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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
城塞都市ガラール編
57/123

黒いあんちくしょうな魔族

注:食事中の方には大変不快にさせる物が出てきます。胃の中が落ち着いた時に読まれる事を強くオススメします。


タイトルから察した人もいるでしょうが……そうです。奴です。書いてる途中でちょっと後悔した奴です。ウィ○ペディアの画像を見て、大いに検索した事を後悔させられた奴です。


興味がある人は検索してみてください。

ただ、本当に後悔するのでオススメはしません…… 作者より

 “隠形”で気配を消したノブナガとセバスチャンは暗闇の中をひたすら降りて行く。

 セバスチャンが“気配探知”を使って周囲を警戒し、ノブナガが“魔力探知”の[+特定探知]でトラップの類を警戒していた。

 いくらノブナガに“夜目”があろうと、この光が1つもない階段は厄介極まりない。


 慎重に階段を降りて行く。


 円状に降りる階段を降り終えると、ようやく蝋燭(ろうそく)の光が壁に並べられている空間に出てきた。


 左右には2つずつの上りの階段が、10メートルほど先にある正面には頑丈そうな扉があった。

 ノブナガとセバスチャンは目を合わせて、目線と身振り手振りで会話する。


 ノブナガが無言で「どれに行く?」と競歩のようなジェスチャーをする。

 それに対し、セバスチャンは視線を扉の方に向けて、となりの○トロのあるこーのような歩くポーズを取った。

 どうやら、次の行き先は扉の奥らしい。

 ノブナガが親指と人差し指で丸を作って、OKサインをする。


 ちょっと楽しそうなのは気のせいだろうか……?


 とにもかくにも、ノブナガたちは扉のある前までやって来る。

 “気配探知”で扉の向こう側に誰もいない事を確認し、静かに扉を開ける。

 扉の奥にはトラップの類はないようだ。


 扉を開いた先には、また細長い通路が続きており、左右には部屋らしきものが均等に並んでいた。

 ここも灯りは蝋燭のみで、少し薄暗く気味が悪い。

 とりあえず、その通路を進んで行く。


 誰の気配も感じないせいで、どこが重要拠点であるのか見当もつかないノブナガたちは、一番手前にある部屋を調べる事にした。

 部屋の中には資料がずらずらと並んでいる事から、きっとここは資料室になっている事が見受けられる。


 目線で会話し、何か情報になりそうな物を探る。

 セバスチャンが棚に並んでいる資料を探っている中、ノブナガは最近使われた形跡のある机の上にある資料に目を通していた。

 どうやら、例の魔法陣についてのレポートらしい。


 内容はこうだった。


 変造魔法。

 生物に干渉して、肉体を作り変えるという魔法らしい。

 その変化の規模はわからないが、肉体改造の実験の過程で作られた魔法だと書いてあった。

 その実験が始まったのは3年前。

 ネズミや牛などを使って研究されていたが、どれも動物の域を出なかったそうだ。

 直接的な改造を諦め、魔法による改造に切り替えた。

 そして、変造魔法にたどり着くまでに2年、今はその応用に取り掛かっているようだ。

 今は生物の形を変えるまでとは行かず、肉体を無視した力が引き出せるようになるので精一杯のところらしい。


「変造魔法……“錬成”が鉱物に干渉するスキルなら、“変造魔法”は生物に干渉する魔法、と言ったところか」


 ペラリとページをめくれば、そこには改良されてきた魔法陣が描かれていた。

 あの例の魔法陣も詳細と一緒に描かれていた。

 どうやら、特殊な音を起動キーとして起動するように設定されているらしい。

 ターゲットは音の波長や幅で伝えるのだとか。


「音?あぁ、そう言えば、あの時も奇妙な音がしてたな」


 その後に起きたSAN値が削られる体験のせいで忘れていたらしいノブナガさん。

 あの時の頭に響くような音がそうだったのだろう。


「ノブナガ」


 そこにセバスチャンが声を掛けてくる。


「どうした?」

「この文字、わかるか?」

「?」


 セバスチャンが手に持つ紙の束に目を向けるノブナガ。

 そこには確かに何か書かれていた。

 だが、その文字はどれも知らない文字で読むどころかどんな内容が書かれているかもわからない。


「大陸共通語じゃないな。何語だ?」

「わからん。これでも東の島国までの文字を学んだと自負していたが、私でもさっぱりだ」

「……アンタ、地味にすごいな」

「これでも隠密の天紋だからな。情報を得る為に必要な事だ」

「そうなのか。これが終わったら俺にも教えてくれ」

「任せろ」


 なぜかサムズアップし合う2人。

 やっぱり、楽しそうである。


「わからない文字はそれだけなのか?」

「あぁ。他のは目ぼしい物だけ目を通してきた」

「どうだった?」

「一般的にある魔法の類や動物に関する物しか無くてな。特にこれと言った物はなかった。この地下の地図ぐらいはある物だと思っていたが、それすらなかった。そっちはどうだ?」

