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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
城塞都市ガラール編
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49/123

密かに培われた厨二

投稿予約が1日ズレてました、マジすいませんでしたm(_ _)m

 城塞都市ガラール連続殺人事件。

 約1ヶ月前から始まったその事件は、解決の目処どころか犯人の目星すら付けられていない状況。

 日に日に警備の騎士のパトロールが厳重になるが、それでもこの状況を打破できていない状態である。

 今まで被害者の数は、未遂のターサを含めて6人。


 最初の被害者は“錬成師”の男性(39)。

 現場は被害者が都市の北地区で経営していた武器屋の裏路地。

 店の裏口から出てきたところを襲われたのは間違いないらしい。


 2人目は“家事師”の女性(25)。

 東地区の裏路地で発見された。

 近くに野菜や果物が転がっていた事から、買い物をした後に殺害されたと見ていいだろう。


 “薬剤師”の女性(17)が南地区で、“作農師”の男性(43)は西地区、“魔導師”の女性(55)は北地区で襲われた。

 そして、昨夜に東地区で襲われたのが“調理師”のターサである。


 共通点は時刻が夜であり犯行は裏路地で行われている事。

 被害者同士には非戦闘系の天紋である以外の共通点もない。

 犯人の動機も目的も不明。


 この情報だけで犯人を特定するのは不可能だ。


「それが警備騎士たちの持ってる情報だ」

「……そうか」


 カウンターの向こうにいる髭を生やしたおっさんがそう言うと、ノブナガは出された酒のコップを回しながら答える。

 カウンターに座ってコップを指先で回す姿は、まるで映画のワンシーンのようだ。

 ノブナガが酔っているのは間違いないだろう。

 もちろん、酒にではなく自分に。


 現に隣に座っているザンはテーブルに両肘を突いて指を軽く組み、そこに鼻まで埋めるような姿勢をしている。

 完全に新世紀の司令官である。

 ツッコミ不在の為、誰もツッコんで来ない。



 どうして、ノブナガたちが(自分に)酔っているのかと言うと、十数分前に遡る。



 裏路地に入り、情報収集を開始したノブナガたち。

 そこに集まっている後ろ暗い奴や盗賊、そして酔い潰れている騎士に問いただしていった。

 時に(物理の)お話を交え情報を聞き出したノブナガたちであったが、ふわっとした情報しか聞けなかった。

 さすがのノブナガたちもどうしたものかと頭を悩ませてしまった。


 そんな時だ。

 裏路地にひっそりとあった酒場を発見したのは。


 裏路地に扉があり、看板も小さく吊るされていた店はまるで敢えて目立たないようにしているかのようにも思える。

 そんな酒場を見たノブナガたちは内心で呟いた。


((なんか情報屋が居そうな酒場だなぁ))


 と。

 口には出していないが、確かにノブナガとザンの心の呟きはシンクロした。

 そんな如何にもな酒場に惹かれたのか、入ってみるかと提案したノブナガに頷くザン。


 扉を開けて入ってみればーー


((なっ、なんてテンプレな酒場なんだ!!))


 2人のテンションがアップアップした!

 フードで隠れている目がキラッキラしている!!


 薄暗い室内、カウンターの向かいの壁に並べられたお酒の数々、そしてカウンターの中でグラスっぽい何かを拭いているマスターらしき人物!

 店の雰囲気がっ、情報ありますと言っているかのようなテンプレ度だ!!


 この時からノブナガたちは(自分に)酔った。


 ノブナガはカウンター席に座るなり「1番強い酒を」と言い出すわ、ザンはザンでノブナガを親指で差しながら「連れと同じ物を」とか言い出す。

 ちなみにだが、ノブナガには“毒呪耐性”があり、ザンに至っては肉体を制御できる。

 どんなに酒を飲もうが、ノブナガたちは酔う事はない。

 自分には酔うようだが……


 認識阻害のフードを被っているおかげで、年齢がわからないようになっている事もあり、酒はマスターが無言でテーブルを滑らせて出してくれた。

 それを見て、さらにノブナガたちのテンションはアップした!


 そのテンションで一気に酒を飲み干す。

 チラッと視線をマスターへ。


 笑っていらっしゃる!

 テンプレマスターが口端を釣り上げながら笑っていらっしゃるよ!!


