放たれ、本能が警告を鳴らした。
その本能に従ったアリンカは、転がり込みながら横へと跳ぶ。
瞬間、さっきまでアリンカがいた場所に重たい何かが振り下ろされる。
砂漠の地面を叩くと、そこから余波が放たれ、アリンカが吹き飛ばされそうになる。
“剛力”を使い、なんとか飛ばされるのを防いだアリンカは、その重たい物を振り下ろした本人ーーガウルに目を向ける。
「今のを避けるか。チッ、完璧な不意打ちだと思ったのによぉ」
「あんなに威圧を放ってたら誰だって気づくわよ」
アリンカは自然とガウルの得物に視線を向ける。
それは槍に斧とその逆方向に小さい鎚を付けたような武器だった。
そんな特殊過ぎる武器をアリンカは知っている。
「ハルバード、ね。さすがは“重武人”」
「はぁ……もう天紋がバレたのかよ。マジでやってられねぇぜ」
戦いたくないと完全に顔に出ているが、重たそうな武器を軽々と振り回し、構えを取るガウル。
「悪いけど、俺は死にたくなくてね。数で攻めさせてもらうとするや」
「これは戦争なんだから問題ないわ。3分割された軍隊の数なんてどうって事ない。全員まとめてっ、掛かって来なさい!」
「はっ!女の割に威勢が良いじゃねぇか!!」
ガウルが吼えると同時に、攻めに出る。
まずはハルバードによる上段おろしが放たれる。
それを正面から迎え撃つアリンカ。
“剛力”を発動させ、放たれてくるハルバードに剣をぶつける。
ぶつけた瞬間、激しい火花が弾け飛ぶ。
一瞬の拮抗があった後、アリンカが力に負けて押し飛ばされる。
直接のダメージを受けていないが、剣を持つ右手がぶるぶると震えている。
(っ、なんて力……っ。一瞬で右手の気力が持っていかれた気分……)
やはり、正面から迎え撃つのは無理だったようだ。
アリンカは右手の痺れを左手で抑えながら、周りの騎士たちの攻撃を回避していく。
「“アクア・スプラッシュ”っ!“フレイム・ボール”!!」
後ろからエリーナが魔法で援護しているが、正直手数が足りない。
逆に魔法を撃つエリーナをどうにかしようと動き出す騎士が現れるので、それを止めるのにアリンカが動かないといけなくなってしまう。
(っ……私にももっと派手な攻撃方法があればいいんだけどっ)
追い詰められる状況で、つい無い物ねだりをするアリンカ。
他の者と違い、アリンカには殲滅力がない。
“剣聖”であるアリンカには一撃の破壊力はないし、唯一の魔法も上級以上でないと殲滅には難しい属性だ。
ノブナガも、アイディアが浮かばないので風魔法をサポートするアーティファクトは作っていない。
そう、『風魔法をサポートするアーティファクトは』である。
(まだ練習中だけど……使うしかない!!)
「来なさいっ、“天下五剣”!」
名前を呼び、アリンカは“ストレージ”から取り出した、それ。
赤、青、緑、黄、白。
それぞれ色の違う刀身のみの剣が、アリンカは守るように浮遊している。
突然、浮いている剣という如何にもヤバそうな物が出現し、アリンカを包囲していた騎士たちがギョッと動きを止める。
が、アリンカはそんな事に気付いておらず、5本の剣を操作する。
「《五剣・“魂攻”》!!」
アリンカがそういうと、5本の剣は魔力を纏われる。
次の瞬間、5本の剣は縦横無尽に駆け巡り、周りの騎士たちをバッサバッサと斬り倒していく。
その数を一瞬にして50人を斬れ伏した。
そのすべての者が傷1つなく倒れている。
「おいおい……なんだよ、それは……」
一瞬にして多くの仲間がやられた浮かぶ剣に、ガウルは力なく呟いた。
そうしている間にもまた5人、また10人と騎士たちは倒れていく。
浮遊剣型攻守混合アーティファクト“天下五剣”
操作は他の物と同じだが、その機能は多種に渡る。
剣と同じように斬撃する事も可能であり、重力魔法、空間魔法、精神魔法etcが“生成”された、攻撃にも防御にも使えるアーティファクトである。
機能を使う時は、剣を指定して唱える事で起動する。
しかし、5本同時に動かすというのは簡単に見えて難しい。
何せ処理能力を5つに分けなければならないし、さらに安定した精神が必要になってくる。
精神が少し荒れるだけで、“天下五剣”の動きは鈍くなる。
それでも、アリンカが“天下五剣”を操作できるのは、剣の扱いに卓越し、その技を磨いて来たからだ。
5本の剣を己が持つ剣と仮定し、自分ならこう振るうと考えずとも動かしているからこそ操れているのだ。
これは、製作したノブナガにも不可能な芸当である。
そうして、騎士たちが宙を駆ける剣に戸惑う内に、アリンカの周りで立っているのはガウルだけになった。
アリンカは“天下五剣”を操作するのに精一杯で一歩も動いていないというのに、すべての騎士が倒れた。
「ふぅ……後はあなただけよ」
「……チッ、結局1人でやる事になるのかよ……」
舌打ちをしながらハルバードを構えるガウル。
その顔は渋々ながら、何かを覚悟したような顔だった。