「こっちは、例の魔法じーー…………」


 急に言葉を止めるノブナガ。

 “気配探知”に引っかかったのだ。

 セバスチャンもそれに気づき、扉の方に視線を向けている。

 “気配探知”には、こちらに近づいてくる1つの気配を捉えている。

 目で物陰に隠れるように指示をする。


 音もなく物陰に移動したノブナガたちは“隠形”を全力で発動して、気配を消した。


 コツンコツンという音が扉の奥の通路に響いて伝わってくる。

 そして、ノブナガたちが潜んでいる部屋の扉が開かれる。


 妙に鮮明に響く扉の音。

 しかし、入ってきた者が扉の前から一向に動こうとはしない。

 ノブナガとセバスチャンが眉を顰める。


 瞬間、声が響く。


「すごいですね。気配をまったく感じません」


 そんな独り言のような言葉。

 しかし、ノブナガたちの背中に冷たい汗が流れた。


「いるのはわかっているのですよ。早く出て来てはくれませんかね?僕は気が短い方なので」


 ノブナガとセバスチャンが視線を合わせる。

 2人の思考は一致していたらしく、すぐに物陰から出て資料があった机の前まで姿を現した。


 扉の前に視線を向けると、そこにはメガネをかけた修道服姿の男が立っていた。

 これと言った特徴のない平凡な顔。

 しかし、その笑みは並々ならぬ黒いオーラを感じる。

 ノブナガたちの警戒心が跳ね上がったのは言うまでもない。


「よくぞここまでたどり着いた、と賞賛しておきましょう。まさか、この地下が気づかれるとは。やはり、“バーサーカー”を使ったのは失敗でしたか」

「“バーサーカー”……それはこの魔法陣の事か?」


 机に置いてあった資料を手に取り、その男に問いかけた。

 それを見て、男は少し驚いたような顔を見せる。


「ほぉ〜、その魔法陣がどのような物なのかご存じなのですね。そうです。それが“バーサーカー”です」


 ノブナガの目に殺気が宿る。


「これを一般人の体内に仕掛けたのはお前か?」

「おぉ、恐い恐い。ものすごい殺気だ。その問いはイエスです。僕が作り、僕が仕掛けました。そうだとすれば、どうするんです?」


 ノブナガ、それにセバスチャンの殺気がぐんと増した。

 ノブナガは“ガンゼール”、セバスチャンは剣を一瞬で抜いて構えた。


「お前をぶっ潰す。俺たちはその為にここに来たんだからな」

「貴様は生かしておかん。塵1つ残さず消し去ってやる」


 少し違うが、2人の殺気が本物である事が伝わってくる言葉である。

 そんな殺気を前に、男は飄々とした態度を崩す事なく言う。


「随分殺気立った方たちだ。しかし、そう簡単に僕を倒せますかね?」


 眉を顰めるノブナガたちだが、ここに向かってくる気配がない以上、一気に畳み掛ければこちらのものだ。


 そう思い、ノブナガたちが攻撃しようとした瞬間だった。


 カサ、カサカサカサカサッ


 そんな生理的嫌悪感を覚える音がノブナガとセバスチャンの耳に入っていた。

 その音に無意識に身体を震わせるノブナガたち。


 暗くはあるが、壁に設置された蝋燭の火があるのでまったく光がないわけではない。


 それゆえに、見えてしまった……


 目尻に映るモノを。


 2人揃って蒼褪め、他人には決して見せられない顔になった。


 奴だ。

 影から影へと一瞬で移動し、強力な生命力と増殖力を持って人々に混乱のバッドステータス与えるあんちくしょう。

 名前を呼ぶ事すら不快にさせる事から人々にGと呼ばれる飲食店と主婦の宿敵。

 英語で言うなら、コックローチ。


 その名もーーーーゴキブリ。


 それが目尻に見えただけでも数えられないほど、周囲を見渡せば更なるGがいる。

 ノブナガとセバスチャンのSAN値が大きく削られたのは言うまでもない。

 さっきまで放っていた殺気が一瞬にして萎んだ。


「僕の(しもべ)です。この数……中々の狂気でしょう?」

「お、おおおおお前……もしかして、魔族か……?」

「驚きました。我々魔族の存在をご存知だったとは。その通り、僕は魔族です」


 本当に驚いた顔でノブナガを賞賛する男。

 ノブナガはGにSAN値を削られまくって、まったく聞いていないが。


 男が魔族としての姿を見せる。

 額からピコピコする2本の触角、つやつやでテカテカの茶色かかった全身。

 大ヒットした某漫画を思い出さずにはいられない姿だ。

 生理的嫌悪感は拭いきれないが。


「さて、もうそろそろ終わらせるとしましょう。やってしまってください」


 黒いあんちくしょうな魔族の男がそう指示を出すと、周囲のGたちが羽を展開し始めた。