 テンプレ従って、連続殺人事件の情報があるかと問う。

 それに「いくら出せる?」と言われた時はさらにテンション上げ上げだった。

 大銀貨1枚をチラッと見せれば、すぐに情報を出してくれたテンプレマスター。


 その情報が冒頭のもので、被害者と現場の情報は手に入ったものの犯人に関する情報は一切なかった。

 警備の騎士自体が目星を付けられていないのだから、仕方がないといえば仕方のない事だろう。


 しかし、テンプレマスターにはご満足なノブナガさんたち。

 大銀貨を1枚指で弾き、マスターへ渡した。

 書類となっている袋を受け取るとそのまま酒場を後にする。


 一旦裏路地を出、小通りを歩く2人。


「連続殺人事件、どう思う?」

「被害者間で共通点が見当たらないって事は、無差別に襲っている可能性が高いんじゃないかな?」

「だよな。となると、犯人を捕まえるには現場での直接戦闘になる」

「被害者の現場の順番から考えて、次は南地区?」

「昨夜のターサさんが失敗に終わった。もしかしたら、また東地区で行われる可能性だってある」

「あー、そっかー。被害者の方じゃなくて、殺人する場所にルールがあるって事かー。どうする?」

「今夜から東地区と南地区を張ろう。周期がバラバラな以上は、今日から見張る必要があるだろうし」

「そうだねー。見張りは誰がするの?」

「俺の分身でいいだろ?さすがに来るかもわからない警戒を何日も続けるのはキツいしな」

「おぉー、確かに。ノブちゃんのスキルを今初めて便利だと思ったよ」

「それじゃあ、今まで何だと思っていたんだ……?」

「それはー、ほらアレだよ。アレ」


 ザンの目がわかれ、とノブナガに訴えかける。

 その瞳の奥が、便利というより過剰なんだよ、と言っているが明白である。

 分が悪いと察知したノブナガはササッと歩く速度を上げていった。


「あ、待ってよ、ノブちゃーん」



 **********************



 裏路地を出て、ノブナガたちが向かったのはターサが開いている喫茶店ーー“レプラン”にやって来た。

 ターサを見張っているエリーナたちと合流する為もあるが、昼時にも関わらず昼食はまだだったりする。

 ついでにレプランで済ませようと思っているのだ。


 そんなこんなで、レプランに到着したノブナガとザンは認識阻害のフードを外してから店内へと入って行った。


「いらっしゃい……ま、せ…………」


 ノブナガたちが店内に入ると、フリッフリのエプロンを着た店員が満々の笑みで迎えてくれる。

 が、それも最初だけ。

 店員がノブナガとザンだと認識した瞬間、声が萎んで顔が硬直。

 まるで石化の呪いを受けたような硬直力だ。

 その顔は「見られたくない人に見られた!?」と雄弁に語っていた。


 一方、そんな店員を見てノブナガたちも硬直状態。

 否、そんな店員の格好を見て、硬直していた。


「アリンカ……お前、何やってんの……?」


 そうっ、何を隠そうノブナガとザンを出迎えたのはフリフリなエプロンを付けたアリンカだった!

 フリッッフリなエプロンを付けたっアリンカさんである!!