 ノブナガたちの顔が青を通り越して青白くなった。

 どうやら、次に起こる事を想像しちゃったらしい。


 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴッ


「「ッ!?」」


 周囲一帯から羽を打つ音が一斉に聞こえてくる。

 瞬間、宙に舞い上がる黒い物たち。


「ーーーーッ!!!!」


 ノブナガとセバスチャンが声にならない悲鳴をあげたのは言うまでもない。

 それでも、対処できた辺りはまだSAN値が残っていたのだろう。


 ノブナガは“結界構築”で自身とセバスチャンを覆うように結界を展開。

 すぐさま魔法を詠唱する。


「雷・爆ける・放電!ーー“エレキ・バイト”!10門!!」


 [+省略詠唱]で[+並列発動]された“エレキ・バイト”は結界を中心に放たれた。

 夥しい数の電撃が部屋の中を駆け、部屋に蔓延っているGたちを感電死させてた。


 あのゾッとするような足音も羽音も聞こえてこない。

 ノブナガたちはホッとした様子で胸を撫で下ろした。


「ほぉ。あの数を一撃で仕留めてしまいますか。お強いのですね」

「うるさい。お前がゴキ……Gの魔族なのがわかった以上、ここでお前を倒す」

「ほう。それは、楽しみですね!」


 瞬間、G男がぐんと踏み込んでノブナガたちに襲いかかり、その発達した腕を振るってくる。

 しかし、その拳はノブナガが展開した結界を壊す事が出来ずに男と一緒に後方に跳ね返した。


「……不可視の盾ですか」

「炎風・燃える渦・巻わる業火ーー“フレイム・トルネード”!!」


 直後、部屋の中に炎の風が荒れ吹く。

 部屋中にあった資料や机、それに棚、そして地面に転がっていたGの死体の全てを燃やした。

 結界内にいたノブナガとセバスチャンはともかく、G男も無事では済まないのだが、なんと両腕を顔辺りでクロスさせて耐えていた。


「この魔法は僕も知りませんね。あなた、一体何者ですか?」

「それを答える気は無い」

「そうですか。なら、仕方ありませんね」


 G男はそう閉めると、口から野球ボールほどの大きさの泥のような物を勢いよく吐き出した。

 だが、それもノブナガの結界に阻まれた。

 のだが、それが着弾した瞬間、着弾した部分の結界が腐ったように崩壊していき、結界の一部に穴が空いた形となった。


「っ、なんだ今のは……」

「僕のスキルの1つですよ。“腐蝕”と言って、あらゆるモノを腐らせて壊すスキルです。面白いでしょう?」

「……それは確かに笑えるな」


 もし、G男が言っている事が本当であれば、スキル“腐蝕”はどんな防御力があろうとそれを無視して崩壊させる事ができる強力な矛だ。

 守り手に回されるては完全に不利になる。


「セバス、攻めるぞ。前衛を頼む。援護は任せろ」

「わかった」


 一瞬にして話し合いを終えたノブナガたちは、各々の武器を構える。


 次の瞬間、またG男がぐんと踏み込んで迫ってきた。

 今度は両手にあの泥のような物を纏いながら。

 ノブナガは結界を解除して、後方に下がる。

 セバスチャンは逆に前に躍り出た。


 援護を任されたノブナガは下がりながら両手に持つ“ガルゼール”をG男に向かって発砲する。

 不可視ゆえにその風弾を諸に喰らい、迫る勢いを止めた。

 そこにセバスチャンが地面すれすれから攻め込み、剣による振り上げを放つ。


 それをG男は左腕を盾にして防ぐ。

 G男の肌は硬いのか、セバスチャンの斬撃は少し傷を付けるだけで終わってしまった。

 振り上げ終えたセバスチャンにG男の右腕が迫り来る。

 “腐蝕”が纏われているので、絶対に触れられるわけにはいかなかったセバスチャンは身を捻って躱す。


 セバスチャンの腹部辺りの服からシュゥという音が鳴り響くなら、セバスチャンはそれに気にした様子もなく後退する。

 追撃を仕掛けようとするG男をノブナガの風弾で足止めする。

 さっきのように命中する事はなく、額の触角をピコピコ動かしたかと思うと、不可視の弾を躱してしまった。

 どうやら、風の動きを触角で感知したらしい。


 躱し終えたところにセバスチャンの短剣が投擲して隙をついた。

 のだが、G男は投擲された短剣に向かって拳を振るった。

 瞬間、打撃を受けた短剣はパリンッという音を立てながら砕かれてしまった。


 短剣を砕いたG男は翼を広げ、はためかせる。

 ブゥゥゥゥヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴという嫌悪感を覚える音を立てながら宙に浮いたG男は風を叩いて高速でセバスチャンに接近する。