 青と白のエプロンを付け、アーティファクトによって変わった黄緑髪を後ろで一括りにして靡かせているアリンカの姿はキュートな上に可憐さも感じられる良さがあった。

 が、今はその良さも石化のように固まった姿で台無しだが……


「あ、ノブナガさん!」

「か、カレン……お前もか」


 しばらく3人で見つめ合っていると、アリンカの後ろからカレンがやって来た。

 ピンクのフリルエプロンを付けた状態で。


 ただ、カレンが持っているトレイを目にした事で大体察ったノブナガたち。


「お店の手伝いをしてたのか?カレン」

「はいッス!ただ見張っているだけじゃ、退屈だったんスよ。それより、このエプロンどうッスか?」

「似合っててすごく可愛いよ、カレン」


 ザンが親指を立てながら言う。

 小さい身長も相まって、ピンクのフリルエプロンがカレンの愛らしさを増幅している。

 これが愛娘なら、親バカを発動させざる得ないだろう。

 思わずサムズアップしてしまうのも納得の愛らしさだ。


「あぁ、すごく似合ってる。アリンカもな」

「ッ!?」


 未だに固っているアリンカにそう言った瞬間、硬直していた身体がビクッと反応する。


「なななな、なひぃいてしゅの!?」

「アリちゃん、カミカミだよ?舌大丈夫?」

「あと顔も赤いッスよ?熱ッスか?大丈夫ッスか?」

「ななななな、なんでも無いわよ!本当に!何でも!!」


 腕をオロオロさせながらも、口をパクパクと高速で動かすアリンカ。

 まるで、そういう風にプログラミングされたロボットのような動きである。


「あのー、アリンカ。周囲の目が痛いから早く席に案内してくれないか?他のお客さんからの視線がすごい集まってきてるから」

「あ…………こほんっ。か、カウンター席でいい?」

「あぁ、頼む」


 そろそろ周囲の視線が痛くなってきたノブナガの言葉で我に返ったアリンカはとりあえずと案内する。


「あら、いらっしゃい」

「ノブナガさんっ。戻られたんですね」


 ノブナガたちが席に座るとカウンターの向こうではターサが紅茶を、エリーナが料理を担当して動いていた。

 どうやら、エリーナは厨房を任されたらしい。


「はい。連続殺人犯について、調べてきました」

「……あの、本当に無理しないでね?」

「?無理、ですか?」


 不安そうな顔になりながら言うターサ。

 ノブナガも含め、それを聞いていたエリーナやザンも「何が?」とでも言うかのように首を傾げる。


「犯人って、“暗殺者”なんでしょ?非戦闘系の天紋じゃ殺されちゃう」


 低級紋“暗殺者”。

 魔法が使えない事から低級紋として認知されているが、習得できるスキルは厄介なモノばかり。

 “暗殺者”の有名な“分身”もそうだが、目立たず厄介なのが“隠形”である。

 “分身”のような派手さはないが、技量次第で相手の背後を確実に取れる“隠形”は暗殺に持ってこいのスキルだ。

 魔法なしでの戦闘であれば、“暗殺者”は中級紋にも渡り合える。

 そんな天紋である。


「まぁ、大丈夫です。確かに“錬成師”は非戦闘系ではありますけど、工夫すれば戦闘系とも戦えます。それに、俺とザンで作ったアーティファクトもあるんで問題ないです」


 黒装束に襲われた際に負った傷を癒す為に“ヒーリング・リング”を使ったので、アーティファクトの事はノブナガとザンの合作だと説明している。

 正確に何があるとは言っていないが、この年代の子供数人が旅できるほどのアーティファクトがある事は、アーティファクトに詳しくないターサでもわかる事だ。


「私は、子供を危険な目に合わせたくないの」


 そう呟いたターサの目は、どこか遠くを……昔を思い出すような目だった。

 その目を、ノブナガもエリーナもザンも確かに目にした。

 踏み込むべきかと考えるノブナガ。


(いや、やめておこう)


 ターサはノブナガが偶然にも昨日助けた人に過ぎない。

 ベリンのように関係を深める為に踏み込む必要があったが、ターサには関係を深める理由がない。

 帝国と敵対しているノブナガたちと親交を深めてしまう方が、ターサにとって迷惑で危険な事である。

 だから、ノブナガは聞く事をやめた。


 ノブナガがそう決めた時、お店の入り口が騒がしい事でふと我に返る。

 自然と視線を向けた扉の方では、軽装している騎士たち3人が立っていた。

 それを警戒しながらも席に案内するアリンカ。

 騎士たちの視線はずっとアリンカに固定されたままで、周りの事など一切視界に入っていない様子だ。


 ノブナガたち“奪還者”はなんともわかりやすい騎士にため息が漏れそうな中、ターサやお客さんは怯えるように気配を消している。

 周囲の反応を敏感に感じ取ったノブナガは、都市民と騎士との間柄を理解した。


 今でも喫茶店に相応しくない騒がしさだが、実害がない今は様子を見ようと考えるノブナガ。

 しかし、次の瞬間にはそんな思考の時間が無駄になった事に、ノブナガの額に青筋を静かに浮かぶ。


 何が起こったかというと、注文を取りに行ったアリンカの腕を掴んで言いよるという実害。

 様子見を決め込もうと思った瞬間のこれである。


(ホント、この都市の騎士共はどうなってやがるんだ……この都市、もうダメかもしれない……)