 その速度に驚きながらも、迫り来るG男の拳を転がり込んで回避。

 と同時に、通り過ぎたG男に向かって短剣を投擲する。


 が、すでにG男はそこにはおらず、空を通り過ぎるだけで終わる。

 どこへ行ったからと視線を巡らせれば、G男はすでにUターンしてセバスチャンに迫っていた。

 すごい速度の接近に、今度こそセバスチャンは反応できなくなる。


 振るわれてきた拳に合わせ、セバスチャンは剣を振るう。

 剣が拳に纏われた“腐蝕”に触れ、次の瞬間には音を立てて砕かれてしまった。

 だが、それでも一瞬の隙を作る事ができた。


 拳が自分に届く前に転がり込み、どうにか回避するセバスチャン。

 しかし、剣を犠牲にしても完全な回避とはいかず、セバスチャンの右腕部分の服がシュゥゥという音を立てて崩れ落ちた。

 今回は服だけとはいかず、微量ではあるが右腕にかかってしまったようだ。


「くっっっっっ!」

「セバス!!」


 右腕を抑え、蹲るセバスチャン。

 そこに追い打ちをかけようとするG男。


「チッ」


 舌打ちを1つしたノブナガは飛んでいるG男に一瞬で接近する。

 急に現れたノブナガに驚いたG男は動きを止めて硬直してしまう。

 そこにノブナガが“豪腕”を発動させた右腕で顔面をぶん殴る。

 硬い肌を一瞬で打ち砕き、冗談のように飛んでいくG男。

 壁に衝突すると同時に壁をぶち破り、そのまま壁の向こう側へと消えてしまった。


 それを確認し、ノブナガはセバスチャンに駆け寄る。


「大丈夫か!?」

「あ、あぁ……大丈夫だ。それよりもっ、奴を……!私の事はいいからっ」


 顔いっぱいに脂汗をかいているセバスチャン。

 しかし、それでも行けという意思を目で伝えて来る。

 そんなセバスチャンのタフさに感心しながら、“ヒーリング・リング”を腕に付けるノブナガ。

 回復魔法が“腐蝕”にどれほど対抗できるかわからないが、しないよりかはマシだろう。


「回復魔法を付けたアーティファクトだ。すぐ終わらせて来るから、そこでジッとしたろ」

「す、すまん……」

「謝罪なんていらねぇよ。とっとと終わらせて来るから待ってろ」


 そう言って立ち上がるノブナガ。

 “ガンゼール”を“ストレージ”に仕舞い、代わりに棺型の盾を取り出した。


 そして、壁の向こう側へと足を踏み入れる。

 瞬間、風を切って迫って来る黒い物。

 それを“金剛”を纏った盾で防ぎ、さらに“盾術”の派生スキル[+衝撃反射]を発動させて吹き飛ばした。

 壁に衝突する重たい音が響き渡る。


 チラリと部屋を見渡せば、階段を降りた時にたどり着いた部屋である事がわかった。


「かはっ……あなたは、本当に何者なのですか?人間とは思えない」

「普通の人間かと問われれば違うが、人間族なのは間違いないぞ。ちょっと特殊なだけだ」

「ちょっと、というレベルではないでしょうっ!」


 ブンッという音を立て、ノブナガに迫るG男。

 その速度は圧力を感じるほど速いが、ノブナガからしてみればなんの脅威もない。

 突き出される拳をただ左手に持つ盾で受け止めるだけだ。


 さっきと同様に[+衝撃反射]で吹き飛ばそうかと思ったノブナガだったが、G男の左拳が振るわれ、また右拳を振るって連撃を繰り出して来る。

 空気が破裂する音が幾度と響くが、ノブナガは一歩も引く事なく受け止め続けている。

 そして、連撃の中で大きく振りかぶられた瞬間、今度はノブナガが右拳を振るう。

 大きな隙をついたノブナガの拳はG男の左腕を殴りつけた。


 なんの強化もなされていなかったが、それでもG男が怯むには十分な膂力。

 そして、砕くには十分な力だった。


 パンッ


 風船が割れたような、そんな間抜け音がG男の左腕から聞こえてきた。