 呆れというよりも疲れた顔をするノブナガ。

 3人がアリンカを囲んだ瞬間、ザンとカレンが動き出そうとしていたのでその前にノブナガが動く。

 アリンカ1人でも対処はできるだろうが、騎士たちの場合、逆怨みが起きないとも限らないからだ。

 まぁ、ただの鬱憤ばらしとも言う。


「おい、アンタら。それぐらいにしとけ」

「あぁあ?何だよ、ガキィ?」


 騎士たちの近くに歩み寄ってそう言うと、ようやくノブナガの存在に気づいて振り向く騎士たち。

 威圧のつもりなのか、ノブナガを上から見るように顎を突き出している。

 本人にまったく威圧感を感じないので、すぐにやられるモブのようにしか見えないが。


「ここは喫茶店だ。店員にちょっかいを出していい場所じゃねぇよ。さっさと帰れ」

「ガキが頑張ってホザいてんじゃねぇ。痛い目見たいか、あぁん?」


 1人の騎士がノブナガの胸倉を掴み上げる。

 身長差のせいで、ノブナガの足が地から離れる。

 そこからメンチをきってくるが、やはり威圧感がないので、残念なモブようにしか見えない。

 自分を掴み上げている騎士をジト目でしか見る事が出来なかったノブナガ。

 胸の中に溜まったため息を吐く。


 次の瞬間、「よく素でそれほどのモブができるな。ドラマのエキストラの仕事すれば?」な騎士が吹き飛んだ。

 ヒュンッという風を切る音を立てながら後方へ吹き飛ばされた騎士は、誰も何も巻き込む事なく壁へ。

 壁に蜘蛛の巣のようなクレーターが作り出され、吹き飛ばされた騎士は口から白い泡を出しながら白目を剥いていた。

 よく見ると、騎士の胸元の軽装に24センチほどの足跡がクッキリと付いていた。


 もちろん、その足跡はノブナガのものである。

 ぶら下がっている状態だったし丁度いいや、みたいなノリで放たれた前蹴りが軽装を凹ませながら騎士を吹き飛ばしたのだ。

 当の本人は蹴った瞬間に胸倉を離されたので、何事もなかったように着地しているが。


 他の2人の騎士はもちろんの事、その場にいた全員がポカーンとしていた。

 突然起こった出来事を処理できていないようだ。

 と言っても他の“奪還者”たちは「あーあ、壁が凹んじゃったよ」みたいな目でクレーターの出来上がった壁を眺めている。

 彼らはもう慣れてしまったようだ……


「もう一度言う。帰れ」


 残った騎士に視線を向け、威圧を放ちながら言う。

 さっきのモブの威圧モドキとは違う、本物の威圧。

 騎士たちは強力な圧力にかけられたかのように身体を硬直させる。

 ダラダラと流れる汗が止まらない。

 本能が逃げろと警告を鳴らしてくる。


 しかし、騎士たちはプライドが高かった。

 非戦闘系の子供に恐れ慄いたなど認めない、という気持ちが騎士たちの心の中をぐるぐる回る。

 生きる事に執着がある者はプライドなんて気にせずに本能の警告を受け入れるだろう。

 力の差を感じた者なら尚更。


 が、その力の差を一撃では測れなかったようだ。

 騎士たちのプライドの方が勝ってしまった。


「舐めんじゃねぇぞ!ガキィィイイイ!!」


 1人の騎士が腰に携えた剣を抜き放ち、ノブナガに襲いかかる。

 剣のリーチを利用し、騎士はノブナガの腕の間合いの外から剣を振るった。

 いくら大人を吹き飛ばす力があっても、当たらなければ意味はない。

 激昂に駆られながらも、堕ちても騎士なのか、考える頭は残っていたようだ。

 その判断は間違っていないが……悲しいかな。


 ノブナガというバケモノに想定内などという言葉は通用しないのだ。


 騎士の剣がノブナガを斬り裂こうとした瞬間、またもやヒュンッという音とともに吹き飛ぶ騎士さん。

 さっき同様、壁にクレーターと口から白い泡を吐きながら白い目を剥いている騎士が出来上がった。


 何が起こったかわからない残った騎士はノブナガに視線を向けてみると、その手に何か握られている事がわかった。


 グリップから筒のような物が伸び、グリップ部分には指を掛けるような物が付いた形状の物。

 さすがの“奪還者”たちも首を傾げる中、ザンだけが戦慄を覚えていた。

 女の子してどうかという顔をしながら。


 そう、何を隠そう。

 剣と魔法のファンタジー世界でやってはいけない、作ってはいけない現代兵器ーー“銃”である。


 汎用型拳銃アーティファクトーー“ガンゼール”。


 マガジンを模して作った魔力結晶に属性魔法の術式を“生成”し、トリガーを引く事で魔法が発動する仕掛けだ。

 今回、ノブナガは殺傷性のない風魔法“エア・バレット”を放つ事で剣を振るった騎士を吹き飛ばしたのである。

 本物の銃のように銃弾が出る事はない。

 そこは、ノブナガも自重したと語った。

 一体、どこを自重したと言うのか……


「こ、この野ーーーー」


 ノブナガが持っている物が何かはわからないものの、ノブナガが攻撃した事はわかったようで短剣を抜き放とうと腕を腰に回した。

 が、腰に帯剣されている短剣を掴む前にノブナガがもう一度ガンゼールの引き金を引いた事で吹き飛んだ。

 3人仲良く泡を吹いて白目を剥いていらっしゃる。


「あー、壁にヒビが入ってしまった……」


 吹き飛ばした張本人がボソリと呟く。

 内心、騎士を仕留めた後の始末が面倒なのはどうにかならないものか、とため息を吐くノブナガさんであった。




 そして、その夜ーー


 ノブナガの分身1体が黒装束によって殺られた。

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