 目を向けてみれば、そこには肘から先が失くなった自身の左腕があった。

 自身の腕が、まるで割れたガスのような破片へと変わっていたのである。


 “格闘術”の派生スキル[+振動粉砕]である。


 粉々に砕かれた腕を見て、一瞬の硬直を見せるG男。

 しかし、次の瞬間にはニヤリと口元を歪ませ、口から“腐蝕”の弾を吐き出した。


 この至近距離。

 命中するのが確定された距離で、このままノブナガに命中すればそのままG男の勝ち。

 もし盾で塞がれたとしても、“腐蝕”によって使い物になった盾ではG男の連撃を凌ぐ事は出来ない。

 その思考を、この一寸で完了させた必勝の手。


 なのだが……


 この怪物の前には、そういう小細工が通じないのだ。

 残念ながら……


 G男から吐き出された“腐蝕”の弾を盾で防ぐノブナガ。

 しかし、G男が思い描いた通りに盾が崩壊しない。

 ただの弾のように受け止め、無傷で耐え抜く盾。


 そんな盾を前に、目を点にして固まったG男。

 そんなG男に向かって盾の薙ぎ払いを放つノブナガ。

 超重量の盾を鈍器のように振るわれたG男は、全身の骨をバカバキバキという生々しい音を響かせながら吹き飛んだ。

 壁に衝突した際にも骨を粉々にしたG男は痛みで意識を落とす事も出来ない地獄を味わった。


「かがっ……な、なぜ僕の“腐蝕”が効かない……!」

「この盾は珍しい鉱石を使って作っていてな。魔力を使った攻撃を弾いてくれるんだよ」


 断魔鉱石。

 魔力を弾くという珍しい効果を持つ鉱石で、初級魔法程度なら簡単に弾く。

 その効果を持つ鉱石を使った盾だからこそ、“腐蝕”の効果を弾いたのだ。

 さすがは、“金剛”もあったにせよ、ドラゴンのブレスを耐え抜いただけの事はある。


「かはっ……こほっ……ば、化物め……」

「あんちくしょうな魔族のお前だけには言われたくない」


 そう言って、ノブナガは詠唱する。


「聖なる炎よ・その火は光を照らし・闇を払う灯火・なれど慈愛の業火であり・触れるものすべてを灰燼に還らん・不死鳥は踊る・翼をはためかせ・真悪なる罪を焼き払わん・死にゆく業火を汝にーー“ノヴァ・フレア”」


 直後、ノブナガの右手に小さい炎が出現する。

 丸く轟々と燃えるその炎は、まるで太陽のようにも思える。


 ノブナガが右手を動かせば、その炎が倒れているG男に近づいて来き、接触する。

 瞬間、カアァと光が爆ぜ、G男の身体を白い炎で燃やし始めた。

 身を焼く炎を消そうと転げ回るG男だったが、一向に消える事はおろか収まる様子を見せない。

 まるでG男に罰を与えているかのように、周囲のものに燃え移る事なくG男だけを燃やし続けている。


 炎の最上級魔法が1つーー“ノヴァ・フレア”。

 術者が指定したモノのみを焼く、制裁の炎。

 指定したモノ以外は消して焼かず、指定したモノにはその身が失くなるまで燃やし続けるという、ノブナガが最近覚えた唯一の最上級魔法である。


「お前は罪無き人たちを傷つけた。それがお前の罪だ」


 未だに燃え続けているG男から視線を逸らし、踵を返すノブナガ。

 セバスチャンを迎えに部屋を後にする。


 その背後では、もう暴れる力も無くなったG男が最後を迎えた。

 最後に残った物は何もない。

 まるで、最初から何も無かったかのように。


 その消滅を背にして歩くノブナガ。

 実は内心「人生で1度は言ってみたいランキング」の1位が言えた事にすごく喜んでいたりする。



 ……この後、ノブナガのステータスの天紋欄に“蜚蠊(ゴキブリ)”というのが追加されていた事に気付いたノブナガがステータスプレートを全力でぺいっしたのは、また別の話だ。

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